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6話

そろそろ夏も本番に差し掛かり、衣替えでブレザーからワンピースタイプの夏服に切り替わった。

ライトグレーでワンピース型の制服は、他校と被ることがまず無いのでひと目で黎明学園だと分かる。

この洗練された上品かつお洒落なデザインに「黎明」というブランドが加わることで、この制服の価値は跳ね上がる。

噂によると、数年前のオークションでは元値の5倍で落札されたらしい。




と、みんなの憧れの夏服に袖を通す頃には学園にも慣れてきた。

ただ、毎朝のこれだけを除いて。


「きゃあ、鷹司様だわ!」


「夏服もよくお似合いですわぁ」


「わたくし、今日こそは話しかけてみようかしら!」


この黄色い声援(?)は未だに頭がキンキンする。


ただ登校してるだけなのに、よくもまあ飽きもせず騒げるもんだ。

私は低血圧気味なので朝の甲高い声は余計に頭に響く。



ついうんざりした目で鷹司の方に目をやると、たまたまこちらを見ていたようで目が合ってしまった。

やば!めちゃめちゃ睨んだみたいに思われた……?

いや事実、この騒ぎの元凶に八つ当たりのような苛立ちは憶えていたけれど!


私はそそくさと飛鳥様の影に隠れる。

院瀬見の私じゃ鷹司家にはどう足掻いても勝てないよ〜、虎の威ならぬ飛鳥様の威を借りようか、ふふふ。


などと現実逃避していると鷹司がこちらに向かってくる。

鷹司と私達はクラスが違うので、鷹司がこちらの方向に進んでくるのは絶対におかしい。

え!そんなに私の目つきが気に入らなかった!?

焦る私を横目に鷹司は私達の目の前までやってきて口を開く。



「一条、執行部から今日は参加するようにと伝言だ。俺に余計な手間をかけさせるな」


「まあ、わざわざありがとうございます」



……なんだよーーー!

飛鳥様への用事かよ!無駄に焦って損した!


「きゃあ!!」


教室中に甲高い声が響く。


「今のご覧になりました?鷹司様と飛鳥様がお二人でお話なさっていましたわ!」


「どういうご関係なんですの?」


周りの女子が一斉に騒ぎ始める。

普段女子を全く気にかけない鷹司が、わざわざクラスの違う飛鳥様に話しかけたのだからこうなるのは当然か。

当の本人である飛鳥様は、あまり興味が無さそうに見えるけれど。



……てか飛鳥様、もしかして執行部にあまり参加されてない?

少し探ってみよう。


「飛鳥様、執行部のご様子はいかがですか?執行部員の方々とはもうそろそろ打ち解けてきた頃合でしょうか」


と聞くと分かりやすく動揺する飛鳥様。

目が四方八方に飛び散っております。


「まさかとは思いますが、執行部へ入会してから一度もご出席されてない、なんてことはありませんよね……?」


「……」


「飛鳥様……?」



華麗なる無視である。

いや、どちらかというと黙秘だろうか。


よく考えると、毎日放課後はお迎えの車が来るのを私と一緒に待っていたし、帰るタイミングも同じだった。

執行部に顔を出している様子は全くない。

……これは気づかなかった私にも責任がある、か。


流石にあの一条飛鳥といえども執行部をないがしろにすれば立場は一気に悪くなる。

いくら今は学園内の組織といえども、卒業後も明成会は続くのだ。

それが執行部ともなれば影響力は絶大だろう。


……仕方ない、無理やりにでも連れてくか。

本当は執行部員でもない私が執行部に顔を出すような真似をするのは控えるべきなんだけどなあ。



「今日の放課後、私も着いていきますので執行部へ行きましょう飛鳥様。」


「……分かりましたわ」


渋々といった様子で頷く飛鳥様。


「約束ですからね!」


強く念を押すと、飛鳥様は根負けしたように再び頷き、綺麗に切りそろえられた前髪から大きな瞳を揺らしながら呟く。


「絶対、舞衣ちゃんも着いてきてよね」


この人、さては私がいないと何もできないな?







