5層 スライム飲料、これは売れる(尚毒)
相も変わらず無駄に長い階段を降りて5層へやってきた。時間は20時。あの三人は帰り際にちょっと4層行ってみちゃおうって感じだっただろうし、ここに来ることもないはず。明日学校だし。
てなわけで、相も変わらず中央に下水、その両サイドに石畳という殺風景の極み。実家のような安心感。この光景はいつまで続くのだろうか。どこかでガラリと変わると飽きないんだけど、ダンジョンはそこまで気が利くのか。
「お、第一村人発見――スライムやんけ」
ここのスライムの見た目は少し濁った黄緑に近い緑色。大きさもここらなしか、1層より僅かに大きくなっているような気もする。
――ぷるるっ。
スライムが身震いして、粘液を飛ばしてきた。避けようとも思ったが試しに鉄くずと化したものの捨てるのも惜しいフライパンで受け止めてみる。
ジューとフライパンの方が調理される肉のような音を立てて溶けてしまった。どうやら鉄を溶かす性能は上の階のスライムより優秀らしい。
「――これ飲めるんかな?」
やはり俺としてはそこが一番大事な部分だ。前回は無味無臭という結果に終わってしまったが、前回はそもそもスライムの色自体が薄く、見るからに味もなさそうだから仕方ないと言える。
とはいえ死にたくないので試しに(ゴミが増えるのも嫌で)ティッシュの代わりにハンカチを載せてみた。
やはりと言っていいのか、布には何も効果がない。素手でつんつんしてみるも、やはり平気そうだ。何だビビらせやがって。
怒って吐き出す粘液を、試しにフライパンの成れの果てですくって指先に当てるも、肉体に毛ほどの変化もない。
「じゃあいただきます!」
ぷるぷると食べてアピールする緑色のスライム――仮称グリーンスライムを口にする。
「ほむほむ……これは! 前のより弾力があって、でも飲み込むと液体になって、更に気体になるように消えていく。ゼリーとジュースと謎気体を同時に味わえる、これは前と一緒か」
しかし、これ青リンゴ味だ。めっちゃ美味い。
最後の一欠片まで丁寧に完食し、残された核を破壊して魔石を手に入れた。
もしかしたら部位欠損の時のように、胃に入った時点で薄黒い霧になったのかもしれない。
「ま、美味いしいっか!」
じゃんじゃん食べ……飲む、の方が正しいか。グリーンスライムは飲み物!
ブルースライムは雨水!
俺は食欲がないものの、消化器官も膀胱も機能しない。取り込んだものがどうなってるかなんて知らないし、知ってどうにかなるものでもないだろう。
――要するに、グリーンスライム飲み放題だ!
◇
「ぷはぁ! キマるぅ〜! あっ、こんばんはー」
「こ、こんばんは……?」
時間を忘れて無限に青リンゴゼリーを飲んでいたが、チラホラ下層から帰還している人がいる。このくらいに帰るとちょうどいい時間になるのだろう。
そろそろ同じ味にも飽きてきたし、魔石もたんまり手に入ったことだし、帰って学校行くか。
試しにスライムを抱えて階段を登る。やはり持ち出しはダメらしく、黒い霧になってもとの5層へ飛んで行ってしまった。閉じ込めようとしたが、ファンタジー的な何からしく、物理的に干渉はできないようだ。
ごちゃごちゃになっているリュックの中身を整理しながら歩く。前方にもパーティーが居るので特にモンスターと戦うことなく、無事ダンジョン協会本部に到着した。
そのまま複数ある買取窓口で、空いているところへ。どうやらこの時間帯――午前5時は穴場らしい。
「おはようございます、お願いしまーす」
――ガシャン&ジャラジャラ。
リュックの中に更に袋を用意していたので、そこに全部の魔石を入れていた。こうしてみると、我ながらよく頑張ったと思う。
「八百枝さん? 夜通し潜るなんて。……無茶するなって言いましたよね?」
「俺のスペックでどうにもならないような無茶はしません、とは言いました!」
偶然とは恐ろしいもので、俺の買い取りを担当してくれたのは司條さん。だが、天才な俺はあらかじめ撒いておいた予防線でジャストガード。ノーダメである。
「ふんす! ……いひゃい」
「屁理屈言う口はこれですかくぅあー!! あーん!?」
窓口から身を乗り出して俺の頬を引っ張ってくる。カウンターに、その身長に見合わぬスライム(隠語)が押し潰されている。
視線が自然に吸い寄せられる……!
これが万有引力!
かのアイザック・ニュートンもこのような神秘を目の当たりにしたのだろう!
「あっ、しょうや。ドロップアイテムって何か手続きとかいります?」
少し強引に引っ張りの刑から逃れて確認する。
「何が落ちたんです?」
「ソードゴブリンの剣とアーチャーゴブリンの弓です」
「武器や装備は買い取りしないなら、武器用のケースが売店にあるのでそれに入れたらそのまま持って帰って頂いて大丈夫ですよー。稀にあるらしい宝箱の中身とかは報告してほしい、って感じらしいですけど」
「宝箱!」
自衛隊の攻略層を追い越したらあるのだろうか。モチベーション上がるぅ!
「っと、精算が終わりました。振り込みでも大丈夫ですか?」
「あっはい」
「これで、よし。通帳か銀行アプリの方でご確認くださいねー」
「ありがとうごさまいます。それじゃあまた来週――」
めんどくさいので確認はまた暇な学校の休み時間にでもしよう。
「――ところで」
「はい?」
何だろう、とても朗らかな笑顔なのに目だけ笑っていない。呼び止められるパターンでいいことが起こるだろうか、いやありえぬ(反語)!
「ドロップアイテム、行かないように言った4層のですよね?」
「いっけなーーい!! 遅刻遅刻ぅ〜!!」
俺は猛ダッシュで背を向けて逃げた。
「まだ5時で遅刻するわけありますかー!!!」




