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鬼達の夢

「ふぅ。」「むぅぅ。」


部屋に入るとサリヤやラセツさんがため息をついている瞬間だった。


「お父様。」


「おお、アイリス。」


「進展はありましたか?」


「あったぞ!サリヤ殿が眠っている者たちが同じ魔法にかけられていることを突き止めてくれた!」


「おお、流石姫。」


「でもどんな魔法がかけられているのかが全くわからないんです。もしかしたら古い魔法かも。」


アイリスさんに褒められてもあまり良い顔をしないサリヤ。会話を横目に眠っているアイリスさんのお母さんに近づく。


「?レイト?」


「ん。」


クロア君の呼び掛けに応えず目を瞑り、周りの環境を感じる。魔法を使えるようになって感じれるようになった周囲の魔力。遺跡の扉を開けた感覚。そしてあの白い夢の違和感。ゆっくりと右手を前に出す。


「魔法はイメージ。」


自分の中でのイメージを外に出す感覚。考えるだけでは追いつかないので言葉で補強する。


「開け。」


スゥゥゥゥゥ


「「おぉ、」」


後ろから驚いた声が幾つも聞こえた。目を空けると何度か見た白い空間が浮かんでいる。それはふわふわと浮かんでいて寝ている全ての鬼の頭と管で繋がっていた。


「・・・なにこれ。」


「こんな魔法見たことねぇ!」


「ほぉ。」


「レイト、凄い!」


「レイト殿。これは?」


鬼の面々がリアクションを上げラセツさんが聞いてきた。


「これは多分夢です。」


「夢?それって貴方やユカリさんが入ったって言ってたあの?」


「はい。この部屋に入った時から何か違和感があって、図書室で夢の話をした時に思い出したんです。前に入り込んだ白い夢の感覚だって。」


「それにしても、どうやってそれをこんな風に具現化したの?私達じゃこの夢の片鱗を掴む事も出来なかったのに。」


「今までの魔法の感覚を思い出したんです。一番役に立ったのは遺跡を開けた時の感覚ですね。それをイメージしたら上手くいきました。」


「・・・そう。」


サリヤはまだ聞きたいことがありそうだったがその視線を白い夢に戻した。


「とりあえずお手柄ねレイト。貴方のおかげで次に進む事が出来る。」


「はい。次はこの夢をどうするか、ですよね。」


「そう。セイス殿や護衛の方々がこの夢のせいで起きないのは確実でしょうし。」


「じ、じゃあこの夢を壊せばお母様達は目覚めるのか!」


トライルさんが興奮気味にサリヤに聞いてくる。


「いえ、これが皆さんの夢であるならば無理矢理壊すとどうなるか分かりません。下手をしたら脳が壊れてしまうかも。」


「うっ。それはヤバいな。」


「・・・それならこの夢を覚まさせるしかない?」


次はニーナさんが代替案を出してきた。


「そうですね。でもどうやって。」


「中に入れば中から夢を消せるんじゃないですか?」


「中に入る?」


俺の提案にアイリスさんが疑問符を投げかけてきた。


「ええ。俺は何度もこういう白い夢に入った事があります。その時の感覚を思い出せば今の俺なら入れると思います。それに夢が壊れる時の感覚も覚えています。それを再現出来れば夢を覚まさせられます。」


「成程。でもそれだと君一人で入る事になるよ?大丈夫かい?」


「大丈夫で」


「駄目です。」


サリヤが食い気味に否定してくる。


「この白い夢は敵の魔法で作られているのが明白です。その中に貴方一人で入って貴方も囚われたらどうするんですか。」


「大丈夫ですよ。前に入った時は戦いにはならなかったし。」


「前は前。今回敵は確実に害を与える為にこの魔法をかけています。何が仕掛けられているか分かったものではありません。」


「うぅ。でも他に方法はないでしょう?皆にこの夢に入る感覚を伝えるなんて出来ないし。」


「・・・それは。」


気まずい沈黙が部屋の中に流れる。


「・・・レイト殿。この夢に入れるのだな?」


その沈黙を破ったのはラセツさんだった。


「はい。」


「ラセツ殿。」


「サリヤ殿。貴方が自身の使い魔の事を心配する気持ちはよく分かる。だが今他に方法が無く、この夢に入れるのがレイト殿だけだというのもまた事実だ。それに貴方方がどういった戦いを経てきたかは分からないが彼の纏う風格は前に別れた時とは別物だ。彼なら何とかしてくれると信じられる程に成長している。」


