戦況報告
「ゼール王。今回の被害はどれくらいになりますか?」
前より部屋の中や壁が大きく破壊された玉座。そこにサリヤやゼール王、それぞれの陣営の一部が集まっていた。ディスブル国側はサリヤが話をしている。
「この国が出来てから最悪の事態と言えますな。蛇人族の襲撃によって防壁が破壊され街の四分の一が壊滅、死傷者は千を超えそうですな。」
「やはり凄まじい被害となってしまいましたか。防壁を守護していたディスブル国軍を代表して謝罪いたします。」
しっかりと頭を下げるサリヤ。それに慌てたようにゼール王が反応する。
「謝らないでくださいな。むしろあなた方がいなかったらさらに蛇人族が侵入してきて混沌とかしていました。」
「ありがとうございます。今までのような魔獣でしたら数の不利はあるものの、ここまでの苦戦は強いられなかったでしょう。予想外だったのは、やつらは知的な会話は出来ていなかったものの連携をとって戦ってきたこと。おそらく何者かに操られていたのかと。」
「・・・やはり襲撃が起きた際にここが爆発され指揮系統が混乱したのが一番の要因でしょうな。」
ゼール王の顔が今までにないほど曇る。
「・・・・・・シルビアさんの事、心中お察しします。」
「・・・今はトーラスに診てもらっています。おそらく・・・もう魔法を使えるようにはならないと。」
「・・・・・・。」
「襲撃と爆発で体はボロボロになり、魔具である杖は無くなってしまった。」
「・・・・・・。」
「・・・ユカリ殿が、我々を裏切ったのです。」
「やつは裏切ったのではありません!」
王の言葉に側近が反応した。
「元々の本性が現れたのです!ゼール王も見たでしょう!ここを爆発させたときのあの悪鬼のような笑みを!更にやつは蛇人族を手引きした事を言っていました!やつはずっと計画をしていたのです!」
「・・・ああ、そうだな。あれだけ仲良くしていたシルビアの事を殺そうとしたのだ。あの時何かに反応して出ていかなければシルビアを殺していただろう。」
「そうです!」
「・・・サリヤ殿。」
「はい。」
「・・・ユカリ殿を殺したのは・・・レイト殿だと聞きましたが。」
彼の名が出た時、周囲の龍人族が反応したのをサリヤは見逃さなかった。
「ええ。我々が到着した時には彼の槍が心臓を貫いていました。全身の傷に傷、特に腹に空いた傷が酷く、ミールの見立てでは目覚めるのに何日もかかるかもしれないと。」
「・・・そうですか。・・・サリヤ様。・・・こんなことは言いたくないのですがレイト殿は、大丈夫なのですか?」
「・・・彼が裏切るかもしれないと?」
「裏切りではない!本性が現れるのです!」
先程の龍人族が声を荒げる。
「人間は表では良い顔をして裏では何を考えているかわからない!今回の蛇人族の襲撃は全てあの使い魔が手引きしたものだ!貴方の使い魔も裏では何を考えているかわかったものではありません!」
「そうだ!人間は恐ろしい種族だ!」
「止めなさい!」
ゼール王の制止も虚しく、周りの龍人族達も次々と声を上げる。
「レイト様はそのようなことは、」
「メイガス。」
反論しようとするメイガスを制するサリヤ。
「皆の者、静かに。」
盛り上がった周囲を何とか止めるゼール王。
「サリヤ殿。本心はどうあれ人間の策略により国を壊されてしまった。今のこの国では人間を信じる事は難しい。特に軍に入っているものの間では人間が黒幕という噂が最初期から広まっていた。こうして事が起きてしまった以上何の証拠もなく、それを覆すことは難しい。」
「・・・心得ております。」
「レイト殿のこの国への入国を禁じます。彼の意識が戻り次第、お引き取りください。」
「・・・わかりました。」
サリヤが頭を下げてそれを承諾した時、
「サリヤ様!」
ウォルトが慌てて王座に入ってきた。
「ウォルト!会談中に押しかけてくるとは何事だ!」
「申し訳ございません。ですが緊急でして!」
メイガスの怒りをいなしウォルトは続ける。
「どうしたんですか?」
「はい!レイト様が部屋から消えました!」
「なにぃ!!」
一番大きな声を出したのはゼール王だったが、サリヤもとても驚いてる。
「ミールの見当てではまだ起きない筈では?」
「そう思っていたのですが包帯を変えようと私とミールで入った時には姿が無く、窓が開いていました!」
「では窓から?でもどこに?」
「今、城の防御はいつにも増して厳重です。城から出ることは不可能かと。まさかシルビアのところに!?」
「まさか!とにかく探しましょう!」
それぞれの配下が行き先を考察したのち急いで王座を出ていく。
「私も探しに向かいますが、サリヤ殿も行きますかな?」
「サリヤ様?」
残ったメイガスとゼール王から不思議そうに見られるサリヤ。
「・・・・・・。」




