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FOREST WIZARD~赤髪の少年魔法使いの物語~  作者: Lyric of Fantasy
第四章 選択と回循

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十一、赤髪の歌

読む前に、まず再生してみてください。

この物語には、専用の音楽があります。


ケルトの旋律を流しながら読むと、文字がより深く、世界へと染み込んでいきます。

▶ BGMはこちら → [https://www.youtube.com/watch?v=nLcDQyHGrVY]

音が出続けた。

自分でも信じられなかった。これほど長く声が出るとは思っていなかった。

止まるかと思った。何度も思った。でも止まらなかった。

声は小さかった。でも広場には音がなかったから、その小さな声が、広場全体に広がっていった。石に反響し、建物の壁に当たり、戻ってきた。少年自身の声が、少年の耳に届いた。

それを聞いて、少年は初めて自分が歌っているということを、実感した。

歪んでいた。でも、歌だった。

下手だった。でも、歌だった。

止まらなかった。だから、歌だった。


少年が後に思い返した時、あの瞬間のことは靄がかかったように曖昧だった。でもいくつかのことは、鮮明に覚えていた。

石畳が揺れた。

建物が揺れたわけではなく、地面が割れたわけでもなく、ただ石畳が。足の裏を通して伝わる振動が、強くなった。遠い谷の底で、巨人が目を覚ましたような振動が。

広場の縁にいた人々が、一人、また一人と動いた。

逃げたのではなかった。中央に向かって、一歩ずつ、近づいてきた。

なぜかは分からない。少年の声に引き寄せられたのか。あるいは、石畳の振動が足元から伝わって、体が勝手に動いたのか。

魔法使いだと分かる人もいた。集落の魔法使いたちとは違い、こちらの人々は呪文を口にしていなかった。ただ、立って、聞いていた。

子供が泣き始めた。

なぜ泣いているのかは分からない。でも泣いていた。声を出して泣いた。三十年間、この都で上げられた中で最も大きな声かもしれなかった。

その声を聞いて、少年は歌を止めなかった。

止められなかった。

何かが少年の中を流れていた。巨人が語った真実が。霧の女が残した三十年の重みが。老婆が少年の目に見た火が。石畳が足裏に伝えてきた大地の記憶が。夜空の、消えかけた星たちが。

全部が、今、声になろうとしていた。

少年は歌い続けた。

やがて、言葉が出てきた。

意図したわけではなかった。声の中から、自然に言葉が浮かび上がってきた。森で覚えた言葉でも、旅で聞いた言葉でもなく、少年の中にずっとあって、一度も外に出たことのなかった言葉が。

霧の中で育った。名前も持たない森の子が。

世界の歌を探しに来た。たった一人で、知らない道を。

声が、震えた。

怖かった。今も怖い。正しい音程も分からない。

でも足が止まらなかった。それだけが、確かなことだった。

広場の人々が、静止していた。

商人が荷物を下ろして立っていた。母親が子供の手を握ったまま動かなかった。老人が、目を閉じていた。若者が、空を見上げていた。

少年には見えなかったが、都の外れでは、石畳が一センチ、浮いていた。地面と石の間に、空気が入っていた。三十年ぶりに、大地が息を吸い込んでいた。

都の空では、星が少しだけ、明るくなっていた。

少年の声が、続いた。

この歌は、正しくない。

でも止まらない。それだけが、今の全てだ。

歌われなかった声が、ここにある。

正しくなくていいから、聞いてほしい。

広場の縁で、一人の老女が、口を開いた。

音が出た。

歌ではなかった。言葉でもなかった。でも音だった。少年の声に、重なるような、重ならないような、全く関係のない音程の、でも確かに音が。

隣の男が、驚いて老女を見た。

それから男も、口を開いた。

違う音が出た。

バラバラだった。揃っていなかった。少年の歌とも、老女の音とも、まるで調和しなかった。でも、音だった。

一人、また一人。

バラバラな音が、広場に溢れ始めた。

美しくなかった。正しくなかった。揃っていなかった。でも音だった。三十年間出てこなかった音が、一度に、一斉に、それぞれ勝手な方向に出てきた。

子供の泣き声が、混ざった。

犬が吠えた。どこかの建物の中で、物が倒れる音がした。

少年の声は、その中に埋まっていた。

でも少年は歌い続けた。

音の嵐の中で、少年の声は小さかった。でも止まらなかった。

止まらないことだけが、この歌の全てだった。


どれほど続いただろう。

少年には分からなかった。

声が枯れ始めたのは感じた。でも止まらなかった。

広場の石畳が、熱を持ち始めていた。地面から来る熱ではなく、石そのものから来る熱だった。三十年眠り続けていたものが、ようやく目を覚まし始めているような熱だった。

人々の声は、まだバラバラだった。

揃わなかった。揃わなくていいのかもしれなかった。

一つ一つの声が、違った。それが当たり前のことだった。同じ声は、この世界に一つもない。それが当たり前のことだった。

完璧な歌が世界を壊したなら、完璧でない歌が世界を直す、ということはないかもしれない。

でも少なくとも、今この瞬間、広場に音があった。

三十年間なかった音が。

少年はゆっくりと、声を小さくしていった。

終わらせるのではなく、ただ、小さくしていった。

徐々に徐々に、海の波が砂浜に吸い込まれていくように、少年の声が静かになっていった。

広場の人々の声も、それに合わせるように、少しずつ小さくなっていった。

揃っていなかった。でも同じ方向に動いていた。

やがて、少年の声が消えた。

沈黙があった。

でも三十年前の沈黙とは、全く違う沈黙だった。

音の後の沈黙だった。


この物語の続きは、音楽の中にあります。

▶ [https://www.youtube.com/watch?v=nLcDQyHGrVY] ←流しながら読むのがおすすめ


気に入っていただけたら、チャンネル登録もぜひ。


新しい物語が公開されるたびに、音楽も一緒にお届けします。

▶ チャンネル登録はこちら → [https://www.youtube.com/@Lyric-of-Fantasy]

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