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境界に佇む者たち  〜柳谷清司の怪奇録〜  作者: 風月
サイキック・ケースワーカーズ 結成譚
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6章「新しい日常」(肆)


 もはやお決まりになった、放課後の櫻井家集合。


 今日もコーヒーを出され、遠慮なく口をつける。


 と、康樹が座ると同時に切り出した。


「オレたち4人で、『何でも屋』をやるぞ!」

「イェーイ!」


 康樹の言葉に合わせて、ノリノリな充晶が拍手をしている。


「え?」

「はぁ?」


 ぽかんとする清司と太壱に説明するように、康樹と充晶は続ける。


「昨日はオレたちが悪かった!」

「でもね、僕たちも考えたんだよ。この力はただ持ってるだけじゃもったいないって」

「だから、オレたち四人でチーム組んで、心霊現象とかで悩んでる人たち相手の『何でも屋』をやろうと思うんだ!」


 昨日の出来事の内容を、どう解釈すればこの答えになるのか。


「へ、へぇー」


 とりあえず太壱は余計なツッコミを入れまいと、そう言いながらカップを口に運んだ。


 清司は言葉が出ず、呆然とするしかない。


 そのリアクションに気を良くしたのか、二人は更に続ける。


「昨日の充晶の結界の話を聞いてさ、これはオレたち四人の玉の特性活かせば、怪奇現象解決できるんじゃね?って思ったんだ!」

「ほら、僕の力って、指定した範囲内の『事象の隔離』なんだけどね、幽霊とか化け物とか、人には普通見えないものを見えるようにできるし、さわれるようにもできるんだよ。だから、キミたち二人のどちらかが問題の原因を見つけたら、僕がその周り——まあ、僕達を含めた範囲だね。それを『隔離』して——」

「悪いやつならオレが『捕縛』の力でとっ捕まえて、太壱が封印しちゃう」


 康樹と充晶の力説に、清司と太壱は言葉が出ない。


 それに気を良くしたのか、

「話が通じるなら、話し合いで和解できるよね?元いた場所に帰ってもらうとか」


 充晶が補足し、


「幽霊ならその、未練? とかの原因聞いてそれを解決して成仏の手伝いしたりさ!」


 康樹が元気よく続けた。


 まあ、この二人なりにはよく考えたようだ。


 確かに、そんなことができるなら、二人が言う「困ってる人」を助けられるかもしれない。


 が。


「……相手が、人間を食い物にしてるような、凶暴なやつだったらどうするんだ?」


 清司の発言に、二人ははたと黙り込む。


「化け物なんてのは色々あるんだ。人間脅かして楽しんでるようなやつから、それこそ人間を食料にしてるようなやつまで」


 清司は、視線を鋭くして康樹と充晶を見ながら言う。


「お、おぉう」


 康樹が前のめりになっていた体を、そんな声とともに後ろに下げる。


「最悪、人間に恨みもって食い殺すようなやつは、大人しく封印されるとは限らねえし、関われば普通に襲ってくる。こっちだって、無事じゃ済まねぇぞ」


 そんな清司の話に、太壱は黙って頷きながらコーヒーをすすっている。


 康樹と充晶の話には、怪奇現象に触れたいという気持ちだけで、清司が言う、危険への覚悟が感じられなかった。 


 下手をすれば、命の危険だって普通にある。


 これまで清司は、持ち前の勘で、その危険にだけは触れないように、関わらないように過ごしてきたのだ。


「そっ! それでもさ!」


 康樹が再び前のめりになって言う。


「普通の人に見えないことで悩んでる人がいたら、助けたいじゃん!」


 その勢いに、太壱が驚き、目を丸くした。

 

