0層 うおおおお!決戦??
蛇字丸邸は見るも無惨に絶賛大炎上中であった。
周囲には、「ダンジョンは悪」と書かれた旗を持った怪しげな集団が。
彼らいわく、ダンジョンに入ってそのエネルギーを地上にばらまく悪魔を見せしめにしてやった、らしい。何言ってんだこいつら。
俺は邪魔なやつらを蹴飛ばし(オブラート)ながら中の三人の救助へ走る。
完全に囲うように火の手が上がっていたし、居間からは、庭を経由して外壁も、廊下を通って正面からも若干遠く、外敵がいることを考えると脱出は難しいはず。
不幸中の幸いなのは、蛇字丸さんがバリア系のスキルを持っているという点だろう。持続時間までは不明だが消防車が来ていない時点で比較的直近に炎上したはずだしまだ保っているはず。
俺は迷うことなく居間へ。
「蛇字丸さん!」
三人とも身を低くして煙から逃れつつ、バリアスキルで火の手からも逃れていたようだ。無事なようで一安心。
「八百枝! 悪いけどこの子達を先に――」
「よっしゃ、全員俺に掴まれ!」
「は? 何言って――」
「えぇい! これでもくらえ、ドミナスブラックビッグハグ!」
酸欠にでもなったら大変なので説明は後だ。
三人まとめて抱えるように腕を回す。そして外にピン刺ししておいた座標に転移した。
「これぞ、ドミナスブラックテレポート! どや!」
「おー! ミナミ兄ちゃんすっご!」
「ミナミにぃにすごーい!」
ゆうとくんもえりちゃんも尊敬の眼差しで俺を見る。ふふん、もっと敬いたまへ。
そんな渾身のドヤ顔を見せつけるも、蛇字丸(姉)からいつものような辛辣な罵倒は飛んでこなかった。代わりに見せたのは――。
「……さんきゅ、何から何まで」
しおらしい表情だった。同時に悔しさを感じているようでもあった。自分があまりに無力で、助けてくれたことはありがたいが歯がゆさでどうにかなりそうなのだろう。俺にもその気持ちは理解できる。
昔はよく部屋に出たGにビビりまくって親の手を借りていたものだ。
「俺だけの力じゃないっての。蛇字丸さんが火の手から守っていたからこそ傷一つなく救出できたんだし」
「そもそもサポートくらいしかできないから……」
「いいじゃんそれで。人間誰しもできることできないことくらいあるだろ。っと、ドミナスブラックとしての責務を果たさねば! ちょっとアイツらシメてくる!」
俺は救出前に蹴飛ばした放火魔集団に順番に往復ビンタを繰り返して本拠地を聞き出した。スマホで場所をピン刺しして出発した。
「ドミナスブラック! がんばれー!」
「にぃにおうちのかたきー!」
「ああ、行ってくる」
かっこいいかなと思って振り返ることなく片手を軽く上げて応じた。子供にはカッコつけ得だからな!
俺は子供達の期待を裏切らないよう、向こうから見えない脇道に転移してから目的地へ、みっともない猛ダッシュを開始した。
不審者爆走中。
ということでやはり途中警察のお世話になりつつも、何とかして30分ほどで目的の高層ビルへやってきた。
悪い奴らはなぜ高いところに住み着くのか。そんな悪の根源という哲学的課題を究明するべく、もとい貴重な苗字たる“蛇字丸”の名を絶やさないために俺は胡散臭い宗教の総本山に単身で突撃したのだった。
◇
「ドミナスブラック見参パートツー! ってあれ?」
どうせと思って最上階へ突撃。ビルの外側のガラスを蹴破って、社長の椅子みたいなそれに座った人物と、その前に跪く三つの人影。あ、一人は敬意とか無さげに突っ立てるわ。何はともあれ、いかにもなメンツが集っていた。しかも見覚えのある顔が過半数。
まず、さっきの借金悪徳連中と面会か何かをしていた外国人少女とフードの女。突っ立っているのはフード。
跪いているもう一人は、中学生くらいの目つきが悪い少年だ。
そして、そんな三人の先――俺の目の前で社長椅子に腰をかけているのは、“世界の半分をくれてやろう”Tシャツを着た、白銀の髪を携えた中二病少女ことハインラスさんだった。相変わらずコスプレみたいにアメジストのようなカラコンを入れているようだ。
「ミナミ? なぜここに?」
そんな問い掛けに、俺はチッチッチと人差し指を揺らしながら訂正した。
「俺は南などという上から読んでも下から読んでも同じ名前ではない! そう! ドミナスブラックだ! 放火魔を成敗しに参った!」
「? よく分からぬがミナミを焼き討ちにしに行ったのか? ――聞いておらぬぞ、貴様だなカレラ」
人を織田信長みたいに言わないでほしい。
彼ら――あ、カレラか。半ライスさんの視線が外国人少女に向いていたので思い出した。確か彼女の名前がカレラ・ヤングとかだった気がする。
ヤングって名字だよな。年老いてもヤングって名乗るのか。あ、結婚とかすれば変わるのか。夫婦別姓の話も聞いた事あるが、彼女の国によって違うのかな。
「……失礼いたしました。まさかハイン様のお知り合いとは思わず。彼のご友人に少しちょっかいをかけてしまいました」
粛々と、罰を受けるのも受け入れるといった面持ちでゆっくりと頭を更に下げた。その異様な雰囲気を見て、俺は理解ってしまった。
この人たち、とんでもない――――
「ふん、そこまでこやつも怒っていないようだから許す」
「ありがたき幸せ。寛大な御心に感謝いたします」
――とんでもない聖人たちなんだ!
