表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に佇む者たち  〜柳谷清司の怪奇録〜  作者: 風月
サイキック・ケースワーカーズ 結成譚
24/29

8章「終局」

 地面を蹴って間合いに踏み込み、


「——っらぁっ‼」


 発声とともに、清司は目の前の化け物に横薙ぎの斬撃を打ち込む。


 人の皮をかぶった蛇の姿をしたそれは、裂けた口から細い舌を覗かせながら、鱗の生えた人の腕と、指から伸びる細く鋭い爪で防いだ。


 次の瞬間に来るであろう反撃を見越して、清司は素早く後ろに飛び退く。


『ああぁ〜お前はぁ〜かたぁいぃ〜』


 化け物はそう言うと、息を深く吸い込んだ。


 清司は危機感を覚え、どちらにも動ける姿勢を取る。


 そのタイミングで、ごうっという音とともに化け物の口から青い火炎が吐かれ、目の前に迫る。


 咄嗟に身を翻し、康樹のいない中央へ避けた。


(さらに化け物らしいじゃねえか)


 清司は胸中でそうつぶやくと、化け物が炎を吐き終わるか否かのタイミングで、化け物の懐に飛び込んだ。


 刀を上段に担ぐようにして構え、低姿勢で加速してからの飛び込みの一撃。


 それは化け物に届き、左肩から右腰にかけて、袈裟に斬撃が入る。


『きええエエええ‼』


 耳障りな悲鳴を上げ、化け物がのけぞった。


「うおおおおおっ‼」


 清司はここぞとばかりに、全力で連撃を繰り出していく。


 最後に大きく逆袈裟に一閃し、距離をとった。


 化け物は人の皮が切り刻まれ、ぼろ切れをまとったような状態だ。


『ふぅ〜、許さぬぅ〜許さぬよぉ〜』


 そう言って、残った腕で残りの人の皮——頭、胸、足を引きちぎっていく。


 引きちぎられたそれは、そこらに無造作に捨てられ、嫌な音を立てた。


 清司にとって、かなり不快に映るその行動を終えると、化け物は蛇の上体を持ち上げ、チョロチョロと舌を出す。


『男だがぁ〜お前のぉ〜皮をつこうてやるぅ〜』


 化け物は、言うと同時に、今までの比ではない速度で距離を詰めてきた。


「っ!」


 思わず反応が遅れる。


 ギリギリで身を捻って躱し、向き直ったその瞬間。


「ぅがっ‼」


 至近距離から右肩めがけた刺突を受ける。


 一か所に穴をうがつように突き刺された数本の爪が、傷口を開くように動き、上に引き裂いた。


「——っぐぅっ‼」


 今までに感じたことのない痛みに、全身が熱くなる。


 本来ならその痛みに悲鳴を上げ、地面を転がってもおかしくない。


 が、清司はなんとかその衝動を堪えることに成功した。


 小学校の頃、剣道を教えてくれた道場師範の言葉が脳裏をよぎる。


「痛みは口に出してはいけないよ。それは相手に負けを認めることだし、自分自身を痛みと恐怖で縛って動けなくしてしまうからね」


 ここまでリアルに、この話に納得する日が来るとは思ってもみなかった。


 正直、ものすごく痛い。


 その痛みに身を任せるのは簡単だろう。


 しかし、ここでそんなことをすれば、すぐさまこの化け物は、さらなる一撃で自分の命を奪いにくる。


 それを理解した清司は、すぐさま化け物と距離をとった。


 生暖かい血が腕を伝う。


 視界が狭まり、やけに大きく聞こえる自分の鼓動がうるさい。


 化け物がこちらににじり寄ってくる。


 その後方では、康樹と太壱が何か叫んでいるのが見える。


 乱れた呼吸を整えるために、深く息を吸う。


 それをいつものように細く、鋭く吐いて、刀を構え直す。


 まだ、腕は動く。


 再び清司は、目の前の化け物に向かい駆け出した。


 が、突然左側から頭部に衝撃を受け、地面に転がる。


