7層 こら、将軍くん!今何時だと思ってるの!
「【五行拳・焔】!」
藤根兎渡香こと元気ポニテさんの助太刀。
赤い火花を纏った拳はジェネラルの頬を撃ち抜いた。さっきの俺みたくおにぎりころりんしてやがる。傷自体はそれほどのようで少し皮膚が焼けている程度だ。
「っ、友さん!」
「わかってるっての! 【聖女の旗】【攻勢聖域】」
そしてぶっ倒れている俺を見つけた様子のセツナァが何か指示を出して、蛇字丸さんが旗をその場に突き刺してからこちらに駆け寄ってきた。
「やぁ蛇字丸さん。こんな深夜に奇遇だねー」
「言ってる場合か! 【守勢聖域】【回天聖域】! チッ、ボロボロにも程があるだろ……」
よく分からないがホンワカする。回復スキルかな?
というかよく考えたら俺の【平常運転】ってどこまで平常にするんだ?
骨バキバキはどう考えても平常とは程遠いだろ。もしかして治りが早かったりしないだろうか。痛みはあるけど謎に余裕あるし案外即死以外はなんとかなるかもしれない。もちろん今後ソロで潜る都合上、今みたいに這いつくばっていてはトドメを刺されるのでわざと攻撃を受けるつもりはないが。まあこっちは休憩だからいいとして、だ。
「はぁ! 【解放】!」
メガネさんが剣から青い光を放ち、ジェネラルを真正面からそれなりの深さ斬り裂く。
「【五行拳・雫】!!」
「【零の矢】」
そして挟み込むように拳と矢がジェネラルの強固な皮膚に突き刺さった。傍から見たら押しているように見えるが、それはこの連撃が続けばの話。
ジェネラルは遊ぶ余裕こそなくなっているものの、まだ鈍るほどのダメージは負っていないのが見てとれた。
ボーッと勢いで誤魔化している戦闘風景を眺めていると追加でこちらに増援が来た。こちらは偶然ではない味方だ。
「お待たせぇ、連れてきたわよ〜。あ、【アクアバレット】!」
魔女コスプレお姉さんが強い水鉄砲を放ちノックバック。そこに自衛隊の隊服か何かを着ているガタイのいいスキンヘッドなおじさんがジェネラルの背後をとる。
「【金剛力士】【杭撃】」
金色になった皮膚のまま拳がジェネラルの背中に突き刺さり、爆発するようにヤツは射出され壁に激突した。
「皆さん、まずは6層へ避難を。ここは我々にお任せください」
後ろから遅れてきた他の隊員が各々武器を構えつつ陣形を整えている。
これなら安心して――
「グギィィィヤ!!!」
ジェネラルが喚くと、コマンダーが必死に杖振るう。将軍が更なるどす黒いオーラを纏った。
そして小鬼というよりも悪魔のようなその姿は一瞬にして掻き消えた。
直後、ズドンと素手から生じた音とは思えない重い轟音が響いた。ダンジョンの石畳が飛び散る中、自衛隊員の陣形の中央で人をホコリのように吹き飛ばしていた。
「っ、総員――」
「【光煌龍】!」
指示を出そうとしたスキンヘッドの指揮官にジェネラルが肉迫したものの、それを予期していたメガネさんが横槍を入れて奇襲を防いだ。
そして「私達も戦う」だのと熱い展開になって総力戦が始まった。
「ねえねえ蛇字丸さん」
「ああ、ウチらはここで見守ってよう。バフも掛けてるしきっと大丈夫――」
「俺帰っていいかな?」
「空気読めクズ!」
そんなに怒らなくてもいいのに。
だってやることないし、ていうかこれ本当に勝てるのか?
