9、付点とスタッカート
神々の遊園地から戻って来ると、安倍家の両親は家で
しゅさたちを待ち構えていた。
「おかえりなさい」「おかえり」
聡パパと彩子ママが、笑顔で帰宅の挨拶してきた。
「ただいま」
はじめが自然に挨拶を返した。
「え?あれ?どうなっているの?」
「すみません、安倍家の聡と彩子の両親は、実はシナツヒコと市杵島姫神が演じてました。しゅさちゃんの課題達成の為に演じてました」
「私は市杵島姫神です。このまま演じていこうかと思ったのですが、天之御中主さまが急遽、他の星に向かわなければならなくなってしまったので…バラします」
ええー、今まで安倍家の聡パパや彩子ママのこと、本物だと思ってた。
「ごめん…しゅさ、4か月間の課題こなしたら羽衣を渡すと言ったのに、もうすぐ行かないといけないから。東京駅のダンス神殿の対決を見学したら、それを持って課題クリアしたとみなして羽衣を渡すよ…」
「さぁ、どうぞベランダへ」
シナツヒコ神の聡パパがしゅさたちをベランダ行くように誘導した。
安倍家のマンションのベランダには、神さますごろくゲームで乗った大きな御座船船が来ていた。
御座船へ乗る入口の扉が開けられ、しゅさたちが乗りやすいように、ベランダへ虹色の通路が伸びてきている。
しゅさたち4人はその虹色の通路歩いて、御座船に乗った。
御座船の船室へ向かうと、豪華な机や広い船室は神さますごろくゲームと全く同じだったが、船員は誰も乗っていなかった。
その代わりにハヤテくんが豪華な机の近くの座布団に座っていた。
「あれ?何で、ハヤテくんが?」
「このハヤテは私が作った人間なんだよ。私はこのハヤテを通して、君と言う、毎日楽しそうに暮らしている人間を知って、無意識に兄妹になって、のんびりとした日常を味わってみたいと思ってしまったようだ。私がいろんな神々を巻き込んでしまった為に、きみにむちゃくちゃな想いをさせてごめんね…」
ハヤテくん…のんびり…むちゃくちゃ…んん?
「そう、神さまはのんびりしたくても、することがいっぱいだから、もうすぐ行かないといけないんだよ」
はじめ…?
「…ずっと…君のお兄ちゃんでいたかった。すごく楽しかったよ」
そんな…せっかく…お兄ちゃんが出来たかと思ったのに…
「いやだよぅ、はじめ…しゅさ、ずっと兄妹でいたいよ」
「しゅさ……」
はじめの瞳から涙が、しゅさの目からもどんどん涙がたくさん流れ出て来る。
「僕はお兄ちゃんでいることは無理だけど、僕の代わりにハヤテが君の兄になるから」
「ええーーー、何で、やだよー」
「じゃあ、一人っ子で暮らしていく? 僕が作ったハヤテと双子だと面白い人生がおくれるよ? 神々と必要な時に修行して、人間としても暮らせる人生だよ?」
「はじめがお兄ちゃんがいいんだよ」
「私もしゅさともっと遊んでいたかったよ…でも、いろんな神々を巻き込むのが段々申し訳なくなってきてね……」
まだ兄妹になって数日くらいしか経ってないのに…
「はじめがお兄ちゃんがいいの」
「天之御中主さま、気に入られてしまいましたね」
「…これはもう」
「しばらく人間としてお遊びになられてもよろしいのでは?」
「そうですよ、人間の人生は神々の時間のまばたきにもなりませんよ?」
「安倍家でも冬尾家でもどちらでも、お好きな家にしゅさちゃんとハヤテくんとご一緒にお住みになって下さい。我々が天之御中主さまたちの生活のサポート致します。お遊びですから、我々も存分に一緒に遊ばせていただきます」
「我々も大いに楽しませていただきますので、思う存分、人間の人生を楽しんで下さい」
こうして、しゅさとはじめとハヤテの3人で、東京駅にあるダンス神殿へ向かった。
