皆の笑顔
「宴じゃぁぁぁ!!!」
遺跡から出た日の夜。俺達は宴会場にいた。酒や食事が多く用意されていて、周りの鬼達も飲んで食べて騒いでいる。その真ん中あたりの机に俺達は二人で座っている。机の上には豪勢な食べ物が乗っていた。
「凄い宴会。マスターの国でやった時よりも熱気がすごいですね。」
「ええ。ロンナ国の方々は宴会が大好きだから。」
何度か経験しているのかサリヤは慣れている様子だ。俺は元の世界でも宴会なんてやったことが無かったから全然慣れない。
「あんなにしんみりしてたのに。」
「考える時は考える。宴の時は楽しむ。切り替えがはっきりしているの。」
遺跡から出た時、ラセツさん達は中で起きたことを全く知らなかった。三魔神の情報、サリヤのお母さん、ミナが俺の頭の中にいた事、はっきりと俺達の敵であると宣言をした事を言うと動揺していた。サリヤの心情に同情し、共にミナと戦うと宣言してくれた。トライルさんはミナと親交が親交が深かったようでかなりショックを受けていたが姉妹達に励まされて立ち直ってくれた。
「取り合えず直近の問題はお父様ね。お母さんが生き返ったことはこの国からの伝令から知らされている。でも敵になったことは知らない。流石に隠すことは出来ない・・・。」
「俺達の口から言うしかないってことですよね。」
「そう。・・・はっきり言ってどういう反応になるか分からない。」
「もしかしてめちゃくちゃ怒っちゃったりなんてことも?」
「あるかもしれないわね。・・・流石にしっかりと覚悟を持って伝えなきゃ。」
「なんだいサリヤ様!しんみりしたお顔をされて!」
二人でひっそりと話していたところに給仕の女性鬼がやってきた。
「色々と考えなきゃいけないのはわかりますよ!でも今は宴の時間!しっかり食べて、しっかり飲んで!英気を養わなきゃ!」
そう言うと手に持っている木のジョッキを二つ置いてきた。
「・・・そうですね。今考えても仕方のない事でした。レイト、飲みましょう。」
「え、あ、はい。」
ジョッキから溢れ出る匂いに少しの不安を感じる。
「乾杯。」
「か、かんぱーい。」
重いジョッキで始めてやる動作をするも、たどたどしくなってしまう。サリヤはジョッキの中身を一気飲みした。
「・・・。」
勇気を出して少し口をつけてみるも
「くぅぁ。」
案の定お酒で飲んだことが無い感覚に口が拒絶を起こしてしまった。
「あらあら、レイト様は酒が駄目なのかい?」
「はぃ。飲んだことなくて。」
「そうだったのですか。確かにディスブル国での宴の時も食べてばかりだったような。」
「そうで、す。」
あの時はあの時で、クロア君にものすごい食べさせられて大変だった記憶しかない。
「うーん。お酒じゃない飲み物はどこにあったっけなぁ?宴ではそういうのはクロア様しか飲まないからあんまり量がないんだよねぇ。クロア様はご飯の方が好きだからなおさら。」
「いいですよ。ご飯食べときますんで。」
「そうかい?あ!!そういえばこの間エルフの商人が持ってきたお酒があったねぇ。お酒なんだけどあんまり酔わなくて、飲みやすい飲み物だった。それはどうだい?」
「い、いただいてみます。」
「よし!直ぐに持ってくるね!」
アルコールだからダメではとは思ったものの豪快な笑顔にノーとは言えなかった。
「大丈夫なんですか?」
「まあ、一口くらいなら大丈夫だと思います。マスターは二十歳って言ってましたけど飲み始めたのは最近なんですか?」
「いえ、ずっと前から飲んでいます。宴に呼ばれることもありましたから。」
「・・・なるほど。」
この世界には未成年って概念は無いのか。
「さあ、お待ちどう様!」
目の前に置かれたのは透明な黄色のお酒。
「いただきます。」
恐る恐る飲むと
「美味しい!」
先ほどのようなアルコールのきつさは無く、寧ろ飲みやすいジュースのようだった。
「これなら全然飲めそうです。」
「それは良かった!いくらでも持ってくるから飲んでくんな!!」
「はい!」
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「いやぁ、今回は皆のおかげで助かった!ありがとうの!」
セイスが豪快に笑いながら言った。右手にはジョッキを持ち、左手ではニーナの頭を撫でている。椅子に座っているがニーナは甘えるようにセイスの膝に頭を乗っけている。他の家族はしっかりと円形の机の定位置に座っていた。
