本の虫達
「レイト!!」
部屋に入るや否やクロア君が飛びついてきた。
「わっ!久しぶりクロア君。」
何とか受け止めることが出来たが身長差で覆いかぶされてしまった。
「大丈夫?」
「うん。もう大丈夫。」
「ほらクロア。話が進まない。離れるんだ。」
そんなクロア君を簡単に引きはがすアイリスさん。クロア君を軽く持ち上げているところを見ると鬼は女性でも力持ちなんだと再認識させられる。
「レイト。」
「あっ、マスター。お騒がせしました。」
「いえ。今の状況は聞きましたか?」
「はい。俺の事を話したって事と。」
マスターや族長の直ぐそば、部屋の奥においてある大きなベッドで寝ている鬼に目を向ける。
「アイリスさん達のお母さんや護衛の方達が目を覚まさないってことを。」
周囲には十個ほどのベッドが置いてあり鬼が寝ている。周りの深刻そうな雰囲気とは裏腹にすやすやと寝ている。
「ええ。私達の目的である遺跡に入るためにはセイス殿に起きてもらわなければならないのですが、現状その方法が分からないのです。」
「何かしらの魔法がかけられているのだが、それをどうやって解除するのか皆目見当がついていない。なのでサリヤ殿のお力もお貸しいただきたい!」
「もちろんです。」
マスターは眠っている鬼達に近寄り、なにやら触診のような事をし始めた。
「んーーー?」
「どうした、の?」
「いや、なんか、違和感があって。」
「??」
「んーーー?」
この空間に漂っている魔力?が変な感じがひしひしと感じる。だがそれを正確にとらえること。言語化することが出来ない。
「さて、邪魔をしては悪いし私達は外に出ようか。」
「!うん!レイトも、行こ?」
「え?良いんですか?」
「大丈夫。姫も来てくれたからね。私達の仕事はお母様が目覚めた後だよ。」
そういうと二人は部屋を出ていこうとしてしまう。ちらっとマスターの方を見ると
「どうぞ。」
と言われ、目で部屋を出るように促された。
「はぁ。」
たしかに何が出来るわけでもないし、外に出よう。
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「さて、では我々は図書室にでも行こうか。」
「図書室?」
三人で歩き始めたとき、アイリスさんが提案してきた。アイリスさんは左側にいるが、クロア君とは右手を繋いで歩いている。
「君達は古き魔物の事を調べにこの国に来たんだろう?」
「はい。」
「古き魔物の事を記している遺跡には今は入れない。だがもしかしたら図書室に何か参考になるような文献があるかもしれないからね。ディスブル国のライブラリキューブの蔵書量は凄まじいが、古い文献が多いと言う意味ではこの国の図書室も負けてはいないだろう。更には外で国民が見つけてきた持ち主不明の本もここに置いているんだ。」
「持ち主不明の本?」
「ああ。たまに見つかるんだ。近くに肉片や布の切れ端が落ちていることもあるから、何者かが持っていた本で持ち主は魔獣に襲われたというのが通説だね。そんなだから変な事しか書いていない本もよくある。君達が欲しい情報もあるかもしれないね。っとここだ。」
他の扉とは変わりない扉だったが扉の横には何かが書いてある。
「さあ、入って。ここが自慢の図書室だ。」
中に入ると学校の図書室のように大きな本棚がずらりと並び、所々に大小いくつかの机と椅子が置いてある。
(さっきの文字は図書室って書いてあったのか。)
「さて、とはいえこれだけの量だ。全てを一つずつ見ていくのは現実的では無いね。手分けして色々な本を読んでいこうか。」
「はぁ。」
この世界の文字が読めないというタイミングを逃してしまった。二人がずっとこちらを見てくるのでひとまず適当な棚に向かい適当な本を開けてみる。
(・・・さっぱりわからん。)
サリヤに少しずつ教えてもらう予定だったが鍛錬や俺の怪我のせいで教えてもらう暇がなかった。
「ふむ、それは料理の本だね。」
「えっ。」
横から言われたことに思わず声が出てしまった。
「レイト、文字読めない、の?」
「う、うん。ごめん。」
「ふふふ。それもそうか。君は別の世界から来たんだからね。この世界の文字が読めなくても不思議ではない。」
心底不思議そうに見てきたクロア君と何故か嬉しそうなアイリスさん。
「ではこうしよう。クロアが本の背表紙を見て古き魔物に関係ありそうな本を選んでくる。私が君に古き魔物と先ほど姫が言っていた三魔神の読み方を教えるから君は選ばれた本の中からその単語を見つける。そして私がその本の内容を精査する。」
「アイリスお姉ちゃんだけずる、い。」
いつの間にか俺の手を握っているクロア君が不満そうに頬を膨らませている。
「お前はまだ読み方をちゃんと教えられるほど勉強していないだろう?それに本の内容の確認はこの中だと私しかできない。これが一番良いやり方なんだよ。」
「むーー。」
「まあまあ、クロア君。よろしくね。」
「わかった。」
まだ不満そうだったがこのままだと進まなそうだったのでアイリスさんの提案に乗ることにした。近くの椅子に座るとアイリスさんが紙とペンを出してきた。
「これが古き魔物。これがエキドナ、デメテル、メドゥーサ。」
「・・・記号にしか見えない。」
