9層 抹茶だこれ!
「抹茶だこれ!」
9層は渋い緑色のスライムがたっくさん湧いていた。ここ最近真面目(当社比)にやってきたご褒美だろうか。
時折自ら体液を飛ばしてくるも、口で受け取って飲み込む。うん! 抹茶!
しかも本格的なやつじゃなくて、ソフトクリームの抹茶味レベルの薄さだ。
「へへへ……いただきます!」
手近な抹茶スライムを膝で挟む。
こんなこともあろうかと常備しておいた木製スプーンで、「美味しいよー」とプルプル俺を誘惑するゼリーをすくって口に入れる。
素晴らしい。何が素晴らしいかって、個体によって若干濃さや舌触り、様々な差異が楽しめるという点だ。
「こうなるとアレンジもしてみたいな」
抹茶ゼリーを活かしたレシピか。ふむ、自炊歴十年近くの俺の出番ってわけか。……よく考えたらカップ麺か冷凍ものばかりでまともな料理全然してなかったわ。
こういう時の文明の利器。
抹茶が和風なものなのであんこやら小豆やらとの組み合わせが多い。
しかし俺は和菓子の類は苦手なのでアイスやホイップクリームを試したい。パフェにしてもいいな。惜しむらくは金属製のスプーンだと冷たいものの美味しさはより引き立つのだが、スライムは金属を溶かすせいでそれができないという点だけ。次来る時は保冷バッグにたんまり詰めてくるとしよう。
「む、待てよ……はむはむ……」
こいつらは抹茶ゼリーではない。あくまでもスライムだ。つまり、スライムだからこそできるアレンジがあるはずだ。
たとえば……そう!
普通のゼリーと違って多少の刺激では形が元に戻る。食感に複雑さを持たせるために無理やり中にチップ系のお菓子を入れるのも合いそうだ。
手持ちは飴ちゃんしかない。ならばと思い飴ちゃんを袋の上から握って砕く。
そして袋を開けて膝の上のスライムの中に手を突っ込んでかき混ぜ、まばらに散らした。
「はむ……ん! とろけるようなゼリーに細かい飴が不規則にあることで、単調だったメロディに新たな音色が混ざる――まさにハーモニー!」
ハーモニーハーモニー……と俺の食レポがダンジョンに反響した。近くのスライムが、「ぼくもいい感じに食レポしてー」と言わんばかりに近寄ってきた。体液を飛ばしてくるなんて、どんだけ味わって欲しいのだろう。
順番なとナデナデしつつ飴入り抹茶スライムを完食。
「き、君、大丈夫か?」
天然のゼリーバーを堪能していると自衛隊の人が声を掛けてきた。順番待ちのスライムくんが体液をそちらに飛ばしたのでキャッチして飲む。
「貴方も欲しいんですか? ここいっぱいいるから好きなのとってって大丈夫ですよ?」
「え……いや、食べるつもりはなくて。えっと、大丈夫ならいいんだ」
そそくさと上へ続く階段へ去っていってしまった。三十路くらいの男性だったが、食べるところを他の人に見られたくないタイプの人なのだろう。
彼のためにも攻略サイトを作る際にスライムごとのレシピも載せておこう。
そうと決まれば今度は合いそうなものをスーパーで買ってこないとな。
そんなことを考えながらスライム飲み放題を堪能してマッピングもそのままの勢いで完了してしまった。チラ見だけのつもりだったんだけどな。
「今度こそチラ見だけしよう」
真面目な話、次の階層のチラ見という経験はしておきたい。引き際を見極める練習として今後のことを考えると必要だ。
――プルプルとスライム達が見送ってくれる。
すまんな、またトッピングを持って帰ってくるから。
名残惜しそうに体液を飛ばすスライムを撫でて軽くもいでから口にする。階層を跨いで持ち歩けたら良かったなー。それだけがダンジョンの不満点。ちなみに世界に対する不満点はもちろん俺の【平常運転】だ。
これでスライムが美味しくなかったら病んでいた可能性もある。それすらスキルで強制的に健康な精神に戻されそうではあるが。
10層に続く階段を降りると、ちょっとした空間があって大きめの扉があった。某配管工おじさんのボス前のあの場所だ。扉の横に隠しブロックでもないかジャンプしてみるも残念ながら無いらしい。ダンジョンはユーモアってやつがないなまったく。とにかく扉の中を見てみようと軽く触れると、重々しい音を立てながら扉が開いた。




