二、歌えない魔法使いたち
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ケルトの旋律を流しながら読むと、文字がより深く、世界へと染み込んでいきます。
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村の端に、煙が上がっていた。
少年がここに辿り着くまで、何ヶ月ぶりに人間の足で歩いたことだろう。いや、そもそも人間と会話をしたことがあっただろうか。記憶にない。
家々が煙を吐いている。疲れた調べが、どこからか響いてくる。音楽ではない。ただの音だ。
人が動いている。硬く、機械のように。
村人たちは歌わない。ただ唱えるように、言葉を発している。
広場に、魔法使いたちが並んでいた。一列に、整然と。彼らは呪文を唱えている。正しく、正確に。
でも、虚しいだけだった。
少年は立ち止まって、彼らを見つめた。言葉は正しい。発音も、文法も、全て正しい。でも、魂がない。
まるで歌が消えたように。
「正確な呪文は、意味のない波紋……」
少年は呟いた。森で学んだことを思い出しながら。魔法とは、言葉の正確さではない。想いの強さだ。歌なのだ。
「お前さん、旅の者かね」
声がした。振り向くと、老いた女性が立っていた。背中が曲がり、杖をついている。でも目は、まだ生きていた。
「はい」少年は答えた。「森から来ました」
「森から……」女性は目を細めた。「そうか。まだ歌が残っている場所から」
少年の心臓が高鳴った。
「あなたは、知っているんですか。何が起きているのか」
女性は首を振った。
「知っている。でも、止められなかった」彼女は広場の魔法使いたちを見た。「あの子たちを見てごらん。呪文を唱えている。正しく、完璧に。でもね」
彼女は深く溜息をついた。
「魔法が、死んでいる」
「なぜですか」
「忘れたからさ」
「何を?」
「旋律を」女性は言った。「昔は持っていたんだよ。みんな、自分の歌を。魔法使いは歌って呪文を紡いだ。それが魔法だった」
彼女は古い本を取り出した。灰色のページをめくる。そこには呪文が書かれていた。正しく並べられた言葉。
でもリズムがない。音楽が全くない。ルールだけ。
「いつから、こうなったんですか」
「三年前だよ」女性は答えた。「王国から、お触れが来た。歌を禁ずると」
少年は息を呑んだ。
「王国が?」
「そうさ。理由は分からない。ただ、歌うことが禁じられた。魔法使いたちは従った。従わざるを得なかった。そして……」
彼女は広場を見た。
「こうなった」
子供たちも、呪文を習っていた。毎日、毎日。完璧に、鐘のように響くように。
でも彼らの目は、死んでいた。誰も言わない闇の中で、歌が欠けている。魂の場所の深みで。
老人が近づいてきた。青い目で、少年を見つめる。
「昔は歌ったんだ」老人は囁いた。「魔法が育ったんだ」
「でも」少年は言った。「それは真実ではないと」
老人は首を横に振った。
「王国が恐れているんだ。自由な魔法を」
夜、少年は村の外れで野営した。焚火の前で、老婆が訪ねてきた。
「教えてあげよう」彼女は低く、真実を吐いた。「王国が恐れているのは、歌が育ちすぎることだ。予測不能だ。所有できない」
「魔法は野生だった」彼女は痛みを込めて言った。「風のように、雨のように」
「でも王国は、支配したかった。同じようにしたかった」
老婆は少年の目を見た。
「歌を奪えば、魂も奪う。それが王の選択だった」
焚火が、パチパチと音を立てた。
「どうすれば……」少年は尋ねた。「どうすれば、歌を取り戻せますか」
「王国に行きなさい」老婆は言った。「答えは、そこにある」
「でも危険です」
「もちろん」老婆は微笑んだ。悲しそうに。「でも、お前さんは行くだろう。赤い髪の少年よ。お前の目に、まだ火が宿っている」
少年は古い呪文を試してみた。声高く、歌うように。
一瞬、魔法使いたちが息を呑んだ。広場に集まった。
光が示した。何かの予感が。
でも光は一瞬で消えた。
人々は怖がるように逃げた。村人たちも、消えるように隠れた。
「止めろ!」
「危ない!」
「襲撃を招く!」
誰かが叫んだ。
「誰からの?」少年は尋ねた。
「王国から」
恐怖が、村を支配していた。完全に、徹底的に。
少年は理解した。
正しさが、間違いだった。
自由が、正義だった。
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