「・・・。」


「そうだね。レイトは強くなっている。姫が思っている以上にね。」


「・・・分かりました。」


ラセツさんとアイリスさんに諭されてサリヤも渋々認めてくれたようだ。


「ありがとうございます。」


「レイト殿!」


「はい。」


「ロンナ国の族長としてお願いする!我が妻セイスや護衛達を救ってくれ!頼む!!」


「お願いします!!」


ラセツさんのお辞儀を皮切りに部屋にいた他の鬼達もお辞儀をしてきた。アイリスさんやクロア君もお辞儀をしてきてくれている。


「はい。必ず。」


相手からの敬意は否定せずしっかりと受け止める。これもこの世界に来て学んだ事だ。


「レイト。」


「はい。」


「気をつけて。」


そう言ったサリヤの目には不安が籠っていた。


「任せて。」


精一杯の笑顔を作り白い夢に手をかざす。夢から出ている管を自分に繋げるイメージ。人の夢に入るイメージ。本の中の物語に没頭するイメージ。


「夢の国へ。」


体が浮かんだような気がした。


-----


体が地面につき目を開けると白い夢に入っていた。


「よかった。入れた。」


(ぶっつけ本番でも何とかなってよかった。)


イメージの大切さ、魔力操作のやり方を学べていてよかったと思う。目の前には白い空間が何処までも広がっているが奥の方に何かがあるのが見える。


「???」


歩き出そうとするも上手く体が動かない。体育の授業でやった着衣水泳の様な体に何かが纏わりついている感覚がある。


「歩く。」


自分が歩くイメージをすると前に進めた。この空間の中ではイメージが大切らしい。前に進んで行くとそこには、


「あれって、象だよな?」


大きな象の顔の何かがいた。上半身は象、下半身は鶏、尻尾に蛇が生えている。横を向いていて、長い鼻は何かを吸っているようだ。


「キメラなのか?夢の中って事は頭の動物は獏かな。」


そのキメラの周囲には鬼が浮かんでいる。その数は眠っていた鬼と同じだ。


「あのキメラがこの夢の主か。何を吸ってるんだ?」


近づいてもこちらには反応しない。鼻の先には褐色で二本の角が生えている鬼、アイリスさん達のお母さんが横たわっていた。彼女の周囲の空間ごと吸っていて、周囲の空間が歪んでいる。。


「とりあえずこれを止めたほうが良いよな。」


しかし、鼻を引いても押してもびくとも動かず鬼の体には触れない。


「仕方ない。」


《アイスランス》


氷の槍を出してキメラの鼻の先に当てる。


ドシュ


鈍い音と共に鼻が横に逸れた。空間の吸引も止まったので彼女の体を引きずって鼻の届かない場所まで離脱する事が出来た。


「もしもし。大丈夫ですか?」


「・・・・・・むぅ。ここはどこじゃ。」


さっきまで何かを吸われていたとは思えないほどあっさりと上半身を起こして、自分の頭を叩いている。


「ここは夢の中です。」


「・・・お主は?」


「あっ!俺は玲斗って言います。セイスさんですよね?」


「そうじゃが。なぜ儂の名を知っている。」


「ラセツさんから教えてもらったんです。貴方や護衛の方が遺跡を守る為に戦い、この夢に囚われてしまったので助けに来ました。」


「遺跡。夢。あぁ!思い出した!」


「よかった。」


立ち上がったセイスさんだったがふらついたので支える。


「レイトとやら。お主はどうやってこの夢に入ってきたのじゃ?」


「どうやってって、頑張って?」


「何じゃそれは。この夢の世界はミナの奴が作ったものじゃ。そんな簡単に入れぬはずじゃぞ。」


「ミナの奴が、作った?」


「そうじゃ。あやつはいきなり遺跡の前に現れた。そしてこの国の遺跡に入りたがっておったのじゃ。その思いに邪なものがあると見抜いた儂は護衛に奴の対処を任せ遺跡の扉に封印を施したのじゃ。護衛は倒されてしまったが我ながらとても強固な封印を施せた。その後儂との戦いになったが時間が掛れば不利なのは向こうじゃ。儂との戦いの片手間では封印を破れぬと察した奴は儂をこの夢に閉じ込め消耗を図ったのじゃ。」


「消耗を図る?」


「儂が死ねばあの封印は壊れる。ラセツが来るまでには肉体的に殺せぬと悟ったのじゃろう。精神的に殺す魔法を儂に掛けたのじゃ。周りにいた護衛も巻き込まれたようじゃがの。」