 朦朧とする意識の中でかろうじて目を開くと、清司と化け物との間に太壱が立っていた。



「清司! それ以上戦ったらだめだ! 引け‼」


 清司の肩から血しぶきが上がるのと同時に、康樹の隣に戻った太壱は叫んだ。


 しかし聞こえていないのか、戦うことをやめる気配はない。


「ど、どうしよう! このままじゃあいつ死んじゃうよな⁉」


 康樹が、表情に目一杯の焦りを浮かべて言う。


 隣にはそれとは対照的に、冷静に状況を見続けている若い女性が、康樹を支えるように立っている。


 おそらく康樹の玉の朱夏だろう。


「大丈夫、その前におれがなんとかする。合図したら術使ってくれ」


 太壱はそう言って、薙刀を握りしめ駆け出した。


 目標は、頭に血が上ってしまった清司の鎮圧。


 数秒で彼の死角に飛び込むと、そのままの勢いで彼の左側頭部目がけて飛び蹴りを入れる。


「清司ごめん‼」


 やはり周りが見えていなかったのだろう。


 きれいに決まった飛び蹴りをくらった清司は、何もできずに地面を転がった。


 間髪入れず、牽制のために清司と化け物の間に立ち、薙刀を構える。


『男ぉ〜邪魔をするかぁ〜』

(おー怖い)


 化け物の声に、太壱は心中でそうつぶやきながら、新手の乱入に相手の動きが止まるのを確認する。


 そしてすぐさま片手を上げ、合図した。


「康樹、今‼」


 合図とともに、康樹が双剣をそれぞれ地面に突き刺す。


 そして、

「らっ、烙烈焰鎖らくれつえんさ‼」


 康樹が叫ぶように言う。


 直後、化け物の周りをぐるりと赤い炎が囲い、壁を作る。


 それを見て、太壱は素早く清司を担ぎ上げると、その場から急いで離れた。



 駆け出した太壱を見送る形になり、その場に残された康樹は、心配と不安に胸を締め付けられていた。


 あんな状態の清司、どうやって止めるんだ?


 そんな疑問が頭をよぎる。


 すぐそばには朱夏がいてくれているが、朱夏が言うには、術の成功は自分の集中力にかかっているという。


 こんな状況の、こんな気持ちでどう集中すれば良いのだろう?


 そんな気持ちを見透かしたかのように、朱夏が声をかけてきた。


『主、今はあの化け物だけを見るんだよ。アレだけをじっと見て、その周りをぐるっと真っ赤な炎が囲むのを想像してごらん』


 言われるとおり、化け物に視線を集中させる。


 そして、頭の中でその周りを猛烈な炎が囲い、化け物が出られなくなるさまをイメージした。 


『そしてそのまま、その炎が鎖になって化け物に巻き付くさまを想像するんだよ』


 言われたとおりにイメージをふくらませる。


 と、その時だった。


「康樹、今‼」

『主!』


 康樹はハッとして、あらかじめ教えてもらっていたとおりに、両手の双剣を自分の足元に突き刺して叫ぶ。


「らっ、烙烈焰鎖‼」


 次の瞬間、イメージしていたとおりに化け物の周りに炎の壁が出現し、閉じ込めた。


 直後、それが炎をまとった鎖となって、化け物に絡みつき、地面に縫い付ける。


『ぎゃーーーーーっ‼』


 化け物は悲鳴を上げ、鎖から逃れようとして暴れ回るが、鎖は決してほどけない。


 ぎゃりぎゃりっという、鎖が擦れ合う独特の金属音が響き、どんどん化け物に巻き付く鎖が増えていく。


『いいよ主、その調子だ。いいかい、そのまま集中を切らすんじゃないよ?剣からも手を離しちゃだめだ。その瞬間術は解けちまうからね』


 言われたとおり、イメージをそのまま保ち続ける。


 緊張で手に汗が滲み、口の中が乾くのを感じる。


 康樹の、集中力との戦いが始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