12層 馬耳念仏豚真珠糠釘猫小判暖簾腕押竹輪大明神
協会本部のビル――その最上階。
高級ホテルみたいなカーペットの廊下を歩く。高級ホテルなんて行ったことないけど。
「なんか高いところって耳きーんってしません? 俺はしません」
「……首根っこ掴まれた状態でよくアホみたいなこと言えますよね」
「ありがとうございます」
「褒めてません」
相変わらず司條さんは冷たいな。ロリきょぬーなのだからもっとポンコツ感を出してもいいと思うんだ。俺が逃げ回ったせいでこの反応というのもあるだろうけどさ。
頬を膨らませたまま彼女は最奥の部屋にノックした。
「本部長、おバカさんを連行してきました、司條です」
「はいはい、どうぞ〜」
中からハスキーな高めの男の声が響く。
扉の中に連れていかれ、ダンジョン関連の頭とご対面することに。
短い白髪の混じった黒髪、貼り付けたような胡散臭い笑顔、そした何より瞳が見えない弧を描く糸目。
「うわ絶対終盤に裏切るタイプの人だ!」
「ぶふっ……」
司條さんが怒りから一転、吹き出した。絶対同じこと思ってただろ。
「人がゴミのようだと言わんばかりの後ろの一面のガラス張り、趣味の悪いイノシシの頭の装飾、成金みたいなデスク周り――くっ、貴様それでも人間か!」
「何もしてへんよ!?」
しかも関西弁。これはもうクロだろ。
「まあお遊びはこの辺で、本部長さんや。邪魔するでー」
「邪魔すんなら帰ってやー」
「帰らせてもらうわ!」
「ほな」
「……お二人とも? いい加減にしないとそのガラスからたたき落としますよ?」
「さて、八百枝南君。君を呼び出した理由から話させてもらおう」
「なんでしょう、本部長」
「…………なんかムカつきますし本当にたたき落としてやろうかな」
ひどい、一瞬で真面目モードに修正したのに。本部長もたぶん悪い人ではないのだろう。というかどちらかというと苦労人タイプだ。よく見たら糸目の下に隈がある。
まあ立場上仕方ないだろうな。
「要件に関して、もともとは一つだけ。君の攻略サイトをこちらで正式に紹介したい」
「はぁ、どうぞご勝手に」
「……それに当たって、スライムに関する情報の修正を求めたいんだ」
「え、嫌ですけど」
「しかし偽情報を公式で紹介すらわけにも――」
「いやいや、嘘なんて何一つついてないんすけど。本部長もスライム飲めばあれがあの味だって分かりますって」
まったく、そもそも俺の趣味でやってるものに指図されるのは気に食わない。悪いな、俺はまだまだガキなんでね。そこの意地も伝えるとため息をついてから渋々といった様子で頷いた。
「まあそこら辺の自由を縛るつもりはないし、そんな強制力もないし。うん、僕としてもそれでいいよ。ちょっと苦情があったから聞いてみただけだからさ。それより、今は追加で聞きたいことがあってね」
「ほう」
「12層、順調に進んでいるようだね?」
「あー、もずくで分かった感じっすか。てことは自衛隊ももずくを引いてたか」
「そういうことだね。それでさ、水中階層の攻略にあたって君のアドバイスを聞きたいんだ。酸素を補給できるスポットがあるとか。聞いたところ水着で探索していたようじゃないか」
「酸素の補給スポットなんて無さそうでしたよ。俺のはスキルなんで」
そんなに行き詰まっているのか。水中で活動できないとなると確かにしんどいかもな。13層にそういう所がないとあの潜水艦でサメの攻撃を掻い潜らないといけない。攻略が滞るわけだ。
「では何か攻略に役立つ情報は――」
「見つかったらまとめて攻略サイトに載せるんで。びょーどーにいきましょうや」
13層以降でそういうのもあるかもしれないから現状で助言できることはない。
「で、用件は終わりっすか?」
「んーそうだね。立場上聞かなきゃいけないことは終わりかな。個人的な興味なんだけど、君は何を目指してダンジョンに潜ってるんだい?」
