驚き、新たな困難
「結構早く着いたわね。」
「そ、そうだね。」
息を切らしながら答える。俺達は早朝にディスブル城を出て、身体強化魔法でずっと走ってロンナ国に来ていた。何とか日が落ちる前に着くことが出来たが、休憩無しで走り続けてきたのですごく疲れてしまったのだ。
「それにしても」
目の前の光景、ロンナ国の城を見ると今まで見てきた城砦とは違う部分があった。
「でっけぇ堀。」
城壁の前に大きな堀があり、そこに水が引かれていたのだ。門に続く部分のみ橋が渡っている。
「この堀は昔の鬼人族が掘り抜いたもの。」
堀を横目に橋を渡る。
「今は水が張ってあるけど、ディスブル城よりも深く掘られているの。」
「そうなんだ。でも他の城とかにはこんな堀無いよね。何で?」
「あなたが思う堀の必要性は分からないけど、この世界だと空を飛んだり地面にもぐったりがよくあるでしょ?だから堀じゃなく城壁を築いてそこに守護結界の魔法を組み込むの。それは地面から空まで城壁に沿うように丸く張られていて城壁が壊されるまでは侵入者を防ぐの。」
「へぇ。」
「ロンナ国はその結界魔法が開発されるよりも古くからある国。堀を作った後に結界を張っているから残っているんだって。」
「ふーん。」
「今はいないけど有事の際には侵入者を撃退する為に式紙を放ったりしてるのよ。」
サリヤから説明を受けて進んでいると、ようやく城門の前に着いた。
「何者だ!!」
門の上にいる鬼達がこちらを睨みつけて問いかけてきた。
「私はディスブル国の皇太女サリヤ。こちらは私の使い魔のレイト。族長であるラセツ殿に会いに来ました。」
「サリヤ様!?しょ、少々お待ちください!!」
一体の鬼が門の内側に慌てて入っていく。
「流石マスター。名前だけであんな反応をされるとは。」
「自慢ではありませんが同盟国ならば私の名前を出せば事前連絡が無くても入れます。」
「凄い。」
直ぐに鬼が戻ってきた。
「今この国は厳戒態勢を敷いており誰も入れるなとの通達が出ています!申し訳ございませんがお引き取りください!」
「「え?」」
思わず疑問符がかぶってしまった。
「厳戒態勢?」
聞きなれない言葉に首を傾げてしまう。
「私の名前でも入れないとはよほどの事があったのでしょうね。」
少し考え込んだサリヤは直ぐに振り返って
「帰りましょう。」
と言って鬼にお辞儀をして帰る方向に歩いて行ってしまった。
「え、あっ、はい。」
俺もお辞儀をして彼女を追いかける。
「良いんですか?」
「ええ。ロンナ国が門を固く閉ざす事態は初めて見ます。下手にごねても後々ややこしくなるだけでしょう。また今度来ましょう。」
「・・・分かりました。」
少ししぶしぶではあるがサリヤの意見に従うことにした。
ザッバァン!!!
橋を戻っていると堀の中から大きな何かが現れた。
シャァァァ!!
大きな双頭の蛇が水面に現れた。
「メドゥル!?何で!?」
ドクッ!
その蛇の姿を見た途端穴を空けられた場所が疼き、心臓が破裂しそうな程激しく鼓動した。
「なぁ・・・。」
周りの事がわからない。直ぐに意識が無くなった。
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「この国で何が起きているのですか?」
ロンナ国の族長室。長の部屋とは思えないテント作りの場所にサリヤはいた。
「メドゥルを出しているということは余程の危機が迫っていると考えられますが。」
彼女だけではなく族長やその子供達四人もいる。
「その通り!今この国は今までに無い危機に見舞われているのだ!」
族長のラセツはいつもの調子のようだ。
「危機とは?」
「我が妻であるセイスが襲撃に会い床に伏してしまったのだ!」
「セイス殿が?」
ラセツの言葉にサリヤは疑問を返した。
「セイス殿と言えばこの国でも屈指の実力者では?」
「そうなんだ。お母様はこの国で一番強いといっても過言ではないお方。私達四姉妹を合わせてもその足元にも及ばない強さを持っている。それが何者かに負けてしまったとなるとこの国に与えた衝撃は計り知れないんだよ。」
アイリスが話に入ってきた。
「どんな相手に襲撃されたのですか?そこいらの魔物や魔獣には負けないと思っていましたが。」
「あー、それがねぇ。」
アイリスの歯切れが悪くなる。
「お母様からいない人の名前が出てきたから我々も取り合えず厳戒態勢を引いているんだ。」
「いない、人?」
人の部分に反応したサリヤ。
「・・・そうだ。お母様は襲撃者の事をミナ様と言っていた。」
「!!」
サリヤの顔が驚きに変わった。
「・・・それって。」
「そうだ。お母様と襲撃したのは君の母であるミナ様と言われたのだ。」
部屋が静けさに包まれた。
「ミサ殿の事はドルファス殿から聞いている。自爆してしまったと。あまりに唐突の事で国民にも極秘にしているとな。この事をこの国で知っているのはここにいる我々だけだ。」
「お母様からその事を聞いた後、ドルファス様に向けて確認の手紙を出したんだ。姫達が来る少し前に出したから入れ違いになったんだろう。」
「・・・そう、ですか。お父様に手紙を出してしまったのですね。」
「ああ。・・・あまり驚愕はしていないその様子。もしかして姫はミサ殿が生きていたことを知っていたのでは?」
