八、王の塔
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ケルトの旋律を流しながら読むと、文字がより深く、世界へと染み込んでいきます。
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螺旋階段が続いていた。
延々と続く階段を、少年は一人で登った。衛兵はついてこなかった。扉を開けた後、何も言わずに外に戻っていった。少年だけが中に残された。
石の壁が、迫ってくるように近かった。松明が等間隔に並んでいるが、炎は揺れず、まるで描かれているように静止していた。空気が動いていないからだ。
音がしなかった。
外の都もそうだったが、この塔の中はさらに静かだった。少年の足音だけが、石の壁に反響する。コツ、コツ、コツ。その音が不似合いなほど大きく響いた。
どれほど登っただろう。
足が痛くなった頃、階段が終わった。
扉があった。
少年は扉に手をかけ、押した。
開いた。
部屋があった。
広い部屋だった。天井が高く、四方の壁は全て窓になっている。王国の都が、四方全て見渡せた。遠くには原野が広がり、さらに遠くには山の輪郭が見えた。あの谷も、あの道も、そこからは見えなかったけれど、方向から言えばあの辺りだということは分かった。
男が、窓の前に立っていた。
老いた男だった。白い髪、白い髭。体は細く、腰が少し曲がっている。衣装は豪奢だったが、着こなしているとは言い難い。ただそこに纏っているだけ、という感じがした。
男は振り向かなかった。
「来たか」と言った。
声は、静かだった。
「王様、ですか」少年は尋ねた。
「そうだ」
「会いにきました。なぜ、歌を禁じたのかを聞きに」
男はまだ振り向かなかった。窓の外を見ていた。都を見ていた。無数の人が行き交う、静かな都を。
「座れ」
部屋の中央に椅子があった。二つ。少年は一つに腰を下ろした。王はゆっくりと振り向き、もう一つの椅子に座った。
その顔を見て、少年は何かを感じた。
怒りではなかった。
驚きでもなかった。
悲しみ、だろうか。いや、それも違う。
疲れていた。
この王は、ひどく疲れていた。顔の皺の一本一本が、疲労の跡のように見えた。目の奥の色が、何か重いものを長い間抱えてきた者の色をしていた。
「なぜここへ来られたのか、分かっている」王は言った。「森の子が来る、という話は聞いていた」
「誰から」
「石が伝えた」
少年は驚いた。
「石が、あなたにも」
「私はこの塔で長い時間を過ごした。塔の石とは古い付き合いだ。あの巨人が何百年もそうしてきたように、石は記憶を持ち、記憶を伝える。お前がここに来ることは、ずっと前から分かっていた」
少年は王の目を見た。
「なぜ、歌を禁じたのですか」
沈黙があった。
長い沈黙だった。少年は待った。焦らずに待つことを、旅の中で少し学んでいた。
「守るためだ」
「何を守るために?」
「世界を」
少年は口を閉じた。続きを待った。
「今から三十年前」王はゆっくりと言い始めた。「この王国の南に、小さな村があった。魔法使いの村だった。彼らは歌の力に秀でていた。特に一人の魔法使いが、信じられないほど強い歌を持っていた」
「その歌が」王は続けた。「大地を裂いた」
少年の体が、固まった。
「意図せずにだ。その魔法使いは、単に喜びを歌っていただけだった。でも歌の力が強すぎた。地面が、文字通りに割れた。亀裂が走り、建物が崩れ、十七人が死んだ」
「それは」少年は言った。「その人のせいでは——」
「その人のせいではない」王は静かに言った。「私も、そう思った。だからその魔法使いを裁くことはしなかった。でも私は考えた。歌の力が予測不能なのだとしたら、いつかもっと大きな悲劇が起きる。意図せずに、誰かが、もっと多くのものを壊すかもしれない」
「だから禁じた」
「そうだ」
少年は窓の外を見た。都が、見えた。静かな都が。
「でも」少年は言った。「星が消えています」
「知っている」
「大地が歌えなくなっています。石の道が、かすかにしか共鳴できなくなっています」
「知っている」
「このまま歌が消えたら、世界が終わると、巨人は言いました」
「知っている」
少年は王を見た。
「知っているのに、禁じ続けているんですか」
王は目を閉じた。
「もし歌を解放して、また誰かが死んだら」王は言った。「私はその責任を取れない。すでに三十年が経った。今、歌を解放したとして、人々はまた正しく歌えるだろうか。三十年間、歌わなかった人々が。あの魔法使いのように、制御できない力を解き放つかもしれない」
少年は、その言葉の重さを感じた。
王は、悪人ではなかった。
それが分かった。悪い意図があって歌を禁じたのではなかった。恐れていた。本当に恐れていた。誰かが傷つくことを、誰かが死ぬことを。その恐れから、世界を守ろうとした。
でも。
「一つだけ」少年は言った。「聞かせてください」
「何だ」
「王様は、今幸せですか」
沈黙が落ちた。
王の顔が、かすかに歪んだ。
答えは来なかった。
少年は立ち上がった。
「ぼくは」少年は言った。「これから歌います。この都で。広場で、歌います。それで誰かが傷ついたなら、ぼくが責任を取ります」
「……子供が、何の責任を」
「正しく歌うつもりはありません」少年は言った。「上手く歌うつもりも。ただ歌います。それだけです」
「それだけでは足りない」
「足りなくても、やります」
王はしばらく少年を見た。
その目の中に、何かがあった。
疲れの奥底に、何かが残っていた。
「……行け」王は言った。「止めない」
それだけだった。
少年は扉に向かった。
扉に手をかけた時、王が言った。
「赤い髪の子」
少年は振り向いた。
「私は毎晩、夢を見る」王は窓を見ながら言った。「あの村の魔法使いが、歌っている夢を。十七人が死ぬ前の。楽しそうに歌っている夢を」
少年は何も言わなかった。
「……悪い夢ではない」
少年は扉を開け、階段を降り始めた。
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