七、歌のない都
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都の門は、開いていた。
少年が想像していたのは、重厚な鉄の扉と、槍を構えた衛兵たちだった。でも実際には、二本の巨大な石柱が立っているだけで、扉すらなかった。衛兵は一人もいない。代わりに、石柱の上に刻まれた文字があった。
少年には読めなかった。
でも言っていることは何となく分かった気がした。入ることは自由だ、というような意味に思えた。
あるいは。
ここから先に来るような者に、扉は必要ない、という意味かもしれない。
少年は深く息を吸い込み、門をくぐった。
最初に気づいたのは、音だった。
いや、正確には、音がないことだった。
人が、いた。
たくさんいた。
道の両側に建物が並び、その間を人が歩いている。荷物を運ぶ者、子供の手を引く者、店の前に立つ者。首都らしく、少年が今まで見てきたどの集落よりも、ずっと多くの人が行き交っている。
なのに。
静かだった。
信じられないほど静かだった。
これほどの人数がいれば、靴音だけでも相当な音がするはずだ。それに会話もある。笑い声も、怒鳴り声も、子供の泣き声も。人が集まれば、音が生まれる。それが当然のことだと思っていた。
でも、ここでは違った。
人々は確かに口を開いていた。少年が近づくと、言葉が聞こえてきた。でもそれは、普通の会話ではなかった。声が小さい。異常なほど小さい。耳を近づけなければ聞き取れないような声で、必要最低限のことだけを告げ合い、すぐに別れていく。
誰も笑わなかった。
誰も立ち止まらなかった。
荷物を持った商人が、向かいの建物に声をかけた。その声は、波紋のように消えていった。あまりにも淡白に、あまりにも速く。
子供が何かを言った。母親が短く答えた。子供はすぐに黙った。
広場があった。
村の集落にあった広場と同じように、中央に井戸があり、周囲に建物が並んでいた。人も多かった。でも誰も、その広場の中央には近づかなかった。みんな端を歩いた。中央を避けるように、まるで見えない壁があるかのように。
少年は広場の中央に足を踏み入れてみた。
何も起きなかった。
でも、周囲の人々の目が一瞬、少年に向いた。驚いたような目。それとも、怖れているような目か。すぐに視線は逸れ、また誰も少年を見なくなった。
なぜ、広場の中央には近づかないのだろう。
少年は考えた。あの集落の魔法使いたちが広場で呪文を唱えていたことを思い出した。かつては、広場で歌を歌っていたのではないか。それが禁じられた後、広場の中央は、歌のあった空白になった。その空白に近づくことを、人々は無意識に避けているのかもしれない。
少年は、ゆっくりと辺りを見回した。
建物の壁に、何かが刻まれていた跡があった。でも表面が削られている。丁寧に、徹底的に。何が刻まれていたのか、今では分からない。
音楽の記号だったかもしれない、と少年は思った。
道の脇の木が、不思議な形をしていた。枝が横に広がることなく、すべて上に向かって真っ直ぐ伸びている。まるで意図的に剪定されたような形だ。でも誰がそんな剪定をするだろう。
それとも、木も歌えなくなると、こういう形になるのだろうか。
少年は歩き続けた。
塔が近づいてきた。
都の中心にそびえる黒い塔。第一章で地平線の向こうに見えていた時から、ずっと少年を引きつけてきたものが、今は見上げなければ全体が見えないほどの大きさで目の前にあった。
石で作られていた。でも、建物を作るような石ではなく、もっと古い石で。切り出した跡がない。まるで地面から自然に生えてきたような、太古の岩が積み重なっているような見た目をしていた。
塔の入口に、衛兵が立っていた。
今度は本物の衛兵だった。鎧を着て、槍を持って、表情のない顔で立っている二人組。彼らも、声を出さなかった。
少年は立ち止まった。
ここから先は、どうすればいい。
考えた。
老婆が言っていたことを思い出した。旅人が言っていたことも。巨人が言っていたことも。全ての声が、今は遠い。ここには少年一人だ。助けてくれる者は誰もいない。
でも巨人は言った。
「塔の最上階に、全ての答えがある」
少年は衛兵に近づいた。
衛兵が槍を構えた。
「……中に入りたいのですが」少年は言った。
衛兵は答えなかった。
「王に会いたい」
衛兵の目が、かすかに動いた。驚いたような、あるいは侮るような。二人は短く視線を交わした。それだけで、何かを決めたようだった。
片方の衛兵が、扉を開いた。
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