2層 ネズミーランド(偽)とクラスメイト、実質修学旅行
あれから三時間ほど経過して、出くわしたスライムの数はたったの四匹。最初により効率的に倒す方法を模索して、結局スライムの体全体を覆えるサイズのハンカチの両端を持って核を掬って倒すの最速だと分かった。
今後同じスライムが出たらこれで処理できるだろう。
ちなみにうち一匹は試食してみたものの、無味無臭で、硬水とも軟水とも違った珍妙な味だったので吐き出した。ラムネの味とかして欲しかったんだけどなー。
少なくとも現状、他にモンスターが出そうに無いので、2層へ降りることにした。広く長い階段に少なくないテントが張られている。階段が安全地帯なのか、ここで寝泊まりしている様子だった。
時刻はギリギリ日付が回っていない頃。ギリギリまでしばらく活動している人もチラホラいるので、モンスターはパッと見居ない。
「さーて、マッピンっこぉー!! グーグーグーググー♪」
内なる江戸時代のはるみさんも顔を出しながら、マッピングを始める。2層は、中世ファンタジーにありそうな下水が流れる両横に道があるマップだ。剥き出しの岩場は上の階層と同じなので洞窟というコンセプトなのだろう。
まあダンジョンが人工的なものであったらの話だが。そういうのは頭のいい人が考えることだ。俺は事実をありのまま記録して手探りでのんびり攻略していけたらそれでいい。
「おっ、モンスターくんじゃーん」
ひょこっと通路の先から顔を出したのは、膝下くらいの大きさのネズミである。喜怒哀楽はともかく、嫌悪感を強く抱けないようなので、汚くて何か病気でも持ってそうなネズミにも特に思うところはない。
「カツアゲじゃおら! 出すモン出せや!」
「ヂュィ!!」
トンカチの尖ってる方を、思いっきりネズミの眼球にぶつける。
「ヂャア!?」
水風船のような感触を手で感じ、ネズミの目から薄黒い霧が漏れ出た。どうやら血の代わりに霧が出るようだ。
一度後退して様子を見ていると、ネズミはあまり視覚を主として使っていないのか、突進攻撃をしてきた。
「おー、自転車くらいの速さね」
まだ浅い層だからかそこまで危なくない。後ろから気付かずに直撃したら結構ヤバそうだけど、幸い数自体全然居ないので不意打ちを食らうこともないだろう。
「しっかしモンスターってどういう仕組みで感知してるんかねー。どれどれ」
怒って突撃してくるネズミを翻弄しつつネズミの感覚器官について調べる。
どうやら視覚は劣っていて、鼻、耳、ヒゲの感覚が優秀らしい。
「よっしゃ。順番にもいでやるからなー」
「ヂュェ!?」
不細工な鳴き声を発するネズミ相手にトンカチで無理やり部位破壊を行った。コンプライアンスあるいはレーティング上の問題で世間様にはお出しできないが、結果としては地上のネズミの生態と一致してそうとだけわかった。
「よし、ネズミーランド開園じゃい!」
いたぶってネズミの臭いをほんの少しだけ服に付けてみたので、こちらへの反応が遅れるなら仲間だと一瞬でも誤認させられる。ついでに倒したモンスターの影響がどこまで残るかの実験にもなる。
「お、いたいた。そーっと」
足音をできるだけ立てないように、背を向けたネズミに近付く。結局背後に立っても気付いていない。どうやら臭い紛れ作戦は成功らしい。人間では気付かないレベルの臭いでも誤魔化せるのはありがたい。
俺は満足しながらネズミの耳元まで顔を寄せ――
「キィエエエエエェ!!!!」
「ヂュッ!!?」
腹から渾身の奇声を出して音波攻撃(ゴリ押し)。効き目はあったようでネズミは泡を吹いて倒れてしまった。気絶したようだ。
どれくらいで目覚めるのか待ちながら、トドメの一撃の準備をした。
五分程経ち、ネズミは微かな呻き声を出しながら鼻をヒクつかせて起き上がろうとしてきた。
測定は終わったので俺は持っていたトンカチを、ネズミの心臓があると思われる位置に添えていた釘目掛けて全力で振った。
「釘〇ンチ!」
相手は死ぬ。
よし、食べれないのが原作再現失敗ではあるが……待てよ? 気絶してる時なら調理し放題なのでは?
マッピングを再開しながらお次の……あっ見つけた。そろりそろり。
「キュャアアアアアアア!!!!」
――てなわけでお手元にございますは、気絶したネズミさん。そして安物で切れ味には期待できないサバイバルナイフ。
ギコギコと強引に刃を入れた。
「ご開帳! おー……内臓が無いぞう?」
薄黒い霧が詰まってるだけで、筋肉の下には骨と霧だけしか無かった。
……よく考えたら耳とか引きちぎった時に黒い霧になって消えてたし、切り取った時点で調理できない。
丸かじりしか方法は無いのか……!
そんなことを考えていると、ふと視線を感じた。そういえばご開帳してるときに足音が聞こえたような気もしたが、通行の邪魔だったかと思って振り返る。
「えーと……悲鳴が聞こえたから助けようと思って…………オヤジギャグ言うくらい余裕そうだったからあれだけど」
「……」
ポニーテールの同い年くらいの女子がそう言った。その後ろには彼女の仲間と思われる女子二人がこちらの様子を窺っていた。しかもクソ寒い内臓ギャグも聞かれていたらしい。
「おーい」
「内臓が内蔵されてないぞう?」
「おかわりは求めてないよ!?」
我ながら更なる高みへ至れたと思うのだが、まだ俺のレベルでは太刀打ちできないようだ。
「はあ、まあいいっすけど……あっ、ネズミ死んでらぁ。ところで、どこかでお会いしたことありませんかね? さっきから皆さんの顔に既視感がありまして」
「急に落ち着かないでー」
「これが、恋……?」
「フライアウェイ!」
「それとも前世からの並々ならぬ爛れきった四角関係……?」
「昼ドラも真っ青な地獄絵図!」
なんだこの人。気持ちいいツッコミしてくれるじゃん。知り合いにこんな人いたっけ?
「――ねえ、いつまでダンジョンで漫才見せられなきゃいけないんだ?」
「まあまあ。楽しそうですしいいではありませんか」
不満そうにこちらを睨む金髪ちびっ子ギャル、お上品な笑顔を貼り付けた艶の綺麗な黒髪をいわゆる姫カットにした清楚なお嬢様。
あー、この人達知ってるわ。
「クラスメイトの……」
「そうそう! 覚えててくれたんだ!」
「どっちかと言うと今思い出したみたいだったけど」
「ふふっ」
そうそう、確か――
「佐藤さんと山田さんと鈴木さんだ」
「「「誰!!?」」です!?」
チッ、外れたか。




