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FOREST WIZARD~赤髪の少年魔法使いの物語~  作者: Lyric of Fantasy
第四章 選択と回循

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十、歌われなかった歴史

読む前に、まず再生してみてください。

この物語には、専用の音楽があります。


ケルトの旋律を流しながら読むと、文字がより深く、世界へと染み込んでいきます。

▶ BGMはこちら → [https://www.youtube.com/watch?v=nLcDQyHGrVY]

広場の中央に、立った。

足が止まらなかった。それだけが、確かなことだった。

広場の石畳は、都の外の古道より新しかった。でも同じように、踏みしめるたびに振動があった。地面の奥底から、かすかな共鳴が返ってくる。谷の巨人が石を通して少年に合図を送ったように、この石も何かを伝えようとしていた。

少年は立ち止まり、足元に目を落とした。

石が、震えていた。

ほんのわずか。でも確かに。まるで長い眠りの底で、誰かが夢を見ながら体を動かすような、そういう震えが、少年の靴の裏を通して伝わってきた。

広場の縁で、人々が立ち止まっていた。

通りすがりに少年を見た人が、立ち止まった。その隣にいた人も気づいた。荷物を抱えた商人も、子供の手を引いた母親も、老いた男も、若い女も。誰も何も言わなかった。ただ立って、広場の中央に立つ一人の少年を見ていた。

赤い髪。

それが目立ったのかもしれない。この灰色の都には、赤い色がなかった。服も、建物も、顔も、どれもくすんだ色をしていた。その中に、炎のような赤い髪をした少年が立っている。

静寂が、重くなった。

夕暮れが、深くなっていた。橙の光が石畳を染め、広場に長い影が伸びていた。塔の頂上が、空の色と同化し始めている。

少年は空を見上げた。

星が出始めていた。

数えた。一つ、二つ、三つ。

足りない。

やはり、足りない。

でも見えた。消えかけた星々が、それでもまだそこにあった。完全には消えていない。かろうじて、まだ灯っている。

少年は、ここに来るまでのことを思い出していた。

霧の森。苔の香り。鳥の声。風の歌。孤独だったけれど、あの森には確かに、生きている音があった。

集落の広場。呪文を唱え続ける魔法使いたち。死んでいる目で、完璧に言葉を繰り返す人々。老婆の言葉。お前の目に、まだ火が宿っている。

古道の石畳。足音に答える大地の共鳴。石が、まだ覚えていた。

谷の巨人。おそろしく遅い声。世界は歌われて生まれたと、事実を述べるように言った。そして。お前は、まだ歌える。

焚火の夜。誰にも聞こえない声で、掠れた音を出した夜。一つの星が、少しだけ明るくなった気がした夜。

霧の女。三十年分の歌われなかった声。夢の中だけで歌い続けた老人の旋律。歌って、小さな勇者。

王の疲れた顔。止めない。

それら全てが、今、少年の体の中にあった。

重かった。でも荷物ではなかった。重さが、力だった。

少年は深く息を吸い込んだ。

広場の縁で、人々が静かに見ていた。

塔の最上階に、窓の明かりが灯っていた。

少年には見えなかったが、その明かりの前に、老いた王が立っていることを、何となく感じていた。

少年は口を開いた。

出てきたのは、歌とも言えない音だった。

震えていた。掠れていた。音程が正しいかどうかも分からなかった。旋律があるのかどうかも分からなかった。言葉もなかった。ただの音だった。

でも少年は続けた。

止まらなかった。

少年の足元の石が、震えた。ほんのわずか。でも確かに。その震えが広がっていった。石から石へ。広場の端へ。道へ。都の石畳へ。


世界が、三十年間に失ったものを、少年は今、知っていた。

一人の魔法使いが歌いすぎた。地面が割れた。十七人が死んだ。王は恐れた。歌を禁じた。

魔法が死んだ。集落の人々の目が死んだ。広場の中央が空になった。星が薄れた。大地が黙り始めた。

霧の女が生まれた。歌われるべきだったのに歌われなかったものたちが、形になって漂い始めた。

三十年間。

誰も歌わなかった三十年間に、失われたものの重さを、少年は霧の女から受け取っていた。王と向き合った部屋で、感じていた。石畳の振動から、読み取っていた。

完璧な歌が、世界を壊した。

だから王は、全ての歌を止めた。

でも完璧な沈黙も、世界を壊した。ただ、ゆっくりと。静かに。誰も気づかないうちに。

どちらも正しかった。どちらも間違っていた。

少年には、その答えが分からなかった。

分かることは一つだけだった。

歌わなければ、何も始まらない。


少年の声が、広場に流れた。

言葉のない、旋律のない、正しくない音が。

広場の縁の人々が、動かなかった。逃げなかった。叫ばなかった。

ただ、聞いていた。

子供が一人、母親の手を離した。広場の中央に向かって、一歩踏み出した。母親が止めようとして、でも止めなかった。

その子供の目に、光があった。

三十年間、一度も見たことのないような光が。

この物語の続きは、音楽の中にあります。

▶ [https://www.youtube.com/watch?v=nLcDQyHGrVY] ←流しながら読むのがおすすめ


気に入っていただけたら、チャンネル登録もぜひ。

新しい物語が公開されるたびに、音楽も一緒にお届けします。


▶ チャンネル登録はこちら → [https://www.youtube.com/@Lyric-of-Fantasy]

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