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心情

「何だったんだあの女!!」


俺を背中から降ろしてインフィさんが吼えた。俺達四人は遺跡の外に出てきた。あの女が消えた後、直ぐに遺跡の崩落が始まったからだ。後ろを見ると完全に入れなくなった遺跡がある。


「魔像を爆発させたのを見るにあの女性が爆発を司る「あやつ」だったってわけねぇ。」


「遺跡を丸ごと壊す魔法を使ったってことはあいつも古き魔物か?」


「古き魔物には見えなかったけどなぁ。むしろあれは、」


「人間、ですよね。」


少なくとも魔族ではない。もしかしたらマスターのような一族かもしれないが、そんな感じもしなかった。


「そうだねぇ。でもあの魔力はすさまじいものだったけどねぇ。もう会いたくないね。」


「俺は一発やり返さないと気が済まないけどな。」


「まあまあ、取り合えず今日のところはお別れしよう。レイト君はこの後どうするんだい?」


「どうするって。」


「いやあ、君のお姫様があの様子じゃねぇ。」


マスターの方を見ると何か放心状態のようになっていた。遺跡を脱出しようとしたときも覚束ない様子だった。


「あのマスター?」


「・・・。」


話しかけても反応が無い。


「と、取り合えず国に戻ります。」


「それがいいね。じゃあ、また会えたら良いね!」


「は、はい。」


俺の手を握って豪快に握手をしてくるランシュウさん。そして


「・・・またな。」


手を軽く振って森の奥へ歩き出したインフィさん。


「またね、インフィさん。」


「・・・・・・。」


俺のあいさつに返事はなかった。


「よし、帰りましょう。マスター。」


問題のマスターは俺が歩き始めてもついて来ようとしない。


「もぅ。」


なので手を握り歩き始める。マスターもしっかりと歩いてくれた。


「城を出る前にコンパスを貰っといてよかった。」


森の中に行くということではぐれたときの為にコンパスを貰っていたのだ。歩けば城につくと言われた方向に歩き始める。


「にしてもあの二人と再会するとはびっくりしたね。」


「・・・。」


「この世界で偶然森の中で出会うなんてどんな確立だよって。」


「・・・。」


「遺跡の中も驚きの連続。まさかアイアンメイデンがあるとは。」


「・・・。」


「マスターもあれの名前を知らなかったんでしょ?デメテルって俺の世界の人だったりするのかな?」


「・・・。」


かなり歩いた。沈黙がいたたまれなくなり話続けているがマスターの返答は無い。


(気まずいなぁ。)


「マスターはあの銀髪の女の人のこと何か知ってるの?」


「・・・。」


マスターがあの女の人を見た時の表情が忘れられず聞いてみるがやはり、返答は無い。


(どうしよっかなぁ。)


考えながら歩いていたら来るときにも渡った小川に差し掛かった。橋はないので狭いところを渡ろうとしたら


ズシャ バシャ!


「うわぁ!!」


石に躓き転んでしまった。手をつないでいたためマスターも転ぶが、何とか回転してマスターを受け止めることが出来た。


「いたた、マスター。大丈夫?」


「・・・。」


マスターが俺の顔を見つめているが、反応は無い。お互いに濡れてしまったが、それも気にしてなさそうだ。


「・・・起きようか。!いったぁ!」


「!どうしたの!」


「なんかお腹のところが、痛くて。」


「見せて!」


有無を言わさず服をまくり上げ、前に穴が開いたところがさらされる。見ると穴が空いていた部分が黒く染まっている。


「これは。」


「え?何ですか?」


「闇属性の魔力が傷を覆ってる。」


「それって大変なことなんですか?」


「いや、」


マスターが傷痕を触る。


「闇属性の魔力が何かを壊している?痛みはまだある?」


「もう痛くない!」


「つまり闇属性、私の魔力があなたの傷に巣くっていた何かを壊したのよ。」


「おお、じゃあマスターに助けてもらったんですね。」


笑顔で返すとマスターは笑顔にはならずに


「うっ、あっ、あぁ。」


涙を流し始めてしまう。


「え!?どうしたんですか!?」


今まで凛とした姿しか見てこなかったから初めての泣き顔にテンパってしまう。


「ごめんなさい・・・。私を信じてなんて言ったのに、これまであなたにこの世界のことを信じてもらえないようなことばかり起きてる。」


「信じてもらえないって、俺はマスターの事信じてますよ!」


「違う、違うの。さっきいた銀髪の人、あなたが前に言っていたユカリさんをそそのかした人なんでしょう?」


「う、うん。」



「あれ、お母さんなの。」



「えっ?」


マスターの言っていることが理解できない。


「お母さんって、死んじゃったっていう?」


「・・・そう。」


「で、でも人違いかも・・・」


「間違いない。あの姿、声、そして魔法。全てがお母さんの物。」


「・・・何で、そのお母さんが?」


「それは分からない。あの時爆発して死んだのは間違いないのに。貴方の夢に出てきたことが、あの遺跡にいたことが、まるで貴方をこの世界に連れてきたような言い方が、何もかも分からない・・・。」


