俺の夢
「え?くっさ!!」
その匂いがこちらまで来た。間違いなくくさやだ。
「な、何でくさやが?」
この世界では見たことが無いくさや。思い出したら出てきた。
「・・・思い出?」
セイスさんは悶えているが、キメラは鼻を振り回し匂いを散らそうとしている。
(ここは夢の中。)
さっき読んだ童謡を思い出す。
(夢の世界では、)
そして思い出を呼び覚ます。
(何でも出来る。)
キメラが無茶苦茶に鼻を振り回し俺とセイスさんを吹き飛ばそうとしてきた。
「吹っ飛べ!!」
ドガァァァン!!!!
しかしその前に頭に思い浮かべたトラックが目の前に現れてキメラを吹き飛ばした!
「な、何じゃ!?」
セイスさんが鼻を抑えながら今までで一番驚いた声を出した。キメラを吹き飛ばしたトラックは直ぐに消えてしまう。
「出たぁ!!」
頭の中のトラックがそのまま出てきたことに感嘆の声が出てしまう。
「レ、レイト?今のはなんじゃ!?」
「トラックです!!」
「と、らっく?」
「はい!この世界は夢の世界で頭の中に思い描いたことを外に出せる世界なんですよ!だからあいつは普通の生物ではありえない、まさに夢みたいな攻撃を仕掛けてきてたんです!」
「あ、ああ。」
「でもその頭の中を外に出せるのはあいつだけじゃなくて俺達にも出来るんですよ!」
「ん。おお!そういうことか!!」
理解が出来たのかセイスさんも興奮気味に動こうとする。
「ならばこの液体も!」
目を閉じて液体を触り、力を籠めるセイスさん。少し待ったが液体に変化は無い。
「ど、どうするのじゃあ!?」
「これは多分。」
それぞれの足元に手を向けて思い描く。理屈や過程は分からないがスライムを溶かすお湯を。
ジュワァァァァ
手から熱湯が出てきて足元の液体を溶かしていく。直ぐに動けるようになり、足に影響は無さそうだ。
「おおおお!!凄いなお主!!」
「思い描いたら出ました!」
「儂は結界などは得意じゃが頭の中で思い描くことは苦手なんじゃ。」
「ブゥゥゥゥゥ!!」
吹き飛ばされたキメラが体勢を立て直しているのが見える。頭から白い管が出て眠っている鬼達に繋がった。
「ブゥゥゥゥゥ!!!!」「シャァァァァ!!!!」
目に見えて体が大きくなり、尻尾の蛇も生き生きとし始めた。足も六本に増え背中から鷲のような翼が生えた
「どういう理屈じゃ!?」
「多分眠っている鬼の頭を使ってるんじゃないですかね。考えられる頭が増えたら考えられる事も増えるだろうから。」
「なるほどのう。レイトよ。あの巨獣を任せても良いか?」
「え?」
「お主とこの空間は相手が思っている以上に相性が良い様じゃ。儂は何とかしてやつと鬼達の繋がりを断ち切ってみよう。」
「わかりました!そっちはお願いします!」
「うむ!お主も頼むぞ!」
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「起きないねぇ。」
「そうですね。」
アイリスとサリヤはセイス達が眠っている部屋にいた。レイトが白い空間と白い管で繋がってからずっとそばにいる。窓に差し込む月明かりの角度が鋭利になるほどの夜になったが周りにいる鬼達もせわしなく動いている。理由は
「眠っている鬼達が痙攣し始めたのはレイト君が中で何かをしているからだろうね。」
「おそらくは。」
眠っている鬼とレイト全員に痙攣の症状が出始めたからだ。安らかに眠っていた鬼達だが、レイトが空間に入ってから少しして痙攣し始めたのだ。その大きさはまちまちだが、セイスは凄まじい痙攣を起こしており、医師が魔法をかけているのをラセツや姉妹達が不安そうに見守っている。レイトも痙攣を起こし床に倒れこんだが今は痙攣していない。
「しかしまさか倒れてしまうとは。レイト君は何をしているんだろうねぇ。」
「彼が帰ってきたら聞いてみるしかありませんね。」
サリヤが膝枕でレイトを支えている。近くに鬼はいなく彼女等だけの空間のようになっている。
「・・・姫は変わったね。」
「そうでしょうか。」
「変わったさ。前の姫は冷たい氷の壁のようだった。触れば冷たく、力を籠めれば割れてこちらの手を傷つけるような怖さを持っていた。我々に心の内を見せることは無く、何もかもを氷の壁の中にしまい込んでいた。まあ、その秘めたる冷たさに私達は惹かれていたんだけどね。」
「・・・。」
「だが今は違う。彼に期待をしている。心を彼に許している。氷の壁が溶けて暖かい川となり、彼に流れている。前にあった時はそこまで心を許していなかったからこの短い期間で何か変わったんだろうね。」
「かもしれませんね。」
サリヤがレイトの頭を撫でる。
「私は彼につらい決断をさせてしまいました。私は彼に許しを請いましたが、レイトは私を責めるのではなく私を励ましてくれました。そんな無茶苦茶な使い魔に私は変えられたのでしょうね。」
「ふふふ、それは見るものによっては弱くなったと言うかもしれないが、私は今の姫の方が好きだね。」
「ありがとうございます。でもアイリスさんの心も彼に向いているでしょう?」
「」
二人の間に少し冷たい空気が流れる。
「わかるかい?」
「ええ。以前の私であれば分からなかったでしょう。あなたたち三姉妹に好意を向けられていただけの私では。しかしレイトを通して相手の気持ちを理解しようとしている私にはわかります。あなたの気持ちが向いている先が彼に変わったと。」
「ふふふ。その通りだ。」