「・・・お母様が起きて、本当に良かった。」
「ああ!これもサリヤ殿とレイト殿が来てくれたおかげだ!」
「そうじゃのう。しかしドルファスとミナの娘の使い魔が人間だとは。つくづく人間に縁のある子じゃな。」
「私はミナ様の事をあまり知らないのだけれど、どんな人だったの?」
アイリスが酒を飲みながら聞いた。
「とても強い女じゃった。それまで儂が出会った人間、魔族を含めた全員の中で五本の指に入る程な。元々は魔族を恨んでいたのじゃがドルファスと戦ってから考え方が変わったようじゃった。奴と会う前と会った後の態度の違いときたらもう。」
思い出し笑いで吹き出しそうになるセイス。
「へぇ。なんでそんな急に変わったんだろうね。」
「さぁのう。あやつらに聞いてもはぐらかされて聞けずじまいじゃった。今度会った時にぶちのめして全部聞いてやろうかの。」
「私も何故レイトをこの世界に連れてきたのか聞いてみたいね。」
更に酒を飲むアイリス。
「レイトか。ふふふ。あやつは面白いの。発想力や考え方が儂らとはまるで違う。お主らの婿にはああいう男に来てほしいものじゃ。」
そう言ってジョッキを持った手をアイリスに向ける。
「おお!セイスにそこまで言わせるとは!子供達の結婚相手はセイスに勝てる者だけではなかったか!」
ラセツが酒のお代わりを頼みながら言う。
「あれはいつか私達を超える。これは確信じゃ。」
「お、お母様にそこまで言わせるなんて!そんなにか!?」
トライルは体を回転させて遠くに座っているサリヤとレイトを見つめた。
「ああ。そんなにじゃ。強くなるのが分かっているなら先にものにしておいた方が良いじゃろう。」
「・・・それは叶わないと思うけどね。」
アイリスは小さく否定した。
「彼には帰る場所がある。それを引き留めてまで家族にするのは違うと思うなぁ。」
「それがなんじゃ。確かに奴にはこことは違う場所に帰る目的がある。じゃがそれと我らの家族になってほしい気持ちは両立してよいじゃろう。むしろ奴にとってここが居心地の良い場所になれば帰らないと言うかもしれんからの!」
「・・・どうだろうね。彼がこの世界を選ぶとは思わないけど。それに彼は姫の使い魔だ。姫から奪い取るような真似、私にはできないね。」
「なんじゃアイリス。やけにレイトの肩を持つのぉ。お主はサリヤの事が好きなんじゃろう?それなら余計なのは彼女の近くにいないほうがよかろう?」
「そういうことじゃない。ただ彼の心を案じているだけだよ。」
アイリスは更に酒を飲む。
「はっはぁん。」
それを見たセイスはニヤニヤ顔に変わった。
「な、なに?」
「アイリス。お主レイトに心底惚れたな。」
その言葉にトライルは酒を吹き出し、ニーナは顔を上げた。クロアはアイリスの驚いた顔を不思議な顔でご飯を食べ続けている。
「おお!本当か!それはめでたいな!!」
ラセツは心底嬉しそうだ。
「な、なんでそれを・・・。」
「分かるわ。お主が昔サリヤの事を話していた時の顔と、レイトの事を話している顔が全然違うわい。」
「・・・ふん。」
アイリスは少し不貞腐れて酒をまた飲んだ。
「奴の心情を案じているといったという事は、その心はまだ言っておらぬのじゃろう。」
「そ、そうなのか?」
トライルの問い掛けには答えない。
「アイリスにも乙女心が芽生えるとは。親としては嬉しいのぉ。」
「・・・・・・。」
「まあ、お主がレイトの意思を尊重し夫婦になりたくないというのならば仕方ない。儂が取り持ってトライルとでも夫婦になってもらおう。」
「それは駄目だ!!」
ジョッキを机にたたきつけ大声を出したアイリス。
「ふふふ、駄目なのか。」
「は!!」
思わず自分が立ち上がったことに赤面し再度椅子に座った。
「さっきも言ったでしょう!彼には帰る場所がある!」
「それとこれとは関係ない。」
急にセイスの顔が真剣になる。
「自分の気持ちはしっかりと伝えねば。それを聞いたレイトがどう判断するかは奴にゆだねられる。自分の気持ちを押し殺したら奴が帰った後に本当に後悔することになるぞ。」
「・・・。」
「まあ、お主がそういう選択をするのなら無理強いはせぬがの。儂は本気で奴を家族に迎えたいと考えている。頭も撫でたしの。」
「・・・え?」
ニーナがまた顔を上げてセイスの方を見た。
「・・・相手の頭を撫でるって、家族だけにする行為だよね?」