東京駅にあるダンス神殿へ向かうと、ダンス神殿の前に、秋吉台で出会ったアポロン神と、古代ギリシャの神々っぽい服装の人たちが立っていた。
「よく来たね…あ、しゅさちゃん、久しぶり」
アポロン神はしゅさを見ると笑顔で言った。
「私は古代ギリシャの全能神ゼウスだ。日本の神々よ。我々の挑戦を受けてくれてうれしいよ」
と、アポロン神の隣りに立つゼウス神がそう言うと、辺りが真っ暗になり、雷が鳴った。
「わぁ~、雷だぁ」
しゅさが雷から逃げようとすると、はじめとハヤテに手を掴まれた。
「大丈夫だよ、単なるエフェクトだよ…」
はじめが笑っている。
単なるエフェクト? 今、本当に雷が鳴ったんだけど。
「しゅさ、実は古代ギリシャ神から決闘を申し込まれていて、これ、果たし状ね」
はじめが胸元から、洋風形式の書簡をしゅさに見せた。
そこには英語か、何語かわからない文字がズラズラと書かれていた。
「日本と国民を賭けて、ダンス対決で勝たないと日本の神々の座を譲らないといけなくなったんだ」
えーー…
「果たし状を読んでくれたよね?アマテラス神と大国主命よ」
え? え? なんなんだろう? アマテラス神ってさきほどまで一緒に遊園地で遊んでいた神さまだよね?
アマテラス神とよく知らない大国主命らしき男性神と凄い数の神々だが姿を現した。
「日本の神名で呼びますと天之御中主さま。あなたさまには中立の立場で、あなたにこの対決の判定をしてもらいたい」
「わかりました。しゅさとハヤテ、おいで。向こうの神座の高い所へ一緒に座ろう」
神殿のダンス対決を見下ろして観ることが出来る高い席へ移動した。
はじめは王様のような豪華な椅子に座り、しゅさとハヤテは左右にあるソファへ座った。
日本の神々とギリシャの神々のダンス対決がはじまった。
「ダンス神殿のオーディションは?」
「神々の対決の後は宴になるから…今日は中止になるかもね」
ハヤテくんがそう言った。
「ハヤテくんはしゅさが東京にいる間どこにいたの?」
「高天原にいたよ」
え…? はじめは……
「山口県のしゅさの家にいてたわけじゃないんだ」
「うん。親戚として短い間行っただけなのに、その地域の妖怪や付喪神らがおかしくなってただろ?」
「妖怪や付喪神って…?」
「しゅさちゃん、小学校の夏休みに学校の夏祭りイベントに行った時に変な所へ飛ばされた時に変なのに会わなかった?」
「…会った」
「それ、俺の影響なんだ。気味の悪い想いさせてごめん」
「うん、しゅさ、ハヤテくんの力に何もなってあげられないけど、ハヤテくんが幸せになれる日が来ることを願っているよ」
「……ありがと」
アマテラス神とアポロン神の太陽神のダンス対決がはじまった。
光をまとったアマテラス神と太陽の巫女、太陽の神官たちの楽琵琶、神楽笛、和琴、和太鼓の演奏に合わせて生命の喜びの光の舞を踊った。
その後、アポロン神によるハープの前奏からはじまり、アポロン神殿の巫女の吹くフルートやピッコロやヴァイオリンの音色の楽器と共に、躍動感溢れるダンスを踊った。
あまりにも楽しい音楽に、しゅさも思わず踊ってしまった。
この次はスサノオのみことと、ハデス神の冥界代表する神々のダンス対決だ。
スサノオのみことは、禊で生み出した神々を全員呼び出した。
呼び出した神々の中には、エレキギター、多弦ギター、ドラム、キーボード、シンセサイザー弾いている八雷神がいた。
その他の神々は、スサノオのみことと一緒に嵐を思わせるような激しいダンスを踊った。
その激しいダンスと音楽に、しゅさの心は圧倒されて、時間経つのも忘れて釘付けになった。
