報告、次の場所へ
「さっきの事は皆には内緒だからね?」
「さっきのって、キス、の事・・・?」
川から出て再度帰路に就く。先ほどまでとは違いマスターは俺の横をしっかり歩いている。
「そう。それに本当の契約の事も。あんなに強引に契約をしたなんてメイガスなんかに言ったら驚かれるわよ。」
「ちなみに契約の方法って他にはないんですか?」
「もちろんあるわよ。お互いに魔力のやり取りが出来るほど魔力操作が上手ければああ言った方法はとらなくていいの。手を握って魔力を交換すればいいからね。ま、あなたが魔力交換のやり方を覚える必要はないけどね。」
「なんで?」
「なんでって、私以外と契約するの?」
真顔でこちらを見てくる。
「いえ、しないです。」
「でしょ?あ、あと二人きりの時は名前で呼んでいいわよ。契約したのにマスターってのもね。」
「そうかなぁ?」
「そうよ。」
「わかったよ、サ、サリヤ。」
ぎこちなく呼んだがマスター、もといサリヤは
「よろしい。」
満足そうだ。表情には出ていない。さっきまでの泣き顔が嘘みたいだ。
「それから。」
「まだ何か?」
「お母さんの事は皆には内緒だから。今回の遺跡の事、敵が組織化している事、三魔神が復活してるかもしれない事は報告するけど、お母さんが出てきたことは内緒。」
「分かった。でも何で?爆発の事なんだし伝えたほうが良いんじゃ?」
「あれがお母さんと決まったわけじゃないからよ。皆に、特にお父様に心痛をかけたくないの。それでなくとも最近は魔獣の事で大変なのに、自らの目の前で死んでしまった妻が生きていたなんて聞いたら大変よ。ひとまず私達で解決できるようになったら言いましょ。」
「そっか。でもマ、サリヤは大丈夫なのか?そんな事を内緒にしといて。俺はサリヤの心痛が心配だ。」
「私は大丈夫。むしろ魔獣の一件を解決できるかもって気力になっているから。なにより、」
サリヤがこちらを見てくる。
「あなたが知っているから。」
無表情、でも俺を信じているような目で見てくる。
「うん。分かった。」
彼女の覚悟を聞いて俺のやる気も上がった。それから城に戻り魔王やメイガスさんに報告をするために王座の間に行った。日が落ちているにも関わらず二人は玉座の間で話し合いをしていた。敵が拠点を作っていたこと、組織化していることや三体の古き魔物の報告を聞いて二人はとても驚いたようだった。
「まさかその三体の古き魔物が手を組んでいるとは。」
「メイガスはその三体について何か知っているのですか?」
「この城の図書館にもあまり文献はありません。しかしわずかな文献の中でもその三体は過激な魔物だったと伝えられています。」
「ライブラリキューブにも文献が無いとは。三体がどうやって蘇ったのか、それぞれの戦い方や対処法を考えなきゃいけないのに・・・。」
「この国に文献はありません。ただ、ロンナ国には古き魔物の事を記した石碑があると聞いています。」
「ロンナ国って鬼の?」
アイリスさんやクロア君を思い出す。
「そうです。あの国の歴史はディスブル国よりも古く、太古の情報や古き魔物の事を記した石碑が数多く遺されていると聞きます。その中にその三体の事を記したものもあることでしょう。」
「それならやることが決まりましたね。私とレイトでロンナ国に行って三体の記録を探してきます。」
「お二人で、ですか?」
メイガスさんが不安そうに俺の方を見てくる。
「ええ。メイガスは部隊を組織して他の遺跡を捜索してください。敵の拠点が出来ているかもしれません。それ以外にも拠点作りに適していそうな場所を探してください。我々は今、後手に回っています。これ以上敵に先手を取らせないようにしてください。」
「かしこまりました。直ぐに探索部隊を結成します。」
「お願いします。では私達は明朝ロンナ国に向かいます。よろしいですよね、お父様?」
無言でやり取りを聞いていた魔王は終始考え事をしているような表情だった。
「サリヤ・・・。」
「はい。」
「お前、私に何か隠していないか。」
「・・・。」
核心を突く質問が飛んできた。これまでのサリヤの説明の中にはお母さんの事は出てこなかった。本当に隠しておくつもりなのだ。それを見破られたのか?
「まさか。隠し事など何もしていません。」
サリヤも無表情のまま返した。
「・・・そうか。レイト。」
「はい!」
急に名前を呼ばれて驚いてしまった。人間の見た目とはいえこの人に名前を呼ばれるのは何度呼ばれても慣れない。
「お前はアルムン国での戦いで腹に穴が開いたと聞く。しかもそれが一月という驚異的な速度で塞がったとも。」
「は、はい。」
「人間でそんなに早く傷が治ると聞いたことがない。お前は何者なんだ。」
「何者と言われましても。」
普通の人間なんですけど。
「お前が異世界から来たことはメイガスから聞いている。しかしあちらの世界の人間は魔力を使えず、戦いに疎い。だがお前はそうではない。魔法を使って戦い、更には驚異的な再生能力を持つお前は何者だ。」
「・・・・・・。」
そう言われたら俺は今どういう立ち位置なんだろうな。自分の事なのに詳しいことは何もわかっていない。だが今の俺が何者かは考えなくてもわかる。
「このマスターの使い魔です。この世界でそれ以上でもそれ以下でもありません。」
手を彼女の方に向けて魔王に向けて言う。これが今の俺の本心だ。
「レイト。」
「・・・そうか、わかった。お前がサリヤの使い魔であり、この国に居続ける限りはお前を信じると誓おう。」
「ありがとうございます!」
何か魔王に認められた気がした。それから二人に挨拶をしてサリヤの部屋に戻った。
「やったわね。お父様に認めてもらえるなんて!」
部屋に入って扉を閉めたとたんサリヤの顔が笑顔に変わった。
「うん。良かった。」
彼女の笑顔を見ると俺まで嬉しくなる。
「お父様は不吉なことを言ってたけど、あなたが私の使い魔を止めることもこの国を出ていくこともないからずうと信じてくれるわね。」
サリヤのほうが胸を張り誇らしそうだ。
「確かに。俺がサリヤの下を離れることはないから杞憂だね。」
「うんうん。さて明日は早く出ないといけないからもう寝ましょう。」
サリヤは自分のベッドに入った。俺も自分の寝床に行こうとすると、
「そっちじゃないでしょ?」
サリヤがベッドを軽く叩きながら言ってくる。
「・・・え?」
いきなりの展開に遺跡の時より驚いてしまった。
「ずっとそばにいるんでしょう?」
「いやそう言ったけど、そういうことじゃない・・・。」
「嫌なの?」
無表情になりこちらを見つめてくる。笑顔からの落差でものすごい怖い。
「・・・嫌じゃないです。」
サリヤの隣に行き、ベッドに入る。
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
俺が緊張している中、サリヤはすぐに寝てしまった。
(本当のサリヤは甘えん坊なのかな?)
あの心情の吐露で今まで彼女を覆っていた何かが崩れたのかもしれない。それが良い事なのかは分からないが、俺にできることは決まっている。
「ずっとそばにいなくちゃ。」