「そうじゃ。頭は角が生えている場所。鬼の誇りが生えている場所じゃ。それを撫でるという事はその相手を認めたという事。鬼人族の間で頭を撫でるのは相手を家族として認めたということになる。儂もお主ら以外にしたのは初めてじゃ。」
「セイスがそこまでするとは。本気のようだな!」
「ああ、もちろんじゃ。血迷ってすることではない。奴を儂らの家族に迎え共に切磋琢磨したいのじゃ。アイリス。お主はどうしたい?」
「わ、私は・・・。」
アイリスは酒の入ったジョッキを見つめている。そしてそれを一気飲みして立ち上がった。
「行ってくる。」
覚悟を決め、レイトの方に歩いて行った。
「おう。行ってこい。」
「頑張ってこい!!」
両親の声援を受けて行ったアイリス。その背中を見守る目はそれぞれ違う。
「・・・?アイリスお姉ちゃんはどうした、の?」
「クロアにはまだ早い事をしに行ったのじゃ。うまくいけばレイトが家族になるぞ。」
「!ほんと!?」
クロアはその言葉に嬉しそうだ。
「ああ。しっかりと見ておけ。」
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「レイト!話があるんだが、いいか?」
アイリスはレイトの後ろに立ち声をかけた。その振る舞いはいつものアイリスだ。
「・・・アイリスさん。」
隣にいるサリヤが先に反応した。何やら気まずそうな顔をしている。
「姫。止めないでくれ。私の気持ちを伝えたいんだ。」
「今は、やめといたほうが良いかと。」
サリヤの顔がレイトに戻った。その顔には心配の表情が浮かんでいる。
「?それはどういう?」
「あ、ぁいリスさぁん。」
振り返ったレイトの顔はとても赤くなり、呂律が回っていない。明らかに酔っぱらっている。
「え?酔っぱらっているのか?」
「アイリス様、申し訳ない!こんな飲みやすい安い酒でここまで酔っぱらうとは思わなくて。」
机の横に立っている給仕係の鬼も困惑している。よく見ると机の上に空の酒瓶が何本も置いてある。
「こんな弱い酒で!?こんなの何本飲んでも酔わないだろう!?」
「人間は私達が思う以上に酒に弱いみたいだねぇ。」
「なんですかぁぁ?」
「言いたい事があったのだが、君がそんな状態では・・・。また今度にするよ。」
「??おち、こんでるんですか?」
頭を回しながら話すレイト。
「まぁそうだね。肩透かしを食らって落ち込んでいるよ。」
「じゃあああ」
おもむろに立ち上がりアイリスに近づいたレイト。
「よしよし。」
少し頑張って腕を伸ばしアイリスの頭を撫でた。
「ぇ。」
「お、おおぅ?」
アイリスの動きが止まり、周囲の鬼達の動きも止まった。
「げんき、でましたぁ?」
屈託のない笑顔をするレイト。
「え、まぁ、元気は、でた。」
顔を真っ赤にしながらも率直な心情を言うアイリス。
「えへへ、よかったぁ。」
満足したレイトの体が揺れて、倒れこんだ。
「!!レイト!」
間一髪アイリスが支えたが、
「くぅ。」
レイトはそのまま眠り込んでしまった。
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カッカッカッ
暗い洞窟の中に誰かの歩く音が響き渡る。少し音が続くと音の主は広い空間にたどり着いたようだ。
⦅あなたの種。消されてしまったようだわね。夢の中での彼はとても楽しそうだったけれど、それが見れなくなるのは少し残念だわね。⦆
暗闇の奥からふわふわとした声が聞こえてきた。しかしその声量は人型のそれでは無い。
「ええ。流石鬼人族一の結界魔法使い。昔より結界魔法が強くなっていてびっくりしちゃったぁ。」
≪あの武器の数々!あの人間の世界にはあんな物があるのか!!≫
次に聞こえてきたのは金切り声だ。とても興奮しているのが分かる。
「みたいね。前に見た時はあんなの無かったから向こうの世界の秘密武器かもねぇ。数が多くないと良いわねぇ。」
【・・・本当にあの男の魔力が我の物になるのか?】
次に聞こえてきた声は地響きのような声だった。
「そうなるようになっているわぁ。私達のそれぞれの目的の為にはあの人間、レイトが必要。抜け駆けしないようにねぇ。」
⦅無理だわね⦆≪無理!≫【無理だな】
三つの声がそれぞれ大笑いをした。暗闇に響き渡り、壁や地面が響き揺れる。ミナも笑っていた。誰にも気づかれずにひっそりと。
「私も無理ぃ。」