「ふふふ、他の世界の人間から見たらそうなんだね。勉強になるよ。」
「はい、持ってき、た。」
クロア君が何冊かの薄くて古そうな本を持ってきた。
「ありがとうクロア君。」
「うん!また、探してくる、ね。」
そう言って本棚の迷路に駆け込んでいった。
「クロアが元気になってよかった。お母様が倒れて一番狼狽していたからね。君が来てくれてよかった。」
「そう言ってもらえて嬉しいです。」
一冊の本を開く。
「うえぇ。」
分かってはいたことだがよくわからない文字で構成されているので目が痛くなる。
「英語の教科書なんて比じゃないな。」
アイリスさんが書いてくれた文字を時々確認しながら本を読んでいく。一冊一冊は薄いので頭は痛くならなさそうだ。
「あ!アイリスさんありまし、た。」
ようやく古き魔物の文字を見つけてアイリスさんに見せる。だがアイリスさんの視線は本の方ではなく俺の顔に向いていた。思わず彼女の目を見てしまい気圧された。
「ん?ああ、内容を確認しようか。・・・これは古き魔物の事でも別の魔物の事だね。残念だ。」
アイリスさんは本を横に置き、また俺の方を見てきた。
「な、何か俺の顔についてます?」
「いや?気にしないでくれたまえ。」
「わかりました・・・。」
気にしないでと言われても見られているのを意識すると集中できなくなる。それでも本を読み進めていく。クロア君が持ってきて、俺が読んでいく。たまに探している文字があり、アイリスさんに見せるものの詳しい情報がある本ではなかった。アイリスさんに本を見せる時にいつも目が合うので緊張してしまう。
「うう、疲れ、た。」
何冊か本を持ったクロア君が俺の横に座った。
「うん、もう結構な時間が経った。外も暗くなっているしこの本たちで一区切りといこうか。」
「わかりました。」
いつの間にか外が暗くなっていたようだ。それほど集中している気分ではなかったが時間が経つのは早い。
「?アイリスおねえちゃん、元気になった?」
「ん?そう見えるかい?」
「うん。見え、る。」
「クロアがそう見えるならそうかもね。でもクロアもレイトが来てくれて元気になっただろう?」
「うん!」
俺を挟んでの兄弟の会話。クロア君の反応が可愛いのが聞こえてくる。
「ふう。これにもなさそうですね。」
「そう。やっぱり古き魔物の詳しい情報は地下の遺跡の中にしか無いのかもね。一応最後の本を見て戻ろうか。」
「そうなんですかね。んーーー・・・ん?」
軽く伸びをして最後の一冊を見ると
「しかし最後の本が、なんて書いてあるんだろうね?」
「なんか大きな本だったから持ってき、た。」
「これって。」
懐かしい文字が書いてあった。
「?読めるのかい?」
「はい。これは俺の世界の文字です。」
「え!こんな変なの、が?」
「こらクロア、失礼だぞ。しかし私達の世界の文字とは全く違うものだね。」
「そうですね。」
そこには世界的に有名なネバーランドの本があった。子供向けの大きな童話本だ。
「懐かしいな。氷月に読んでもらったっけ。」
「どんな本な、の?」
「とても個性的なえ絵だね。」
二人が覗き込んできた。
「じゃあ読みましょうか。」
俺は子供に聞かせるようにゆっくりと本を読んでいった。時々解説を挟みながらもうまく読み聞かせが出来たと思う。その証拠に二人とも熱心に聞いてくれていた。
「レイトの世界はこんな凄いところなんだ、ね!」
「これはお伽話って言って子供の為のお話なんだ。俺がいた世界はもっと、こう、えっと、人間が多いところだよ。」
この世界は剣や魔法がある世界だが元の世界を説明するのは難しい気がする。
「だがこういった物語を生み出せるというのは凄いね。旅をする喜び、敵を倒す爽快感、そして何より空を飛べない人間が自由に空を飛ぶ非日常感。素晴らしい作品だと思うよ。」
「昔から子供に愛されている作品ですからね。夢みたいな世界観に俺も惹かれたなぁ。」
昔を思い出してしまった。最初はパパに読んでもらったけど、次は氷月が読んでくれたんだよな。思えば氷月はパパやママに対抗心を燃やしてたような・・・。
「そんなわけないか。」
「ん?どうしたんだい?」
「ああ、何でもないです。」
「レイトはこういう本が好きな、の?」
「うーん昔は好きだったけど今はそうでもないかな。今現実に夢みたいな世界にいるし、こういうのを夢に見るのは、子供の時、だけ。」
俺の中で何かが繋がっている気がした。
「どうした、の?」
「気分が悪いのかい?」
「いや、なんか思い出したような。」
二人が心配して顔を覗き込んでくるがそれが気にならないほど頭の中が動いている。この世界に来てからの思い出が少しづつ頭に浮かび
「ああ!」
俺の中で確信に変わった。
「!!!」
「なんだい?」
突然立ち上がった俺に目を丸くしている二人。
「思い出したんですよ!二人のお母さんが寝てた部屋にいた時の変な感じの事!」
「変な感、じ?」
「私達は感じなかったが、それがどうかしたのかい?」
「はい!あの部屋に戻ってもいいですか!?」
自分でもびっくりするほど興奮している。
「あ、ああ。構わないよ。本を片付けて行こうか。」
アイリスさんも若干引き気味だったが手分けして本を棚に戻しサリヤのいる部屋に向かった。