可哀想な半ライスさんのおままごとに付き合ってあげている、いい人たち。その過程で宗教団体作ったら部下が暴走してしまったといったところだろう。たぶん宗教として入ってるやつらはもとから頭おかしいやつらだから、ここにいる幹部面をしている三名は、結託して中二病の面倒と世間の頭おかしいやつらの招集アンド制御を試みているのだ。
そして今の部下を庇うやり取りや、先刻の議論への誘導を踏まえ、ヤングちゃんはとんでもないお人好しなのだろう。
俺は心の中で敬礼しながらことの成り行きを見守ることにした。
「ああ、それとこやつは知り合いなどではない」
「では一体……?」
「唯一の友、だ」
「なんと!」
「へぇ?」
「……」
面白いことを聞いたと言わんばかりに目を輝かせるヤングちゃん、チラッとこちらを見た少年。フードの人……確かリーフさんだっけ? そいつだけは変わらず興味なさげだ。
ちなみに見守ると決めたので、ドヤ顔でこちらを向いてくる半ライスさんはガン無視している。
「友だ!」
なんか二回言ってる。
「友だ!!!」
聞こえてるって。ある種の勝負だと思って無視を貫く。
あ、ゆっくり寂しそうな表情になってきた。友達俺しかいないんだろうか、可哀想。
俺はいっぱいいるけどね!
…………パッと思い浮かばないけどいるからね!
なぜか俺が何か言うまで待っている感じの空気になってきた。仕方ない、俺のカリスマが暴行しやがる。
「……ま、放火とか物理的になんか壊すタイプはやめてな。ドミナスブラックが主張成敗サービス(初回無料)しなきゃいかんから」
「うむ、任せておくがよい。ところで友よ、あー、我、お主と友でいいん……だよな?」
「いいべいいべー」
「ほっ……」
なんかとりあえずことは収まったようだ。
ただ、このまま引き下がると火災にあった蛇字丸邸か浮かばれないので、ふんだくることに。賠償金を蛇字丸さん宛に送るよう、友達価格(割増)で頼むと、金銭感覚がおかしいのかヤングちゃんに手配するようすぐに指示を出していた。
すげー、てきとーに3億でふっかけてみたんだが、贈与税? とかそこら辺大変そうだな。まあ蛇字丸さんの手間が増えるだけだし俺は知らん。
幹部の人達もそそくと立ち去ったので、俺も帰ることにした。
「……ミナミ、少しよいか?」
「ドミナスブラックですが何か」
「我、無駄に高いビルに住んでいるのが、たまに遊びに行って良いか? 良いな?」
「別にいいけど前置き何? 金持ち自慢か! 喧嘩? 喧嘩か!?」
よし乗った。ちょうど振りかざした拳の下ろし先を探していたんだ。
「ちがっ、単に居心地の話をしておるだけだ」
「ほーん? ま、別にいいけどさ。遊びに来るのも良いけどダンジョン行ってていなかったらすまんなー」
仕方ない。この消化不良感はダンジョンで晴らすとしよう。俺は颯爽と最上階から飛び降りて着地を決めた。ちょっと膝に来た痛みに顔を歪めつつも蛇字丸一家のもとへダッシュ。
するとヤングちゃんが手配していたのか、既に彼女らに補填として新たな家が用意されたのを聞いて安心した帰った。
ドミナスブラックのお面はくれるらしい。俺は子供に優しいお兄ちゃんで有名なのですぐに捨てたりはしない。自室のタンスの奥の方にしまい込み――夜の街へダンジョン攻略のために駆けていくのだった。
冗長になりそうなので巻きました。テンポの良さがウリです。詳しい内容は製品版で!!(書籍化できるもんならやってみろの腕組み)




