間層 星剣の担い手《橘カノン》
――また同じ夢を見る。
世界が変わったあの日と同じ夢を。
黒い、老廃物のような何かに包まれた場所に、それを必死に浄化しようとしている光。自分の形すら把握不能な暗闇の中、流れ星でも降ってきたかのように光が美しい形を纏ってやってくる。
光は剣となって、私に力を与える。
「ん……」
ダンジョンの7層手前の階段に設営したテントにて目を覚ます。薄暗く、窮屈な剥き出しの岩肌の壁面にもたれかかりながらテントを出る。
この緊張感の張り詰められた空間が、この重い重責が現実だと突きつけてくる。
夢ならどれほど楽だったろう。
急かすように同じ夢を見せてくる自身のスキルに、嫌気が差すいつもの朝。身支度しながら毎朝恒例、スキル確認。
【星剣】――【顕現】【解放】
【光煌龍】
【運命の寵児】
あの日から何も変わらない自身の力を確認してから度の入っていない眼鏡をかけて、パーティーメンバーを起こしに向かう。
私――橘カノンには、学校の友人にオススメされたインターネットで見つけた仲間がいる。お互いがお互いを利用するだけの関係。
こちらの目的も、あちらの素性もお互い知らない。……が。
「椿さん、起きてください。帰る時間です」
「んぅ〜? わかったわぁ……」
この人を放っておいたら、私が置いていかれる気がして。
準備させるため彼女のテントから出る。あんな状態でも、どういうわけかすぐにバッチリキメてくるのでさっさと自分用のテントをしまう。
「……」
途中、微かに数刻前の痺れを感じた。
あの異常な個体の攻撃を何度も受けた重みが、熱が、まだ手の中に残っている。
【星剣】の顕現をしていないため、髪色はいつも通りの黒髪で、湧き上がる勇気も今はない。
怖い。死ぬのが、痛い思いをするのが。
ここにいる人達と、私は違う。
自衛隊は人を守るために。相方はきっと遊び半分で。昨日助けてくれた同い年くらいの子達もそれぞれ潜るための立派な理由があった。
私には無い。
――ただ、あの夢から逃れるために。モンスターを倒せと囁き、勝手に発動するこの光を消すために。普通の人生を取り戻すためだけに。私のこれは、逃避と喪失のための冒険だ。
彼はどうなんだろう。
あの時、私を助け、皆を助けてすぐに忽然と姿を消した、英雄のような少年は。
ゲームでもしているように、ずっと楽しそうだった彼は。
「カノンちゃんおはよぉ。いつにも増して暗い顔だねぇ……可愛い顔が台無しだよぉ? ほれほれー」
「ひゃめてくひゃはい」
「ほーい」
「はぁ、帰りましょう」
彼も既に帰っていると聞いたし、タイミングよく会えたらちゃんとお礼と、巻き込んでしまったお詫びをしないと。
それから数回戦闘をしつつ地上へ帰還した。
二人で査定を済ませて解散。先に帰った椿さんを見送って、一応彼を探してみる。
軽く見渡してみるも、やはり居ない。今日の早朝4時くらいにあの激闘が終わって、そこからあの怪我で帰ったとなると、昼過ぎの今にいる方がおかしい。
彼だって人間だ。寝る時間も必要だろうし、病院で治療を受ける必要だってあるだろう。もし居たとしたら、それは私の疲れが見せる幻覚か、あるいは彼がとんでもないバカか、ダンジョン狂いの化け物だった場合だけだろう。
仮眠明けの昼食を何にするか考えながら協会本部の出入り口を通過し――
「ふふふーんふーん♪」
「バカな化け物……!?」
「え?」
「あっ」
ピンピンした彼とすれ違って思わず本音が漏れてしまった。