「康樹、わりとマジでねぇ。昨日話してて思ったんだけど、僕もこの話が通るなら、協力したいと思ってるんだ」


 充晶の言葉に、清司と太壱は顔を見合わせる。


 協力したいという充晶はともかく、康樹がこんなに、正義感が強いとは思わなかった。


「それ、本気で言ってんのか?」


 覚悟を問う清司の言葉に、康樹はじっと見つめ返し、


「……オレはいつだって本気だぜ?」


 どこかの漫画の主人公のようなセリフをはいた。


 そんな空気に耐えられず、


「……ぷっ……くくくっ。あっはははは‼」


 太壱がついに吹き出し、笑い始めた。


「へへ、へへへ」


 照れくさいのか、康樹も変な笑い方をしている。


「はぁ……何だこりゃ」


 そんなやりとりに思わず呆れてため息をつき、清司は後ろの壁に寄りかかった。


「俺はどうなっても知らねぇからな」

「まあまあ、康樹と充晶がここまで言うんだから、やってみようじゃん。それに、そんな話、一介の高校生のおれたちの耳に入ることなんて、めったにねえだろうし」


 太壱の言葉に、まあそれもそうかと納得する。


 が、


「何言ってんの太壱。宣伝して依頼人募集するに決まってるじゃない」


 真面目な表情で言う充晶の言葉に、清司は表情を引きつらせた。


 宣伝?募集だと?


「マジかー」


 太壱が頭を抱える。


「バカ野郎! そんな、怪異を集めるようなことしてどうする!」


 清司が前のめりになって言うと、康樹は得意げに言った。


「こういう活動は、まずは知名度が大事! 知ってもらって、依頼してもらえるようにならないと、オレたち食いっぱぐれるぜ?」

「食いっぱぐれるって、なんの話だ!」


 どこか得意げに言う康樹に、すかさず清司が突っ込むが、

「え? 活動するからには、タダじゃやらないぜ? ボランティアじゃねぇんだからさ!」


 そんなもっともらしいことを言って、康樹は胸を張った。


「タダ働きじゃ、モチベーションも続かないでしょ?」


 更に充晶が追い打ちをかけると、太壱はそこで折れたのか、肩をすくめてみせた。


「……まじかよ……」


 実質、抗議する人間が自分一人になったことを悟って、清司はそれ以上何かを言うのを諦めた。



 そんなことがあってから数日。


「平和だー」

「なーんにーもねぇー」


 放課後の教室。


 一つの机に四人集まり、清司はスマートフォンをいじっていた。


「天気いいー」

「あー。暇だー」


 先程からぼやいているのは、充晶と康樹だ。


「そう簡単に困った人が来るわけねぇだろ」


 宿題をこなしながら言ったのは太壱だ。


 確かに。


 自分たちの力を使うような物騒な出来事など、早々あるわけがないのだ。


「せっかく四人の名刺だって作ったのによぉ〜」


 と、しょんぼりしながら康樹。


 その言葉に、二日ほど前、手書きの名刺の原稿と、コピーを数枚渡されたのを思い出す。


 その名刺には、


“怪現象のご相談お受けします

『何でも屋〜psychic Caseworkers〜』”


 と書かれ、ご丁寧に名刺の持ち主の個人名と、電話番号まで書かれていた。


 康樹と充晶の二人は、クラスメイトを中心に宣伝しているようだが、あまり相手にされていないようだ。


 クラスが違う自分たちは、そこまで熱心に宣伝をするようなことはなかった——というか、全くしていない。


 他の人間と違うものが見えるということは、話すのは容易いが、信じてもらうのはとても難しい。


 清司はそれを、これまでの短い人生で嫌というほど経験していた。


 それでいじめを経験したことすらある。


 同じものを見る太壱が友達としていたから、おかしくならずに済んでいたようなものだ。


 清司はため息まじりに席を立つと、特に何も言わずに教室を出た。


 気分転換に自動販売機でコーヒーでも買ってこよう。


 そう思い、階段に向かう。


 と、そこにちょうど同学年の男子が歩いてきた。


 どこか虚ろな表情で、フラフラとこちら——階段へ向かってくる。


 よく見ると、彼の背後は黒い霧で覆われていた。

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