この次は、ハデス神がヴァイオリンとグランドピアノを出し冥府の神々が演奏するなか、妻のベルセフォネ女神と愛のダンスを踊った。
ハデス神の黒い衣と、ベルセフォネ女神のワイン色の衣がひらひら揺れて、とても美しいダンスだった。
その後、大綿津見神とポセイドンの海神のダンス対決だ。
大綿津見の神は海の波の幻影を出し、自らの子供たちに楽器を演奏させ、大人の神々と海の波を思わせる優雅なダンスを踊った。
ポセイドンの神も負けじと海の神々を呼び出し、トリトンのラッパとセイレーンの美しい歌声に合わせて、不思議なダンスを踊った。
この次は、月読命とアルテミス神のダンス対決だ。
月読命は優美な十二単を纏う女性に変化し、月の神の使いの雅楽の演奏のもと、月の舞踊った。
まるで竹取物語のかぐや姫が踊っているみたいで素敵だった。
アルテミス女神はいつも一緒に遊んでいる仲間たちを出し、ユーフォリズムやホルンらトランペットやフルートの音色を出させ、森の動物たちと走りながら楽しく舞った。
こういう疾走感のあるダンス方法もあるんだ面白いなとしゅさは思った。
「さぁ、天之御中主さま、どう判定しますか?」
「みんな、よく頑張った。私は君たちの頑張りを評価したい。判定は引き分けだ。次回のダンス対決楽しみにしているぞ」
わぁ~
神々は歓声をあげた。
「宴じゃーー」
神々同士、日本の神々、ギリシャの神々関係なく抱き合い、ダンス対決の終わりを喜び合っているように見えた。
神殿の大きな扉を開けて、たくさんの食べ物や飲み物を持った女官や男官が運んでいる。
「しゅさ、これから、日本の神々と古代ギリシャの神々の宴が始まるよ。一緒に楽しもう」
【皆さま、宴の前に、天之御中主さまによる、安倍ハヤテくんと冬尾しゅさちゃんの神さま就任式が行われます】
ダンス対決が行われた中央に三段の大きな大理石の台が設置された。
その大理石の台にはじめは立ち、しゅさとハヤテを呼んだ。
その大理石の台へ向うと、はじめから虹色に輝く羽衣を手渡された。
はじめから羽衣の使い方を教わる。
「羽衣と仲良くなれたら肌に自然に吸い付いて、腕に巻き付いてくれるのだけど、仲良くなれるまでは逃げていくから、しっかりと手で握ってててね」
渡された羽衣を掴んでみると、体が宙に浮いた。
手で握っていないと、真ん中の神さまのところへ戻っていこうとするので、しゅさはしっかり羽衣を掴んだ。
「まず、仲良くなるために羽衣にかわいい名前つけようか」
「かわいい名前…」
「羽衣が気に入ってくれる名前じゃないとスネるから、頑張って考えて」
よぉーし、かわいい名前つけるよ。
空を飛ぶから…
「…ぴょんぴょんちゃん」
パ…パチパチチパチ……
羽衣から軽い静電気がでてきて、パチパチして痛い。
「うーん、気に入らないようだよ…もっと羽衣が喜びそうな、優雅な名前考えてあげて」
ゆうがって、何?
ゆうが…って言葉、本で見かけたことあるけど…どんな意味だったかな…
「高天原にある人間界の小学生向けの国語辞典によると、優雅とはやさしい美しさがあり、上品なことだそうだよ』
やさしい美しさって、何?
『しゅさちゃんが付けて欲しいと思うような上品で美しい名前考えてみて』
市杵島姫神がしゅさ近づいてきて言った。
「パチパチちゃん」
パチパチ…
羽衣がピリピリする…
「ピリピリちゃん…」
パチパチ…
『上品な感じで』
「上品ちゃん……」
パチパチ…
ぴゅるるるる…
羽衣から不思議な音楽が聴こえてきた。
しゅさの頭の中に…川に太陽の光が当たりキラキラ輝いている光景が思い浮かんだ。
清らかな川の流れ、小川の底の小石が見えるくらい澄んだ水……
羽衣を見ていると……羽衣の生地から不思議な文字が浮き出てきた…これは英語…?
