6章「新しい日常」(肆)
◆
もはやお決まりになった、放課後の櫻井家集合。
今日もコーヒーを出され、遠慮なく口をつける。
と、康樹が座ると同時に切り出した。
「オレたち4人で、『何でも屋』をやるぞ!」
「イェーイ!」
康樹の言葉に合わせて、ノリノリな充晶が拍手をしている。
「え?」
「はぁ?」
ぽかんとする清司と太壱に説明するように、康樹と充晶は続ける。
「昨日はオレたちが悪かった!」
「でもね、僕たちも考えたんだよ。この力はただ持ってるだけじゃもったいないって」
「だから、オレたち四人でチーム組んで、心霊現象とかで悩んでる人たち相手の『何でも屋』をやろうと思うんだ!」
昨日の出来事の内容を、どう解釈すればこの答えになるのか。
「へ、へぇー」
とりあえず太壱は余計なツッコミを入れまいと、そう言いながらカップを口に運んだ。
清司は言葉が出ず、呆然とするしかない。
そのリアクションに気を良くしたのか、二人は更に続ける。
「昨日の充晶の結界の話を聞いてさ、これはオレたち四人の玉の特性活かせば、怪奇現象解決できるんじゃね?って思ったんだ!」
「ほら、僕の力って、指定した範囲内の『事象の隔離』なんだけどね、幽霊とか化け物とか、人には普通見えないものを見えるようにできるし、さわれるようにもできるんだよ。だから、キミたち二人のどちらかが問題の原因を見つけたら、僕がその周り——まあ、僕達を含めた範囲だね。それを『隔離』して——」
「悪いやつならオレが『捕縛』の力でとっ捕まえて、太壱が封印しちゃう」
康樹と充晶の力説に、清司と太壱は言葉が出ない。
それに気を良くしたのか、
「話が通じるなら、話し合いで和解できるよね?元いた場所に帰ってもらうとか」
充晶が補足し、
「幽霊ならその、未練? とかの原因聞いてそれを解決して成仏の手伝いしたりさ!」
康樹が元気よく続けた。
まあ、この二人なりにはよく考えたようだ。
確かに、そんなことができるなら、二人が言う「困ってる人」を助けられるかもしれない。
が。
「……相手が、人間を食い物にしてるような、凶暴なやつだったらどうするんだ?」
清司の発言に、二人ははたと黙り込む。
「化け物なんてのは色々あるんだ。人間脅かして楽しんでるようなやつから、それこそ人間を食料にしてるようなやつまで」
清司は、視線を鋭くして康樹と充晶を見ながら言う。
「お、おぉう」
康樹が前のめりになっていた体を、そんな声とともに後ろに下げる。
「最悪、人間に恨みもって食い殺すようなやつは、大人しく封印されるとは限らねえし、関われば普通に襲ってくる。こっちだって、無事じゃ済まねぇぞ」
そんな清司の話に、太壱は黙って頷きながらコーヒーをすすっている。
康樹と充晶の話には、怪奇現象に触れたいという気持ちだけで、清司が言う、危険への覚悟が感じられなかった。
下手をすれば、命の危険だって普通にある。
これまで清司は、持ち前の勘で、その危険にだけは触れないように、関わらないように過ごしてきたのだ。
「そっ! それでもさ!」
康樹が再び前のめりになって言う。
「普通の人に見えないことで悩んでる人がいたら、助けたいじゃん!」
その勢いに、太壱が驚き、目を丸くした。
「康樹、わりとマジでねぇ。昨日話してて思ったんだけど、僕もこの話が通るなら、協力したいと思ってるんだ」
充晶の言葉に、清司と太壱は顔を見合わせる。
協力したいという充晶はともかく、康樹がこんなに、正義感が強いとは思わなかった。
「それ、本気で言ってんのか?」
覚悟を問う清司の言葉に、康樹はじっと見つめ返し、
「……オレはいつだって本気だぜ?」
どこかの漫画の主人公のようなセリフをはいた。
そんな空気に耐えられず、
「……ぷっ……くくくっ。あっはははは‼」
太壱がついに吹き出し、笑い始めた。
「へへ、へへへ」
照れくさいのか、康樹も変な笑い方をしている。
「はぁ……何だこりゃ」
そんなやりとりに思わず呆れてため息をつき、清司は後ろの壁に寄りかかった。
「俺はどうなっても知らねぇからな」
「まあまあ、康樹と充晶がここまで言うんだから、やってみようじゃん。それに、そんな話、一介の高校生のおれたちの耳に入ることなんて、めったにねえだろうし」
太壱の言葉に、まあそれもそうかと納得する。
が、
「何言ってんの太壱。宣伝して依頼人募集するに決まってるじゃない」
真面目な表情で言う充晶の言葉に、清司は表情を引きつらせた。
宣伝?募集だと?
「マジかー」
太壱が頭を抱える。
「バカ野郎! そんな、怪異を集めるようなことしてどうする!」
清司が前のめりになって言うと、康樹は得意げに言った。
「こういう活動は、まずは知名度が大事! 知ってもらって、依頼してもらえるようにならないと、オレたち食いっぱぐれるぜ?」
「食いっぱぐれるって、なんの話だ!」
どこか得意げに言う康樹に、すかさず清司が突っ込むが、
「え? 活動するからには、タダじゃやらないぜ? ボランティアじゃねぇんだからさ!」
そんなもっともらしいことを言って、康樹は胸を張った。
「タダ働きじゃ、モチベーションも続かないでしょ?」
更に充晶が追い打ちをかけると、太壱はそこで折れたのか、肩をすくめてみせた。
「……まじかよ……」
実質、抗議する人間が自分一人になったことを悟って、清司はそれ以上何かを言うのを諦めた。
◆
そんなことがあってから数日。
「平和だー」
「なーんにーもねぇー」
放課後の教室。
一つの机に四人集まり、清司はスマートフォンをいじっていた。
「天気いいー」
「あー。暇だー」
先程からぼやいているのは、充晶と康樹だ。
「そう簡単に困った人が来るわけねぇだろ」
宿題をこなしながら言ったのは太壱だ。
確かに。
自分たちの力を使うような物騒な出来事など、早々あるわけがないのだ。
「せっかく四人の名刺だって作ったのによぉ〜」
と、しょんぼりしながら康樹。
その言葉に、二日ほど前、手書きの名刺の原稿と、コピーを数枚渡されたのを思い出す。
その名刺には、
“怪現象のご相談お受けします
『何でも屋〜psychic Caseworkers〜』”
と書かれ、ご丁寧に名刺の持ち主の個人名と、電話番号まで書かれていた。
康樹と充晶の二人は、クラスメイトを中心に宣伝しているようだが、あまり相手にされていないようだ。
クラスが違う自分たちは、そこまで熱心に宣伝をするようなことはなかった——というか、全くしていない。
他の人間と違うものが見えるということは、話すのは容易いが、信じてもらうのはとても難しい。
清司はそれを、これまでの短い人生で嫌というほど経験していた。
それでいじめを経験したことすらある。
同じものを見る太壱が友達としていたから、おかしくならずに済んでいたようなものだ。
清司はため息まじりに席を立つと、特に何も言わずに教室を出た。
気分転換に自動販売機でコーヒーでも買ってこよう。
そう思い、階段に向かう。
と、そこにちょうど同学年の男子が歩いてきた。
どこか虚ろな表情で、フラフラとこちら——階段へ向かってくる。
よく見ると、彼の背後は黒い霧で覆われていた。




