4層 習うより慣れろ、とにかく慣れろ
日曜、昼。
俺はダンジョン協会併設のカフェにやって来た。
武器の貯蔵は十分だ。でも自衛隊の見回りがいないので普段それなりに4層以降まで潜ってるパーティーも、安全のため外にいる可能性が高い。
つまりは情報収集し放題ってわけだ。ネタバレはされたくないので、戦い方や小技みたいな話を希望する!
店内はそれなりに混んでおり、カウンター席も埋まっていたので二人用のテーブルに案内され、魔法の言葉のような謎の飲み物らしきものを注文した。出てきたのはカフェラテ。普通にカフェラテって書けよ。
「でさー、5層の――」
はいネタバレシャットアウト!
思ったよりネタバレだらけで以降何度もシャットアウトして、面白い話は特に聞けないままカフェラテは半分ほどになった。
「お客様、相席の方大丈夫でしょうか?」
店内が激混みで、俺がここに案内される時に相席も可能か聞かれていたが本当に相席することになるらしい。
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。お客様、こちらの席でお願いいたします」
「はーい……ん? あ、八百枝さん!」
「おー、(ロリきょぬーの)受付の人」
相席相手はこの人らしい。
昨日の夜居て、今日の昼も居る……妙だな。もしかしてダンジョン協会ってとんでもないブラックなのでは?
俺はこのメロンフロートを注文した純粋そうな人が酷使させられていないか、心配になってきた。これが、父性……?
「しかし、受付の人呼ばわりはひどいです。私は司條美佳という立派な名前があります。なので! これからは美佳お姉ちゃんと呼ぶように!」
「とこりで、司條さんの労働環境大丈夫ですか? 労基に駆け込んだ方がいいのでは?」
「ガン無視!!? …………いいんです。どうせ私はちんちくりんなのでお姉さんにはなれないのですね……」
「はい」
「“はい”!? もう少し慰めるとか、“そんなことない”って寄り添うところですよね!?」
「おそらのばっちゃんが、くだらない嘘はついちゃダメって言ってたので」
「そ、そうですか。くだらない嘘扱い……。あ、労働環境については大丈夫ですよ? 私ってちょっと有能なので変則的なシフトしているだけで法令には守られていますから」
ならよし。
そんな雑談をしていると、彼女の注文したメロンフロートが到着した。メロンソーダにソフトクリームがちょこんと乗っている。
オシャレを意識しているのだろうが、あれで結構なお値段するからここのカフェも強気だよな。
「あの……」
「ん?」
「すみません、話の流れとはいえお祖母様を思い出させるような感じになってしまって」
「いえいえ、おそらからきっと見てくれてますよ」
「そうですか……」
何故だか分からないがしょんぼりしている。
原因は不明だが元気づけてあげた方が良さそうだ。おもちゃを取り上げられた小動物のような雰囲気だし。
「おばぁちゃんが送ってきた写真見ます? 先週のやつなんですけど……えーと、あったあった」
「え、でもお祖母様はお空に行ったのでは?」
「もちろん現在進行形でおそらにいますよ。ほら」
「へっ? 地球?」
「はい。本物です」
「…………お空って」
「? お宇宙ですね」
「………………もしかして宇宙飛行士なんです?」
「そうですよ。うちのおばぁちゃんハイスペック超人なので、宇宙のなんたらセンターか何かで研究してるんだとか」
「先に言ってください! めっちゃ気まずかったんですから!」
メロンソーダをストローでチューチューと吸いながらこちらを不満そうに睨みつける司條さん。新種の小動物みたいで可愛らしいだけで、怖さは全く無い。
「あー、カフェラテも無くなりましたし、俺はこれで。じゃあまた」
「あっ、逃げましたね!」
別に逃げてはいない。
そう、これは転進なのだ。決してお喋りに飽きてゴブリンをぶち転がしたい欲が抑えきらなくなったとか、そんななんじゃ――
「ないんだからね!」
3層の鉢合わせしたゴブリンを難なく仕留めながら、内なるツンデレをチェーンして発動。効果は特にない。
そのまま4層へ降りる。
階段の先には、ソード、レッドキャップ、そして初見さんの弓ゴブリンがいた。こいつはアーチャーで。
「しっかし出待ちとか、俺はアイドルじゃねぇんだぞってわけで! ソード! てめぇは後でいたぶり殺すから、その剣落とす準備して待ってろや!」
俺は駆け出し、迂回しつつアーチャーへ。
今回はカメラフラッシュ作戦は無し、片手塞がる割にほんの少しししか怯まないので対複数には向いていないからだ。
アーチャーは休みなくこちらを撃っているものの、偏差撃ちという概念を知らないようで真正面から挑まなければ当たりそうもない。
ただ、どこかで仕掛ける必要はあるので……お、いいタイミングでレッドキャップが消えた。
それに合わせて突っ張り棒を長くして、瞬時に振り向く。レッドキャップが案の定背後をとっていたので、リーチの差で先に叩き落とす。
そのままレッドキャップの後頭部を鷲掴みしてアーチャーへ投げる。
と同時にアーチャーへダッシュ。ボールとなったレッドキャップを盾に、矢の攻撃を防いでそのまままとめて新たな武器、肉包丁で首を分断した。
「待たせたなソード。その無骨な剣、置いてけや!」
「グギィャ!!」
突撃してくるソードに、突っ張り棒で顔面をしばいて懐に入る。大振りだから超至近距離は向こうも手が出せないようで、攻撃の構えのまま後退しようとする。
「逃がすか!」
「グギィッ!?」
首をスパーン。
それなりにいいお値段の肉包丁なだけあっていい切れ味だ。
――魔石を回収し、ふと思った。
脅威なのは遠距離攻撃持ちだけで、レッドキャップもタイミングは掴めるようになった。
ソードとレッドキャップは居てもいい。なんならフレンドリファイアで死ぬことだってありそうだ。
そして今は他の人もほとんどいない。というかこの階層、たぶん俺以外の人間は居ない。話し声も聞こえないし、ゴブリンの醜い声がそこかしこで聞こえるが戦ってる様子もない。
「ゴブリンども! 俺の懐を潤してくれ!!」
ついでにソードは剣置いてけ。
俺は真っ先に近くから聞こえた物音の集団の所へ走り、不意打ちでメイジを仕留めた。
お、知らないゴブリンもいる。指揮者の棒を持っている。そいつがソードに何かバフらしきものをかけたようだ。
バッファーは殺そう。
ゴブリン部隊の指揮者だから、コマンダーでいこう。
早速ソードの攻撃を躱してコマンダーを仕留め、バフが切れたのを確認してから次の狩場へ向かう。もちろんソードを引き連れて。
――名付けて、トレイン狩り!
肉壁を補充しつつ、敵の流れ弾で引き連れたソードも仕留めてもらう、天才的な戦略だ。尚、他の探索者が居たら大迷惑行為である。