「そもそもあの二人と違って、あなたは私に全開の好意を向けていませんでしたよね?」
「そんなことはないよ。私が姫の事を好きだったのは確かだ。鬼は強いものに惹かれる。姫は同年代で私より強い唯一の存在だったからね。まあ、そう考えると好意というよりは憧れだったのかもしれないね。」
「ではレイトに好意を向けているのは鬼の血のせいではなくあなた自身の心の判断、ということですね。」
「そうだね。姉妹たちの姫への好意は全開の好意だと思うがね。ちなみに姫はまだ相手の心を読み切れてないね。そういう事は言わない方が良いんだよ。」
「流石に本人の前では言いませんよ。」
「そういう事でもないんだが。まあいい、いつか自分の口から言いたいからね。」
「・・・彼が私以外を選ぶとは思えませんが。使い魔ですし。」
「どうだろうね?鬼の求愛は人間には刺激的だろうからね。使い魔と主人という関係に甘んじないことだ。」
二人の目が合い、バチバチと火花を散らしていた時周囲の環境が変わった。
「うっ!!」「はぁ!!」
「ラセツ様!皆が起き始めました!」
眠っていた護衛の鬼達が起き始めたのだ。
「おお!お前達!大丈夫か!!」
「ラ、ラセツ様・・・。」
起きたばかりの鬼は会話ができないほどに衰弱している。だが鬼達は次々と意識が戻り起きていないのはレイトとセイスだけになった。
「レイト。」
頭を撫でるサリヤの手に力がこもる。
「・・・待つだけしかできないとは。」
アイリスもレイトの手を握り、ちからをこめる。
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「!!っぅ。」
「おはようベイガ。大丈夫か?」
「セイス様。ここは。」
「話は後だ。この夢から覚めろ。」
「え?はっ?」
セイスは事情を掴めない鬼の顔の前に手を突き出し呪文を唱えた。すると鬼の体が薄くなり、この世界から消えてしまった。
「管を外すのは苦労したが、こやつらを起こすのにクロアに使った眠らせる魔法の応用が利くとは。」
周囲を見回し他に鬼がいないことを確認したセイスはレイトの戦いに目を戻した。
「しかし、」
キメラの風貌は最初とは全く変わっていた。大きさは戻っていたが上半身からは象の鼻が、下半身からは蛇の頭が無数に生えそれぞれが独立した動きをしている。
「ここまで一方的とは。」
ドゴォ!!
そしてその怪物は爆発音とともに後方に吹き飛んだ。
「よっしゃぁ!!」
レイトの周囲には歪な形の戦車や迫撃砲のようなものが設置されていた。
「ははははは!!楽しい!!」
キメラが体勢を立て直そうとするもその前に砲撃が飛んでいく。鼻から水を吹き出しそれを壁にするもレイトの攻撃力は易々と壁を破壊する。
「想像力で高校生に叶うと思うなよ!理屈とか理論とか考えなくていいなら、何度も生み出せるんだよ!!」
そう言うとレイトは腕を上に挙げた。その先には鉄で作られた長い筒が出来上がっていた。
「レールガンだ!!」
バリバリと電気が流れたかと思うと小型の球が射出されキメラを貫く!
「これなら・・・。えぇ、これでも倒れないの?」
キメラの体はほとんど消し飛んだものの残った部位から少しずつ再生が始まっていた。
「レイト。」
「あ!セイスさん。護衛の方たちはどうなりました?」
「お主が注意を引いてくれていたおかげで皆を夢の外に追いやることが出来た。後はあれを殺せれば我らも外に出られる。」
「それは良かった。ただ凄いタフなんですよね。何回消し飛ばしても再生するし。」
「タフ?ああ、殺せないという意味か。おそらく奴の頭の中ではどんなに消し飛んでも再生するような絵図が描かれているのだろう。」
「じゃあどうやって倒せば・・・。」
「・・・お主の攻撃には相手を殺すという思いが乗っておらぬな。」
「え?」
「お主の攻撃は凄まじい。儂には何もわからぬが怪物を追い詰めているのは確かじゃ。じゃが攻撃に殺意が乗っておらぬ。お主はあの多彩な攻撃で敵を殺したことがないのではないか?」
「それは、ないですね。」
キメラの再生が終わろうとしている。
「この夢の世界はそういったこともくみ取っているのではないかの。」
「・・・なるほど。じゃあ相手を殺すように攻撃してみます。」
レイトの雰囲気が変わる。
「バォォォ!!」
キメラの再生が終わり攻撃を繰り出そうとした瞬間、
「止まってろ!」
手から何本も蔓を出しキメラの動きを止める。蛇人族が出していた蔓を思い出す。
(敵を殺す。この世界に来てから初めて考えたこと。なら!)
《アイスランス!!》
初めてレイトが敵を殺した魔法。夢の中でも変わらず大きくない氷の槍が出てキメラを貫いた!
「ブォ、ォォ・・・。」
レールガンの時よりも体は残っていたがキメラは倒れ、動かなくなった。
「ふぅ。」
一息ついたのもつかの間キメラの体が崩れ始め、レイトやセイスの体も光り始めた。
「これは。」
「お主が夢の主を倒したからこの夢の世界が崩れているのだろうな。」
「そか。それはよかった。」
「うむ。レイト、礼を言うぞ。夢から覚めたらちゃんとした礼をさせてくれ。」
「いえ、セイスさんと護衛の方達が無事でよかったです。」
「ふふふ。国を挙げての礼は後でするとして、これは私個人からだ。」
セイスはレイトの頭を撫でた。
「ふむ。鬼とは違うが、まあいいだろう。」
「?あ、ありがとうございます?」
頭を撫でられた理由をわかっていないレイトだったが、その意味を聞く前に夢のすべてが消えてしまった。




