表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に佇む者たち  〜柳谷清司の怪奇録〜  作者: 風月
サイキック・ケースワーカーズ 結成譚
1/29

序章「終わりの季節」

 中学卒業を間近に控えた放課後。清司せいじの頬に当たる空気は、まだ冬の気配を残している。

 昼まで降っていた雨で濡れたアスファルトは、午後の日差しを受けても冷たいままだ。


 彼ら四人は駅前通りを歩いていた。


 帰宅するにはまだ時間が早いため、ゲームセンターにでも行こうという話になり、目的地を目指している。


 清司が友人二人の後ろを歩きつつ、くだらない話で盛り上がっているのを見ていると、ふいに何かが彼の視界の端を縦に切り、雑踏の向こうから、どさっという音が耳に届く。


 思わず足を止め、音がした方に視線を向けたが、通りを歩いている人は誰も立ち止まらないでいた。


 清司がそこで見たのは、道路を挟んだ反対側にある、高いビルの玄関前で横たわる人。


 ここからでは断定できないが、髪の長さから女性だろう。


 手足があらぬ方向に曲がっているのが見えた。


 彼女はその曲がった手足のまま、ほんの数秒で立ち上がると、ビルの横に付いている外階段に向かい上り始める。


 まるでコマ送りでもしているかのような速さで、彼女の姿はビルの屋上へ到着していた。


 歩道に面したビルの端に立ち、そのままふらりと落下する彼女の姿。


 再び衝突する音と共に、彼女は地面に叩きつけられた。


 そしてまた階段を上り始める。


(……繰り返してるのか)


 そう清司は胸中で独りごちる。


 普段から人には見えないものを見続けている彼でも、このパターンは初めての経験だった。


 ある種の不快感と、人の死の瞬間を見てしまったという嫌な恐怖が、清司の中でこみ上げる。


 これがもし誰もいない夜、一人きりなら逃げ出していたかもしれない。


 そんな思考が頭をよぎり眉間にしわを寄せたところで、ぽんと肩を叩く者がいた。


「清司」


 はっと我に返りそちらを見ると、幼馴染の少年が少し困った笑顔でこちらを見ている。


 ビルの前を何事もなかったかのように、人々が通り過ぎていく。


「……お前、あれ初めて?」

「……ああ、この辺じゃ珍しいだろ。太壱たいちは?」

「おれは昨日も落ちてんの見た」


 そう言って、太壱もビルの方に顔を向ける。


 清司と同じものを見ているのだろう。


 彼の眉間にもしわが刻まれている。


「そっか……見たくなかったな」


 清司は言いながら、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「ほんと。マジ勘弁」


 太壱はそうため息まじりに言う。


 そう言っている間に、また女性が屋上から空中に身を躍らせ、地面と衝突した。


 それによって何かが飛び散るなどということもなく、彼女は変わらないテンポで曲がった手足を動かし、起き上がる。


「あれ、ずっとやってるのか?」


 そんな彼女を見ながら言うと、太壱は肩をすくめた。


「昨日もやってたからそうなんじゃねえの?」


 その言葉に、今度は清司がため息をつく。


「……気分のいいもんじゃねぇな」

「まったくだぜ。あんなもん見たくないし、関わらないに越したことねえよ」

「それな」


 そう言って清司は、また階段を上り屋上に到着した彼女から視線を外した。


 そんな彼を見て、

「清司、さすがにビビったろ」


 太壱はにやりと笑みを浮かべながら言う。

 

 清司はそんな彼の言葉に呆れ、腕組みをして言い返した。


「あんなもんビビらねぇほうがおかしいって。お前こそ、ホントは昨日見たときチビったんじゃねぇのか?」

「残念。そこのコンビニでションベンした直後でしたー」


 そんなやり取りをしている間にも、しつこく聞こえる衝突音。


 すると、先に進んでいた友人二人が、立ち止まった彼らに気づいた。


「なんかあったかー?」

「もしかして清司、またなんか見た?」


 駆け足でそう言いながら戻ってくる二人に、清司は小さく舌打ちをした。


 太壱も少し困ったような、微妙な表情を浮かべ、二人を見ている。


「え、マジで? オレも見たい!」 

「僕も見てみたいね」


 そう言うと友人二人は、清司が見ていた方へと視線を向けた。


 しかし、もとよりそういったものが見えない体質である二人に、あの女性の姿が見えるはずもなく、二人はどこだどこだとキョロキョロしている。


 清司は再びため息をつくと、幼馴染の太壱と友人二人の首根っこをそれぞれ掴み、


「くだらねぇ。行くぞ」

「さあ、おとなしくゲーセン行こうなー」


 と、歩き始めた。


 関わらずに済むなら、それが最善に決まっている。


 彼女は誰にも気づかれることなく、永遠に繰り返し続けるのだろう。


 衝突音は、いつしか雑踏と街頭スピーカーに紛れて聞こえなくなる。


 しかしあの生々しい音は、しばらく彼の耳から離れることはなかった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あらすじが適切に修正されていました〜。 ヾ(・ω・*)ノ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