夢から覚める
「・・・。」
目が覚めたらどこかの部屋に寝かされていた。体中、特に由佳莉さんに刺された腹が痛かったが、寝てられなくて飛び出てしまった。廊下に誰かがいる気配があったから窓から飛び出してしまった。
「ここは・・・。」
誰とも会いたくなくて人影を避けて動いていたら
「中庭?」
由佳莉さんと話をした中庭に着いていたようだ。
「確か王族以外は来ないって言ってたな。」
腹がまた痛み始めたので池の縁に座る。
「由佳莉さん。」
あの時の感触が手に残っている。目をつぶると、あの時の由佳莉さんの顔が出てくる。今までの思い出、あの戦いの顔、会話、感触が浮かんでくる。俺の手には竹刀がある。彼女が爆発してもこの竹刀は残った。
「殺し、たんだよなぁ。」
この竹刀が俺の手にあることが、更にそのことを思い出させた。今までの魔獣を殺したのとは違う。同じ世界の人間を殺したんだ。でも
「手は震えない。涙も出ない。」
自分の変化が分かる。
「・・・俺はこの世界に染まっちゃったのか・・・。」
魔獣を殺し続けてる内に、敵を殺すことに何も感じなくなったのか。
「・・・・・・。」
ふと前を見ると由佳莉さんが植えたと言っていた一輪の花が目に入った。
「・・・。」
その花には不思議と目を引かれた。
「・・・エンシェントラフレシア?」
前は気にならなかったがよく見ると穴の底で見た花の小型版のような見た目だ。
「なんで由佳莉さんが植えた花が?」
縁から腰を浮かし、その花に手を伸ばす。花に触れた瞬間。
「」
いつかの夢で見た真っ白な空間が現れた。
「なんだ、ここ?」
『何であんたが来たの?』
後ろから声を掛けられ振り返るとあの夢で由佳莉さんと話をしていた銀髪の女がいた。
「あなたは、由佳莉さんと話してた。」
『ええ?見られてたの?そんなわけない。私が呼んだのはあの子だけだし・・・。まあ、あの花に触って私に干渉できるくらいだしありえるか。』
「呼んだ?由佳莉さんをここに呼んだのはあんたなのか?」
『その説明いる?ほんと向こうの世界の人間は知能が足りないというか、幼稚というか。』
「・・・幼稚?」
その言葉には俺への、俺達への侮辱が込められている。
『そ、幼稚。あの子だってもうちょっと暴れさせてこの国を壊そうとしたのに、直ぐにあんたのところに行っちゃって王族をだれも殺してないし。あんただってそう。この世界の住人ならこういう状況になったら問答無用で襲いかかるもんよ?』
「そうか。お前が由佳莉さんをそそのかしたのか。」
『だから言わなくてもわかるでしょ』
ドゴォオ!!!
敵の言葉が終わる前に竹刀を叩きつけた。確実に体に当たったはずなのに体をすり抜け、地面を砕いてしまった。
「・・・」
いつの間にか白い空間は無くなり、噴水の縁を壊していた。
「・・・」
振り向いて花を見つめると声が聞こえてくる。
『ふふふ、あなたはこの世界の住人になれたみたいね。』
もう一度花に触ろうと進むと花が崩れ始める。
『またね。』
声が聞こえなくなり、花が消えた。
「レイト。」
マスターの声がする。
「マスター。俺は決めました。」
彼女の目を見据えて宣言する。
「俺は必ず、由佳莉さんの仇を討ちます。」
色鮮やかで甘美な夢を見るのはもう終わり。これからは現世で敵をぶっ殺す。




