表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に佇む者たち  〜柳谷清司の怪奇録〜  作者: 風月
サイキック・ケースワーカーズ 結成譚
15/29

6章「新しい日常」(弐)

 相変わらずきゃっきゃと楽しそうな康樹と充晶。


「じゃあさ! 幽霊退治もできるかな! オレ、捕まえるしかできないっぽいけど!」


 そんな康樹の言葉を聞いて、清司は自分の血の気が引くのを感じた。


 頭がしびれ、周りの声が遠くに聞こえる。

 息がしづらい。

 視界が明滅する。


 いよいよ立っていられなくなり、その場にしゃがみこんだ。


「おい! 大丈夫か! 清司‼」


 一番近くにいた太壱が駆け寄って声をかける。


 返事をする間もなく、しびれが頂点に達し、視界はブラックアウトした。



「——から、こいつは昔っから幽霊のたぐいとか影響受けすぎるんだって!」


 太壱の声が聞こえる。


「でも今はそんなもんいないんだろ?」


 この声は康樹だろうか。


「いないけど、影響受けて今絶不調なんだよ!」

「それはわかったけどさ。そんな影響いつ受けたの?」


 こっちは充晶か。


「それは……」


 なにやら言い合っているのを聞きながら、清司はゆっくりと起き上がって、息をつく。


 それに気づいたのはやはり太壱だった。


「清司! 大丈夫か⁉」

「ああ、わりぃ。心配かけた」


 彼の声かけに、清司は頭を抑えながら返す。


「もー! びっくりしたんだからなー! 調子悪いなら言えよー!」

「そうだね。言ってくれないと困るよ」


 そばでしゃがみ、清司の目線に合わせて話す太壱に対して、康樹は怒っているのか、腕を組んで立っているし、充晶は少し離れてしゃがんでいる。


 それぞれ心配はしてくれたようだ。


「わるかった。もう大丈夫だから」


 そう言いつつも、体はまだ少し怠い。


 そんな清司の様子を見て、太壱が言う。


「そのままでいいから、昨日のこと、話してくれないか?」

「………………」

「このままじゃ、おれたち納得しないぞ?」


 そう言った太壱の表情は真剣だ。


「……わかった」


 言うつもりはなかった。


 しかし、このままだと三人に余計な心配をかけ続けることになる。


 清司は意を決して、昨日あったことを、ゆっくりと話し始めた。




 夕方、公園で化け物と遊ぶ子供を送り届けたこと。


 その後その化け物に取り憑かれて殺されかけたこと。


 白秋と契約せざるを得なかったこと。


 公園の木に憑いていた怨霊のような化け物を白秋で斬ったら、本体の木が倒れてしまい、その場から逃げたこと。


 化け物の正体が、子供の頃遊んでもらった、女子高生だったこと。


 そこまで話して、清司は言葉を切った。


 三人は特別騒ぐこともせず、黙って聞いている。


 思った以上に深刻に捉えられたようで、部屋の中は沈黙が支配し、壁にかけられた時計の針の音がはっきりと聞こえるほどだった。


「……じ、じゃあ、その女の子、消しちまったってことか?」

「……ああ。そうなる」


 康樹の、事実を確認するかのような質問に、ゆっくりと答えた。


 何かが凍りついたように、表情は動かない。


 そうだ。

 彼女を消したのは、紛れもない事実だ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


「俺の力は、基本、使えない。何でもかんでも消しちまうからな」


 清司はそう言って、息をついた。


「で、でもさ! それならなおさら幽霊退治に向いてるんじゃ——」


 思い空気が漂う中、そんな流れを変えたかったのだろう。


 康樹が明るい声で言いかけるが、


「バカ野郎!」

「っ⁉」


 清司は思わず声を荒げる。


「消すっつーことは、この世から消すだけじゃねぇんだ!本当に、何もなかったことに……いなかったことにしちまうってことなんだよ‼」


 そう、康樹を怒鳴りつけてしまった。


 康樹は悪くない。


 こいつは、ただ単純に、触れてみたいだけなのだ。


 あちら側の世界に。


 怒鳴られて固まる康樹を見て、やるせない思いが胸を締めつける。


 誰も、悪くない。


「……ご、ごめん」


 康樹のその言葉に、いたたまれなくなる。


「……俺の方が悪かった。怒鳴って、すまん」


 そう言って立ち上がる。