「・・・はい。私がお母様が生きていると知ったのはつい最近。私自身もそれが本当か分からず調べる為にこの国へ来たのです。」
アイリスの言葉に軽く息を吐いてサリヤが答える。
「調べる、為?」
クロアが首をかしげて聞く。
「ええ。こうなっては隠しておいてはおけないでしょう。お母様に会えたら分かってしまう事ですし。」
もう一度息を吐き続けるサリヤ。
「私の使い魔であるレイト。彼は別の世界から来た人間なのです。」
「!!」「え?なんだそりゃ。」
ニーナやトライルは大きな驚きを隠せない。
「それはそれは。」
アイリスは少しの笑顔で返し
「・・・」
ラセツは何か考え込んでいるようで
「??」
クロアはよくわかっていないようだ。
「あいつは記憶喪失じゃなかったのか?」
「違います。召喚された時混乱を招かないように記憶喪失を演じるように言ったのです。」
「そりゃあ混乱するよな。俺は違う世界からの人間なんて見たことないし。」
「・・・凄い驚きだけど、それとミナ様とどういう関係が?」
ニーナが手を顎に当てながら聞いてくる。
「彼ともう一人異世界からの人間がいたのですが、その二人をこの世界に連れてきたのがお母様の可能性があるのです。」
「ばかな!」
その言葉に反応したのはラセツだった。
「異世界人間をこの世界に呼ぶなどそんな魔法は聞いた事が無い!この国の遺跡にもそんな魔法は記されていない!」
「確かに異世界から来た人間の事は聞いた事あるけど、異世界から人間を呼ぶ方法は聞いた事が無いね。」
「ええ。なので我々は情報を集めようとこの国の遺跡にやってきたのです。」
「むう。だが何故この国に?」
「お母様と協力している組織があるようなのですが、その組織が古き魔物であるエキドナ、デメテル、メドゥーサを三魔神と呼び復活させているようでまずはその三体の情報を得ようと来ました。」
「そうか。確かにこの国の地下にある遺跡ならばその情報はあるかもしれない。だが今は入れないのだ。」
「?入れない?」
「そうだ。昨日魔獣の襲撃があった。その対処中にセイスは嫌な予感がすると言って少しの護衛と共に遺跡に向かった。その予感は当たり侵入者と戦ったのだ。だが護衛が敗れ、セイスでも勝てなかった。そこで遺跡の入り口に結界を張ることで遺跡に入られることを阻止したのだ。我々が到着する数瞬前に侵入者は逃げたようだがな。」
「俺達にはその侵入者が誰かわからなかったんだけど、お母様が気を失う前にミナ様だと言ったのさ。それにお母様が張った結界は強力で張った本人しか解除できない代物なんだ。」
「成程。ではセイス殿が目を覚ますまで遺跡には入れないという事ですね。」
「・・・うん。・・・でも自然には目覚めないかもしれない。・・・それで困ってる。」
「?単に気絶しているだけではないんですか?」
「それは見てもらった方が良いだろうな。」
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「んん。」
目が覚めると昨日の天蓋とは違う木製の天井が見えた。
「ここって。」
「おはよう。」
横から覗いてきたのは
「アイリスさん?」
「うん。記憶は問題なさそうだね。倒れたと聞いたから心配していたんだ。」
「倒れた・・・。そういえばあの蛇を見たら全身が痛くなって目の前が暗くなったんですよね。」
「あれはこの国を守っている式紙でね。その目を見ると魔力が少ない者は体が動かなくなってしまうんだ。」
「成程。」
腕を動かして体の様子を確かめる。今は普通に動くみたいだ。でもあの心臓の感じは何だったんだろう。
「まあ、体が動かなくなるといっても少しだけだ。起きれるかい?」
「はい。大丈夫そうです。」
起き上がり周囲を見渡すと色々と物があり、誰かの部屋だというのが分かった。
「マスターはどこに?」
「ああ、お父様や他の姉弟達と共に私達のお母様の部屋に行っているよ。私は君の様子が気になってね。クロアもこちらに来ると言っていたが、お母様の現状の説明にはあの子が必要だからね。向こうに行ってもらったのさ。」
「そうですか。わざわざ心配してもらってありがとうございます。」
頭を下げてお礼を言う。でもアイリスさんはずっと俺の目を見てくる。
「な、なんでしょう?」
「いや?君に初めて会った時、ビビビッと来るものがあったんだが。まさか別の世界からの人間だったとは。」
「えっ。」
「姫が教えてくれたのさ。何やら今回の来訪もその事が関わっているとか。」
「マスターが伝えたんですね。それなら納得です。」
まあ古き魔物の事とかマスターのお母さんの事とか凄い関係してるから伝えずに協力してもらうのは無理だよな。
「・・・・・・。」
「・・・そんなに見られると恥ずかしいですよ。」
顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
「ふふふ、ごめんね。君が別の世界からの人間だと聞いて何か私の心情に変化があると思ったんだが、予想通り何も変わらなかった。」
「?」
言っている意味が分からない。
「さて、目が覚めたことだし行こうか。」
そういうと手を差し伸べてくれた。
「は、はい。」
手を握りベッドから出る。その手はとても大きく暖かいものだった。