「面接官から聞いてないんすか?」
「改めて、君の言葉で聞きたいんだ」
何か勘繰られてるような気もするが、俺の指針は常に一貫している。
「“男”として、成し遂げなきゃいけないことがそこにきっとあるからです」
「……具体的に聞いても?」
「それは野暮ってもんでしょ。これは俺の戦いで、俺だけの冒険だ」
「そうか」
いや、こんな真面目な空気でムスーコを起立させるためとか言えるかっての。
少し思案した後、退出するように言われ、俺は外で待っていたガチムチマッチョメンに挟み込まれてエレベーターに連行された。
「なあ、あんたらちょっとボディタッチ激しく無いっすかね? 俺ノーマルなんすよ、ちょ、無言で密着すんな! 離れろい!!」
せっかくシャワー浴びたのに冷や汗ダラダラで帰宅した。ケツの穴の危機をヒシヒシと感じてしばらく便秘気味な気分になってトイレで悩んだが、しばらくして排泄の機能が無くなっていたことを思い出して不貞寝したのだった。
◇《司條美佳 視点》◇
彼が退室して、私と本部長が残った部屋。本部長は気を抜いた弱々しい雰囲気に戻って机に突っ伏した。
「ほら、色々とカロリー使う人でしょう?」
「うん……思ってたより破天荒で我が強いし、何よりマイペースの極地にいたなぁ。今後も彼の担当、よろしく」
「はい!? まあ、あそこまで最前線を行ってるなら鑑定するアイテムも持ち込むでしょうし効率的ですけど……給料増やしてくれません? 精神的疲労が凄いので」
「あー、それで有望株のサポートができるならいいよ。どうせ僕の金じゃないし」
この人賢くはあるけどずる賢い感じではなく、楽な方に適当にやる賢さなのが少し心配。
そして私も私で自分が更なる沼に入り込んでしまっている気がしてならない。
「…………気を付けてください。彼は正直者ではありますが、私のスキルを天然で躱してくるので」
目を瞑ると浮かぶ二つの文字列。
【真贋判定】
【鑑定】
上は最初から備わっていた、人の言葉の真偽を見抜くスキル。これで探索者や自衛隊の報告が本当か見極めることができ、それは書面からでも分かるので色々と出番が多かったのだが、八百枝さんは全部本当判定を出していて役に立っていない。
「それに……」
「それにー?」
「彼は異常です。人として、生物として、本来持っていなければいけないものを捨て去っているかのような生き方をしています」
「ダンジョンがそうさせたのか、スキルがそうさせたのか、もとよりそうだったのか。確かに彼は善にも悪にもなる存在だろうね。ま、あの感じそれすら興味ないだろうけど」
私は彼のあの自分を顧みない生き方に怒っているのだろう、でも、それ以上に心配でもある。……違う、彼が心配なのではない。あの危うさは、他人を傷つける生き方だ。その他人に私が含まれることを恐れているのだろう。
「はあ、顔見知り程度だったらよかったものを。担当なんて……」
私の意識は彼に向いていたが、本部長はいつの間にか椅子を反対に向けてガラス張りの壁から外を眺めていた。
「彼は大丈夫。それより、君は自分の心配をした方がいい。君の能力はあまりに有用だからねー。色々ときな臭いから気を付けな」
確かに、ダンジョン関連の新興宗教やら犯罪組織の噂を聞く。しかしずっと思ってたし彼も言っていたが――――
「本部長、やっぱり裏切って私を売ったりします?」
「せんよ!?」
本日二回目だから本気で落ち込んでいるようだった。
へっ、普段仕事色々押し付けてくる恨み――――ハッ!
八百枝さんが伝染ってきた。気をつけないと!
最近謎に読んでくれる人が爆増してランキングも爆アゲっぽいのでモチベも爆発。
なのでノッてる時は火金以外も上げます。
そんな単純な人間なので今後もよろです!!
気軽にコメント、評価、レビューして伸ばしておくれ((ボソッ…