「ワリ。もう帰るわ。また明日な」


 それだけ言って、清司はその場を後にした。



 清司が出ていって。


「オレ……あいつに悪いこと言ったんだな」


 しょぼくれた様子で康樹が言う。


 確かに、今の清司にとって、康樹の発言は無神経だっただろう。


 だが、彼は幽霊は退治できると単純に考えているフシがあるので、仕方がないとも言えた。


「明日謝ればいいよ。アイツも頭に血が上ったんだよ。きっと」


 充晶が康樹を慰めるように言うと、康樹は黙って頷いた。


 事はそんな単純ではない。


 太壱はため息をついて、二人の前に座った。


「あのな、ちょっと簡単に説明してもいいか?」

「何を?」


 康樹が首を傾げる。


「お前たちが言う、「幽霊」について」

「是非聞きたいね」


 続けた太壱に、充晶が聞く姿勢を見せる。


 二人の同意を得て、太壱は話し始めた。


「お前らが言う「幽霊」って、どんなのイメージしてる?」

「えっと、生きてる人間に悪さするやつ?」

「生きてる人に悪影響を及ぼすもの?」


 太壱の質問に、康樹と充晶が答える。


 言葉は違うが、言っている内容はほぼ同じだろう。


 うんと頷いて、太壱は続ける。


「違うんだなこれが」

「どゆこと?」

「?」

「確かに、一般的に「幽霊」ってのはそうかもしれないけど、実際は、この世に未練を残してどこにもいけない、ただの死んだあとの人」


 見ると、康樹はまだ理解できないといったふうで、充晶はただじっとこちらを見ている。


「要するに、肉体があるかないかの違いだけで、「人」なんだよ」

「じ、じゃあ、悪さするやつって何なんだよ?」


 太壱の言葉に、やはり疑問符を浮かべたのは康樹だ。


 太壱はそれに答えるように続ける。


「それは悪霊とか、地縛霊とかそんなん。生きてる人間だって、悪いことするやつはごまんといるだろ?それと同じさ。でもそういうやつだって、結局は「人」だ」


 二人は黙って話を聞いている。


 すっかり冷めてしまったお茶に手を伸ばし、喉を潤した。


「だから、お前らが言う「幽霊」ってのは、確かに驚かされることも多いだろうけど、基本「人」と変わりないんだ。そして、未練が晴れたり何かしらの執着する気持ちがなくなれば、自分で行くべきところへ行くことができる。次の世界があるんだ。もしかしたら、生まれ変わりなんてのもあるのかもしれない」


 そこまで言って、ようやく二人の表情が変わる。


「じ、じゃあ、清司が言ってた「消す」ってのは……」

「……本当に、消すことができるんじゃない?」


 強張った表情になった康樹に、難しい顔をしている充晶が答えた。


「そう。あいつが言ってたのはそういうことだと思う。本当ならまだ続きがあった「人」の未来を、あいつは奪ってしまったんだと思う」


 太壱は言いながら、お茶を喉に流し込む。


 冷めてしまったからだろうか。


 それは、いつもよりもだいぶ渋く、苦く感じた。


「あいつ、生まれつきそういうものが見えてたって言ってた。おれも似たようなもんだけど。だからこそ、「幽霊」になった人は、あいつにとって他の人に見えないだけのただの「人」なんだよ。だからあいつ、昨日のことはもしかしたら「人を殺した」っていうふうに捉えちまってるかもしれない」

「……そんな」

「そこまで……」


 やっと、清司の力の意味と、彼の状況が伝わったのか、二人は何も言えないようだ。


 誰にも咎められることがないぶん、清司にとってどれだけ負担になることか。


 考えただけでも胃が痛む。


 まして今回は、かつて世話になった人という事実も重なっているのだ。


 自分なら、耐える自信はない。

 きっと今頃発狂しているだろう。


 康樹と充晶は沈黙したままだ。


 これ以上は、今は話すことはない。


 そう思い、残ったお茶を飲み干すと、太壱は立ち上がった。


「おれも行くわ」


 そう言い残して、康樹の家を後にした。


◆ 


 二人残されて。


「オレたち、ちょっと甘かったな」

「そうかもね」

「オレ、「幽霊」なんて、ゲームに出てくるような、人間を襲う化け物と一緒に考えてたのかも」

「僕もそれは一緒さ」

「もうちょっと、ちゃんと考えないと、だなー」

「そうだねー」


 二人はそう言うと、大きなため息をつきながら天井を見上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