放課後になり、早速帰ろうとする飛鳥様を逃がさずに手を引いて執行部室に向かう。


校舎の南側の1番角の場所にあるのが執行部の使用している部屋だ。

1番日当たりがよく校門に近いため、校舎の顔とも言える場所に執行部は存在している。

まさに、黎明学園の顔となる執行部にはピッタリの場所だ。


長い廊下を歩いてようやく執行部に辿り着くと、飛鳥様が私の手を強く握り直す。

……あれ、飛鳥様ってこんなに人見知りだったっけ?

原作ではポンコツではあるけど気が弱い人間では無かったはず。


飛鳥様が手を離さないので仕方なく私が執行部の大きなドアをノックする。

すぐにドアが開く。

開けてくれたのは執行部付きのスチュワード。

ほんとどこまでも規格外なのね、執行部は。


「はじめまして。1年B組の一条飛鳥をお連れいたしました。」


何故か私が代わりに挨拶する。


「あれ、院瀬見さんじゃん。なんでいるの?」


「飛鳥様に着いてきて欲しいと言われまして……」



声をかけてきたのは同じ学年の湊流星(みなとりゅうせい)くん。



確かお父様が大手外資系企業の日本代表取締役で、家の歴史や国内での影響力は鷹司家や一条家に及ばないが、世界的な地位や影響力は計り知れないと言われている。


家柄だけでなく、完璧なまでに整った綺麗な顔立ちを色素の薄い透けるような茶髪が際立たせていて、学年中の女の子たちを虜にしている罪な男だ。


人気と言ったら鷹司もすごいが、アイツとは違って湊くんは話しかけやすいオーラがあるので人気度で言えばもしかすると湊くんの方が凄いのかも。


「二人は仲がいいもんね。先輩方がくるまで一緒にお茶でも飲もうよ」


「いえ、わたくしは飛鳥様を送りに来ただけですので。せっかくのお誘いですが失礼いたしますわ」


お茶は飲みたいが執行部員でもない私がここに長居するのは良くない。

面倒事は避けたいしね。


「舞衣さん、もうお帰りになるの?」


飛鳥様がその大きな瞳で、暗に帰らないで欲しいと訴えかけてくる。

すみません飛鳥様、約束は果たしました。


「今日は琴のレッスンが入っておりますの。すみません飛鳥様」


ちょうどいい言い訳があって助かった。

もちろん嘘では無い、本当に今日は琴のレッスンがあるのだから。


少し可哀想だけど執行部に関しては飛鳥様自身で上手くやってもらうしかない。


「では飛鳥様、湊様、ごきげんよう」


帰れると分かりご機嫌になった私はふわりと華麗なカーテシーを披露し執行部の重いドアを閉めた。



面倒事から解放されて気分よく南校舎の廊下を歩いていると4、5人の男女が向こうから歩いてくる。


げっ、鷹司もいる。

よく見ると全員執行部のメンバーだ。


うへえ、鷹司がいなければ会釈して終わりだったのに。

一応鷹司と顔見知りである(向こうが覚えてるかは知らないが)私がここで何の挨拶もない、更にそれを執行部メンバーが見ていたとなるとまた面倒なことになりそうなので、素直に挨拶くらいしよう。

挨拶は大事だし、うん。


「鷹司様、ごきげんよう。今から執行部の活動ですか?」


「……ああ、一条のとこの奴か」


鷹司が思い出したように呟く。

え、一条のとこの奴って覚え方してんの!?

私には院瀬見舞衣という立派な名前があるんだが!

やっぱり腹立たしいやつだな!


「先日ご挨拶させていただいた院瀬見舞衣と申します、執行部での飛鳥様をどうぞよろしくお願いいたしますわ。では、ごきげんよう」


遠回しに前も名乗ったわという皮肉をこめつつ、長居する理由もお互いないので手短にサヨナラだ。


よーし、帰って琴のレッスンに行こう。

今日はそこそこ色々な事があった一日だったから綺麗な琴の音を聴いて癒されたい。


「おい、待て院瀬見」


……と思っていたのに、まだ今日の学園生活は終われ無さそうだ。



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