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FOREST WIZARD~赤髪の少年魔法使いの物語~  作者: Lyric of Fantasy
第二章 旅は古いものを呼び覚ます

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6/12

六、夜営と、忘れられた星

読む前に、まず再生してみてください。


この物語には、専用の音楽があります。

ケルトの旋律を流しながら読むと、文字がより深く、世界へと染み込んでいきます。


▶ BGMはこちら → [https://www.youtube.com/watch?v=nLcDQyHGrVY]

谷を抜けると、道は広い原野に出た。

遠くに、王国の塔が見えた。

第一章で地平線に見えていた黒い影が、今はもう少し大きく、もう少し具体的な形をして立っている。石で組まれた塔の頂上が、沈みかける夕日を受けて鈍い光を帯びていた。

まだ遠い。今日中には着けない。

少年は道の脇に焚火をした。

乾いた枝を集め、火打石で火を起こす。小さな炎が生まれ、夕闇の中でゆらゆらと揺れた。少年はその前に座り、背嚢から乾いたパンを取り出して、ゆっくりと食べた。

空が暗くなっていった。

夕の赤が消え、濃紺に変わり、やがて黒くなる。その変化の中で、少年は空を見上げ続けた。

星が出た。

一つ、また一つ。

少年は数えた。頭の中で、自分が知っている星の配置を思い出しながら。

足りない。

やっぱり、足りない。

森で育った頃、夜空にはもっと星があった。ある晩には、天の川が白い帯になって空を横断するほどに。でも、いつからだろう。少しずつ、少しずつ、星が減っていった気がする。最初は気のせいだと思っていた。あるいは、空気の汚れや雲のせいだと。

でも今は分かる。

巨人の言葉が、耳に残っていた。

「歌が弱まれば、星も薄れる」

少年は膝を抱えて、空を見た。

あの薄れていく星の一つ一つが、世界から消えた歌の欠片なのだとしたら。失われた魔法の、忘れられた旋律の、誰かの歌われなかった声の名残なのだとしたら。

胸が、重くなった。

焚火がパチパチと音を立てた。

少年は口を開いた。歌を歌おうとして、でも声が出なかった。

怖かった。

王国の領域に入ってから、ずっと怖かった。このあたりに人がいれば、歌声は聞こえる。誰かに報告されるかもしれない。旅人たちが言っていたことを思い出す。歌う者を狩ると。

でも、それだけではなかった。

もっと深いところに、恐れがあった。

もし歌ったとして、何も変わらなかったら。森では、歌えば鳥が答えた。木が揺れ、風が声を返してくれた。でも今、この石の道の上では、誰が答えてくれるだろう。何が応えてくれるだろう。

歌って、何も起きなかったら。

それが怖かった。

少年は焚火の炎を見た。炎は小さく揺れ、赤と橙と黄色の間を行ったり来たりしていた。音は出ない。でも炎には、何か歌に似たものがある気がした。自由に形を変え、ルールを無視して、ただ燃えていた。

「……歌われなかった星たちよ」

少年は呟いた。

歌うつもりではなかった。ただ言葉が出た。

「あなたたちは、誰の歌だったんだろう」

「どんな旋律だったんだろう」

「もし聞けたなら、どんな音がしたんだろう」

夜風が吹いた。

少年の赤い髪が揺れた。

それだけだった。

でも少年の掌が、またかすかに震えた。足元の石畳の、遠い奥底から来る振動。巨人の言葉が蘇る。

「お前は、まだ歌える」

まだ、とは何だろう。今後歌えなくなる可能性があるということか。あるいは、まだこの世界に歌える者が残っているということか。

少年には分からなかった。

ただ一つだけ確かなことは、今夜この原野に自分以外には誰もいないということだった。聞いている者はいない。報告する者もいない。王国の兵士も、旅人も、魔法使いたちも。

少年は深く息を吸った。

口を開いた。

音が出た。

歌とは言えないほど小さな、掠れた音だった。森で歌っていた頃の伸びやかさは微塵もない。震えていて、頼りなくて、正しい音程かどうかも分からない。

でも確かに、音が出た。

少年は少しだけ続けた。

言葉はなかった。ただの音だった。炎の揺れ方に似た、自由な形のない音。

すると。

遠くの空で、一つの星が、少しだけ明るくなった気がした。

錯覚かもしれない。そう思った。きっと錯覚だ。雲が薄れただけかもしれない。目が慣れただけかもしれない。

でも少年は、笑った。

小さく、誰にも見せない笑い方で。

「……まだ歌える」

炎が、大きく揺れた。

少年は目を閉じた。明日、王国の都に入る。都の中に何があるのかは分からない。巨人が言った「全ての答え」が、本当にそこにあるのかも分からない。

でも少なくとも今夜、この焚火の前で、一つの星が少しだけ明るくなった。

それで十分だった、と思った。

翌朝、少年は目を覚ました。

空は白んでいた。星は見えなかった。でも夜の間に、空はかすかに変わった気がした。たった一つの音が、世界のどこかをほんの少しだけ動かした気がした。

確かめる方法はない。

少年は立ち上がり、荷物を背負い、石畳の道を歩き始めた。

足音が石に響く。石が大地に振動を伝える。

コツ、コツ、コツ。

都が、近い。


この物語の続きは、音楽の中にあります。


▶ [https://www.youtube.com/watch?v=nLcDQyHGrVY] ←流しながら読むのがおすすめ


気に入っていただけたら、チャンネル登録もぜひ。

新しい物語が公開されるたびに、音楽も一緒にお届けします。


▶ チャンネル登録はこちら → [https://www.youtube.com/@Lyric-of-Fantasy]

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