硬すぎてまともにダメージ入ってる感じしないし、スピードでも翻弄されてて一撃一撃が致死性だ。このままだと全員死にそうだけど大丈夫だろうか。
「帰るのはやめとして、茶々くらい入れよっかなー」
「……そもそも動けないだろ」
運良く近くに転がっていた俺のナイフを持って、【割り込み】を発動。
「あ、間違えた」
頭の中で茶々入れから連想された“おもちゃのチャチャチャ”を熱唱していたら全部間違えてしまった。まず座標が消していない変なところになったのと、転移のイメージを雑にしてしまったのだ。
結果的に――何故かナイフの刃がゴブリンの腹から生えた。
「なん、だと……?」
座標はまあいい。変なところを指定して、とんでもない速度で移動したジェネラルくんと被ったから。てか被ると体内に転移するのか、こわ。
それより問題は怠ったイメージの結果だった。
俺はナイフで軽く小突く気満々で発動したものの、熱唱中で半端なイメージが先行してナイフだけ転移したのだ。
ものは試しと、遠くのナイフをこちらに持ってくるイメージでやる――が、これは何も起きない。
「持ち物とかそういう曖昧なものが条件じゃなくて触れてるか、か。まあ服とかも転移してる時点でイメージ次第で応用が効いたわけか……」
壊れた石畳の破片に指を当てて発動するとジェネラルの頭にそれが降った。
なるほどね、これは色々幅が広がるなー。なんせあの切れ味の悪いナイフでも貫通する程度には、モンスターのスカスカの中身を包む内側の皮膚はヤワなのだから。
ファンタジー的な要因もあるだろうが、おそらくモンスターの皮膚は、あのジェネラルのようにクソ硬い外側とは別に柔軟性を持たせるための柔らかい内側で分かれていると推測できる。
あれだ、リバーシブルってやつだ(テキトー)。
「よーし、いいこと思いついちゃった」
「ちょ、八百枝、お前まだボロボロで……ってなんで立てるんだ??」
「気合い、根性、漢気――どれがいい?」
「どうでもいい……いや、え、腕反対に折れてるけど平気なの?」
ギャルのくせに心配性な蛇字丸さんを無視して、俺は立つ。タイミングよくお清楚さんことセツナァが回避のためこちらに近付いた。
「蛇字丸さん、この結界みたいなやつ消してー」
「は!? ――いや、まぁなんとかなるなら、いいけどさ……」
苦戦を強いられている様子の戦闘組を見てから、胡乱な目で睨みながら解いてくれた。ツンデレめぃ。
「セツナァ! へいパース! 全力の矢をパース!!」
「はい!? えーと……」
「俺を信じろセツナァ! ヤツを倒すにはそれしかないんだ! だから、今は、俺に任せろ!」
「……っ、わかりました!」
ぶっちゃけ立ってるだけで痛いので誤魔化すように勢いで説得。了承してくれたのでよし。
彼女は真面目な表情で俺に向けて弓を引いた。
「いきます!」
「しゃあ、こいや!」
「――【零の矢】」
不可視の矢が俺に向けて放たれた。
寝転がって這いつくばって、何度もその弦の動きを、そして矢の到達スピードを見てきた。
俺はその矢に触れると同時に転移を発動するだけ。あとは調整だ。俺はヤケクソ気味に声を張る。
「やーい! クソザコジェネラルくーん! そんなに覚醒した感出してるけど、俺すら殺せてないでやんのー!」
「グギャァ!!」
楽なことに煽りに乗ってくれたジェネラルくんは一瞬で俺に迫った。座標は目の前、来るであろうヤツの首の位置をイメージ。
そして完璧なタイミングで矢をキャッチして――
「あイタぁ!?」
まさか戦いの中で矢も速くなったのか。
……ちょっと筋肉まで持ってかれたが無事転移。
そして狙い通り。
「ギォャァ!?」
首の空洞からその辺へ大きめの穴が空いたのだった。
「ざまあみやがれ、こんな深夜にどんちゃん騒ぎしやがって……あたしゃあ、タカシをそんな風に育てたつもりないよ!」
「ギィャ……」
なんかジェネラルくんに不服そうな顔で恨めしげに睨まれたんだが。
文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、疲れたので帰ることにした。残党は任せても大丈夫そうだし。
心なしか濃いめの黒い霧を浴びて、転移で6層へ。無理やり体を引きずりながら一人で地上に帰るのだった。