涙ながらに自身の心情を語っていく。


「アルムンでの戦いから貴方にずっと謝りたかった。この世界で唯一の同じ世界の人を貴方の手で殺させてしまって。戦いをしたくない貴方に戦い方を教えたのは私・・・。私が殺させたようなもの。」


「・・・・・・。」


「しかも・・・貴方の体はどんどんこの世界に染まってしまっている・・・。異常なほどの魔法を覚える速さと、体の修復速度。元の世界では会得できなくても良かったことが、どんどん貴方の体に刻み込まれている。この世界で起きたことが、私が教えたことが、貴方が元の世界に帰れなくなる足枷になっているかもしれない。でも、私は、それで良いと、帰ってほしくないと心のどこかで思ってる・・・。」


「・・・・・・。」


「私があなたを召喚したせいで、貴方は望まない戦いをしているのに、私は自分の事しか考えていない。そのうえ、本当はあなたがこの世界に来たのはお母さんのせいかもしれないなんて・・・。私が、あの時召喚をしたせいで。・・・悪いのは全て私なのに、あなたに負担をかけてばかり。・・・ごめんなさ」


「それは違う!!」


マスターが謝ろうとするのを遮る。俺の服を掴む力は強くなり、涙が溢れ出ている。


「確かにマスターに戦い方を教えてもらった!マスターにこの世界のことを教えてもらった!でもそれはこの世界で生き抜くために絶対必要なことだった!」


「」


「マスターは俺がこの世界に来たことを悪い事のように言ったけどそれも違う!俺はこの世界に来て、マスターに会って、魔法を覚えて良かった!マスターから与えてもらったことは良い事ばかりだ!」


「うぅ。」


「この世界に来て大変なこともあった!でもそれはマスターのせいじゃない!古き魔物とあの女のせいだ!マスターのお母さんがどうやって生き返ったのかは分からない!でもそれもマスターのせいじゃない!この世界での良い事はマスターのおかげ!悪い事は別の何かのせい!それで良いでしょ!」


我ながら無茶苦茶な理論だと思う。でもこれが本心だ。


「俺はマスターに泣いてほしくなんかない!!」


この人に泣かれたくない。それが今のこの世界で考える俺のすべてだ。


「ははっ。」


涙を流しながら、笑顔に変わってくれたマスター。


「何それ、むちゃくちゃ。」


「元々俺の存在がこの世界ではむちゃくちゃでしょ。」


笑顔を見せてくれたマスターを見て、俺も少し冷静になった。


「マスター。」


彼女の手を取り目を見る。


「なに?」


「俺はマスターの事を信じてる。だからマスターも俺の事を信じて?俺はずっとマスターのそばにいる。」


「・・・うん。」


涙をぬぐい、また笑顔を見せてくれた。俺は思い違いをしていた。俺はマスターが凄く大人で、何事にも動じない精神を持っているのだと思っていた。でも、一国の姫としての責務と母親を亡くした喪失感で辛うじて保っていただけだったんだろう。それがさっきの母親の出現で決壊してしまったんだ。


(俺が支えられるようにならないと。)


この世界でやるべきことが一つ増えた。


「あの、一つお願いがあるんだけど。」


しおらしくなったマスターに少しドキッとしてしまう。


「な、なに?」


「あなたは私に言わずに私の前から消えない?元の世界に帰らない?」


「は、はい。」


「じゃあ、ちゃんとした使い魔の契約をしてもいい?」


「ちゃんとした?ああ、俺達って今は部分契約?でしたっけ?」


「そう。あの時は部分契約でも大変だったけど、貴方がこの世界に馴染んできてちゃんとした契約を今ならできると思う。」


「使い魔の契約って魔法陣とかいるんじゃ?」


前の契約の時はそれ専用の部屋に行ったような?


「あれは部分契約という特別な事をする為に描いたの。本来の契約はもっと簡単にできるのよ。」


段々とマスターの口調が元に戻ってきている。


「なるほど。じゃあ本来の使い魔の契約はここでも出来るんだ。それなら俺もちゃんとした契約をして、この世界に居たいです。」


笑顔で本心を言う。マスターを支える事。由佳莉さんの敵を討つ事。この世界でやらなきゃいけない事が明確になった。元の世界に帰る事なんて考えてる暇はない。


「出来るよ。お互いの魔力を交換するだけ。」


「交換?どうやって?」


「色々あるけど、貴方が出来るのは」


マスターの顔が近づいてきて、唇が重なった。


「・・・」


途轍もなく長い時間が経った気がした。


「んっ。これかな。」


「えっ、今、キス。」


「うん。いいじゃない。あなたが出来る魔力の交換なんてこれくらいよ。それに。」


顔を赤らめてもじもじとするマスター。


「これからずっと一緒にいるからいいでしょ?」


「う、ええ。」


冷静になった頭がまたパニックになった。体は川の水で冷たいのに顔は熱い。

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