3層 めんどそうだしフラグ折っとこ
「待って!」
得るものもお互い無さそうだから別れてゴブリンと戦おうと思ったのだが、むすぅと擬音が聞こえてきそうなほど頬を膨らませている。
「まだ何か?」
「……えっと」
頬を膨らませたまま目を瞑り、引き止める理由を今考えているようだった。先に考えておけと思うものの、状況がマズイ。非常にマズイ。何がマズイかって、めっちゃイタズラしたくなる顔をしているのだ。こうまで隙を晒されて何もしないのは人としてダメだろう。
よし!
俺は、そっと未だ視覚を遮断してるポニテワンコの後ろにいる蛇字丸さんもとへ移動。蛇字丸さんを俺が居たところに立たせる。
清楚さんに耳打ちで仕込みをしておく。
「……俺が行ったらあのほっぺ押す感じで」
「……わかりました」
そして俺は足音を立てないようにその場から立ち去った。正直このまま潜っても追いかけ回されそうなので、一度帰ることにした。
もともとゴブリン戦を見ていて、現状の装備ではゴブリンの相手が難しそうだと思ったのもある。
対人を想定した戦い方で挑むべきで、トンカチとティッシュ、切れ味の悪いナイフでは厳しいだろう。
ゴブリンが出るとわかっただけよしとしよう。
さて、深夜だし大人しく帰ろう。
ダンジョン前にある協会本部は二十四時間営業ではあるが、大した量の魔石でもないのでまた今度換金しよう。
終電は当然過ぎているので徒歩で家へ。
と言っても距離的には15分程度だからもとから歩きだ。
深夜の誰もいない河川敷の横を歩く。
俺は寝なくてもいいけど、蛇字丸さん達は流石に不眠不休は無理だろうし明日には居ないだろう。明日は出くわさないように昼頃にダンジョン行こっと。
「ん?」
空気を切り裂くような鋭い音が聞こえた。
直後、何かが勢いよく横の川に突っ込んだ。
水柱が盛大に立ったので、隕石でも落ちたのかと野次馬しに行くと――そこにはボロボロのコスプレイヤー?らしき人がいた。
白銀の髪を真っ直ぐ垂らし、アメジストのような瞳には上位存在のような圧が宿っていた。
「よくできたコスプレだな。いや、何かの映画撮影とかか。カメラどこにあるんだろ?」
野次馬モブとして混ざった方がいいのか、無視して通り過ぎた方がいいのか。実に悩ましい問題である。
「――何を見ている人間風情が!」
おっと、いきなり怒鳴られたぞ?
二の腕にある切り傷らしきものを手で押さえながら、人を射殺さんばかりの睨みが俺を穿っている。
しっかし結構距離あるし深夜で暗いのによく見えるな。……あ、俺も見えてるわ。これも【平常運転】かな。日中レベルで鮮明に見えるし。
そういえばダンジョンも暗かったか、なんてことも過ぎったが、天井辺りが謎に光っていた気がしないでもない。まあ俺には関係ないしどうでもいいか。
「何を黙っている! まあいい、少し消耗が激しい。貴様には我が糧となってもらおう」
「ごめんなさーい! 遠くてよく聞こえませーん!」
何か話しかけられているようなので近付くことに。
「……図が高い。『平伏せよ』」
だから聞こえないっての。
「今行きますからちょっと待っててくださいって!」
土手を降りて川に……は入りたくないので向こうに来てもらおう。
「すみません、聞こえにくいしこっち来てもらえません?」
「…………いいだろう。我が言霊をものともしない勇姿に免じ、最高級の味付けで糧としよう。【三濁の試練】」
なんかブツブツ言いながらこちらに歩いて――よく見たら浮いている。この短期間でスキルを用いた映画撮影とはなかなか行動が早い……なんてありえるのだろうか?
もう少し普通時間かかるよな?
てかやっぱりカメラっぽいのも見当たらないし他の演者も居ない。あれ、もしかしてこの人――
「『世界の果てにて我が身は朽ちた。至高の城は未だ崩れず。杯に満たすは儚き魂。昏き恐怖を染み込ませ、深き絶望を混ぜ、絶えぬ混沌を振りまいた。さあ、馳走の刻だ。その生命の奔流をもって、我が身を潤せ』」
どす黒い渦が地面に展開された。
目の前の同い年くらいの少女の瞳が鮮明に輝く。
「――【根源喰】」
俺の周りから、というより虫やら微生物らしきものからフワッと半透明な何かが浮かび上がって、彼女の胸に入っていった。
よく分からない。
まあでも、やはりそうだろう。
「スキルを手に入れてはしゃいでる中二病ですか。流石にこんな夜中に派手なひとり遊びは……いや、深夜くらいしかできないからやってるのか」
「貴様、我を侮辱しているのか! というか何故我が奥義が効いておらぬのだ! あれは発動が難しい分、神の魂すら捕食するというのに――待て。貴様なぜ平然としている? 【三濁の試練】は間違いなく発動したというのに……」
「うわ、この傷本物じゃないですか……自傷行為はやめた方がいいっすよ。もっと自分を大切にしなさい。ちょっとお待ちを……えーと」
リュックに包帯があるのでそれを取り出す。ついでに消毒もしておくか。川に突っ込んでバイ菌すごい入ってそうだし。この場合は水とかで洗い流してからとかの方がいいのかな?
まあいいや、消毒しとけばなんとかなるなるだろ。メーカーさんを信じるぞい。
「ちょっと染みますよー」
「お、おい! 我が至高なる腕に触れるでない……!」
「あーはいはいつよいつよい。ぽんぽん」
「に゛ゃっ!?」
「よく頑張りました。ほい、巻き巻きー」
「貴様さっきから何のつもりだ」
包帯を巻いているだけなのに目の前で物凄い剣幕で睨まれる。そんな怒んないでもいいのに。
「ただの手当てですよ。あ、別に俺がただのっていう名前ではないんですけどね」
「貴様は何を言っているんだ……?」
しっかしこの人びちょ濡れだな。服装も横乳の見える際どい格好だし、なんならヘソの所も見えるやつなので風邪をひいてしまうだろう。
「家はどこです? 帰れます?」
「家などない。必ずや力を蓄えて復讐せねば――」
「あーそっすねー。家出少女ってわけか……んー」
うちの両親は現在海外で別居中、この子を連れて帰っても問題は無いが、折角食費が浮いたので、そういつまでも泊めてやるわけにもいかない。
馳走とか糧とか言ってたしお腹空いているのだろう。放っておくのも後でモヤりそうだし連れて帰るか。食べなくてよくなって余ってるカップ麺の消化と、着れなくなった服をあげるだけならいっかな。明日には帰ってもらえばいいだろう。
「じゃあとりあえずうちに来てください」
「な、貴様! 何故この我が低俗な人間の招待など受けねば――」
「ほれ行きまっせー」
めんどくさい少女の手を引いて帰宅したのだった。
その後、帰宅即風呂にぶち込み、用意しておいた服を着せ、カップ麺を食わせた。
髪も目もウィッグやカラコンじゃないらしく、そのまま俺のベッドで眠ってしまった。
俺は(精神的に)着れなくなった、“世界の半分をくれてやろう”Tシャツを着た少女を抱き上げ――
床に転がしてから、布団に入ってスマホゲーを始めた。
悪いな、定員は一名限りなんでね。