「成程。じゃあこのキメラがセイスさんを吸っていたのは精神的に殺す為だったんですね。」


「うむ。最初は儂も抵抗していたのじゃがこの空間は向こうの領域じゃ。負けてしまった。」


わかりやすく落ち込んでしまったセイスさん。


「と、とりあえず皆さんを連れてこの夢から出ましょう。」


「そうじゃの。あの獣がこの空間の主じゃ。奴を殺せば出れるであろう。」


「じゃあ早くやりま、」


「ブゥゥゥ。」


これまで全く動かなかったキメラがゆっくりと動いてこちらを見据えた。


「・・・やりましょうか。」


「うむ!あやつの攻撃は常識の範囲ではない!気をつけよ!」


自分で立ったセイスさんは両腕を振り回し気合を入れている。


《アイスランス》


俺も氷の槍を出して敵の攻撃に備える。


「ブゥゥゥゥゥ。」


鼻を高く掲げ、その先端をこちらに向けてくる。そして


ブシャァァァァァ


何か液体を噴き出した!


《アイスシールド!》


氷の盾を作り防御する。


ジュワァァァ


だが、ゆっくりと盾を溶かしこちらに突き進んできた!


「ふっ!」


液体を無視してキメラの懐に入り槍を腹に突き立てる!


ガキィン!!


柔らかそうな見た目とは裏腹に鋼鉄に突き刺さる様な音が響き槍が砕けてしまった!


「なっ!」


ドゴォ!


驚いている間もなく横から何かに吹き飛ばされる!体勢を立て直して見ると尾の蛇が俺を吹き飛ばしたみたいだ。


「なら!」


《ダースドリル!!》


黒いドリルをキメラに向けて撃つ!


「あれ?」


前に撃った時とは違う違和感が気になりつつもドリルはキメラに当たった!


モニュ


と思ったが今度は毛布に当たったような柔らかい音が鳴りドリルが弾かれてしまった。


「はぁ??何それ。」


二回の攻撃が全く通用しなかった。


「ハァァァァ!!」


キメラの注意が俺の方に向いた瞬間、セイスさんが上空から踵落としを決めたが


モニュ


とまたしても柔らかい音が鳴り攻撃が通用しない。


シュゴォォォ!


空中のセイスさんに向けて蛇の顔から熱湯の様なものが吹き出され、押し出される形で俺の方に飛ばされてきた。


「何か変な感じです。」


「そうじゃろう?普通の生物では有り得ん挙動をするのじゃ。こちらからの攻撃は無効化され、向こうの攻撃は確実にこちらを削る。やってられんわい。」


「確かに。」


やってられないという言葉が合う状況だった。何度も攻撃を繰り出しても時には硬く、時には柔らかくいなされ、象の鼻や蛇の頭から出てくる攻撃はその度に熱湯や酸性液体、はたまた炎などが出てきてこちらを消耗させた。


「くっ。」


「やはり効かぬか。」


遂には二人とも象の鼻から出てきた粘性の高い液体に足をとられ動けなくなってしまった。


「こんなめちゃくちゃな奴にどうやって勝てって言うんだ。」


今までの戦いを全て思い出してもここまでめちゃくちゃしてくる敵はいなかった。僕が作った最強の敵のようだ。


「どれだけ強くても普通は法則や一貫性があるものじゃがこやつにはそれが全く無い。ここまで強いとまさしく夢の魔獣じゃな。」


「ブゥゥゥ。」


ゆっくりと鼻をセイスさんに近づけるキメラ。


「セイスさん!」


「わかっておる!逃げねばならぬが動けん!」


どれだけ激しく動いても一歩も動けない!氷の槍や闇のドリルを敵に飛ばしても全て弾かれる!


「くっ。」


「だめ!」


何とかセイスさんを逃がそうと考えを巡らす!だが何も思いつかない!


「あいつの吸う力を妨害できれば!」

その言葉にふと頭の中に中学生の時に嗅いだくさやが思い出された。


(あの臭さがあればなぁ!)


切羽詰まった状況なのにそんな事を思ってしまう。


「ブゥゥ、ボァァァァ!!!」


「くさい!!!」


次の瞬間キメラが大きく仰け反り、セイスさんも鼻を抑えている。彼女の眼前には


「くさや?」


俺が思い描いたくさやがあった。

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