英語の上にひらがなでふりがなが浮き出てきたので読んだ。
「Lymphaちゃん…」
「はーい、しゅさちゃん、よろしく」
羽衣からやさしい光がふんわり出てきて、羽衣から声がした。
「ラテン語由来の澄んだ水を意味する言葉だね」
「しゅさに名前を付けてもらいたかったんだけど、ぴょんぴょんちゃんとか、ピリピリとか、良い名前が全く思い浮かばないみたいだから、自分でつけました。私のことはりむふぁと呼んでね」
「りむふぁ」
「はい、しゅさちゃん、仲良くしてね」
「うん、こちらこそよろしく。りむふぁ」
「羽衣と会話して、仲良くなっていけば、いづれ手で持たなくてもよくなるから。それまではしっかり掴んで飛んでね」
「はーい」
「しゅさは課題クリアしたから、しゅさはこれで神になれたんだよ。神になれた証として、私の真の姿を見せてあげよう」
「真の姿?」
「今から、宇宙に出るからついておいで」
はじめは高天原の高いところへ、飛んで行こうとするので、しゅさは羽衣をしっかり掴んで飛んだ。
なれないせいか、ふらふらしてバランスよく飛べない。
「はじめ、待ってぇ…」
スピードが速すぎて見失ってしまいそうだと思ったら、はじめが戻ってきた。
「もう課題クリアしたし、しゅさは神になったから、私のことは天御中主さまと呼んでね」
「もうはじめって呼んじゃダメなの?」
悲しい…もうお兄ちゃんじゃないなんて…
「ふえ……ん」
悲し過ぎて涙が止まらない。
「仕方ないな……もう、はじめでいいよ……特別だからね」
はじめが頬をピンク色にして恥ずかしそうな表情で言った。
「冬尾しゅさの人生を終えるまでは、はじめでいてあげる。冬尾しゅさの人生を終えたら、天之御中主さまと呼ぶんだよ?」
「はーい」
「では、ハヤテ」
後ろを見ると、ハヤテくんも羽衣を持って付いてきていた。
「なに?」
ハヤテくんは面倒臭そうに、はじめに返事を返した。
「今からここでダンス神殿のオーディションのダンス練習をする。これは15時のオーディションの整理券だ」
はじめはダンス神殿のオーディションの整理券を見せた。
「もしオーディションに受かったら、僕たちは東京に住む」
…別に、しゅさ、住みたくないんだけれど。
あの狭いマンションにハヤテくんも入って、5人で住むのは大変そうだし…。
「そうか…あはは。じゃあ、この東京に住む話は無しにしようか」
神さまの力で、でっかい家建てて住むとか無理なのかな…?
はじめはしゅさの思考が読めるはずなのだが、その思考に関しては返事を返してくれなかった。
はじめは目をつぶると、静かな口調で言った。
「私も都会は人がわんさかいて刺激的で楽しいけれど、住むのなら、大自然に囲まれて静かに暮らす方がいいと思うのだよ」
と喋るはじめを、ハヤテはあぐらをかいて宙に浮いた状態で聞いている。
手で羽衣を持たなくても、羽衣はハヤテくんから逃げていかない。
先程、もらったばかりなのに羽衣はハヤテくんに懐いているんだ…これってはじめが作った人間だからかなとしゅさは思った。
「しゅさの家、広いし、他の神々も遊びに来れるからそこに住めばいいんじゃないの?」
ハヤテくんがしゅさの家に住もうと提案している。
「そうだね、しゅさ、じゃあ、僕たちは三つ子として、冬尾家に住むよ。さぁ、山口県美祢市の家に行こうか」
「うん」




