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夢から覚めようとする悪夢

「由佳莉、さん?」


下を向いたまま動かない。よく見ると剣道着が所々汚れている。右手に持った竹刀には赤い汚れもあるし、何やら細長いものも握っている?さっきの爆発に巻き込まれたのだろうか?もしかしたら城に敵が?それにうまく言えないが、何か、雰囲気が違うような・・・。


「由佳莉さん?大丈夫ですか?」


近づこうとしたが、手をつないでいた龍人族の子供が引っ張って止めてきた。


「?どうしたの?」


「・・・違う。」


「違う?由佳莉さんだよ?」


「違うの!前のお姉さんじゃない!」


完全に震えて、恐怖の表情が浮かび上がっている。


「違うって・・・。」


由佳莉さんに向きなおしても彼女は下を見たままだった。だが、ゆっくりと上げた顔に浮かんでいた表情は。


笑顔だった。


前と変わらなく見える笑顔。しかし、少し怖く感じるのはその服などのせいだろうか。


「玲斗さん、夢から覚めましょう!」


「え?」


「この世界は一緒に観ている夢なんです!こんな夢から覚めて元の世界へ戻りましょう!こんな所にいつまでもいちゃいけません!」


「戻る?」


「はい!さぁ!」


手を差し伸べてくる由佳莉さんに思わず子供を後ろに隠し、後ずさりしてしまう。


「?どうしたんですか?元の世界に戻りたくないんですか?」


「戻りたいですよ。・・・ただ今はこの国が大変なことになっています。それをほおって帰ることは出来ません。」


「何でですか?」


笑顔のまま疑問符を浮かべる由佳莉さん。


「何でって、あんなにお世話になったじゃないですか!俺たちを助けてくれて、生きる術を教えてくれたじゃないですか!」


「関係ありません。」


俺の話をきっぱりと止められた。


「この世界は夢なんです。夢の中の化け物達がどうなろうと私達の知ったことじゃないでしょう?」


「夢?ばけもの?」


「はい!」


変わらない笑顔。


「私達を助けたって言いましたけどそれが違うんです!元々あいつらが私達を無理矢理よんだんです!だからあいつらに気を使う必要なんてないんですよ!」


「何を、言って・・・。」


そんな事を言う人じゃない。前にテレビでインタビューを見た時も、この世界で話した時も。少なくとも、


「この世界の人が無理矢理よんだなんて、マスターやシルビアさんがそんな事をする人じゃない事を知っているでしょう!?」


「それが間違いなんですよ!」


声を更に荒げる。彼女の竹刀を握る手に力が入っているのが分かる。


「私達はあいつらの供物なんです!それを私達に悟らせないように全員演技をしていただけなんです!どうしてわからないんですか!」


口調は強く、怒りを込めて言ってくる。


「わからないですよ・・・。・・・何でそんな事を思ってるんですか?」


「ある方に教えてもらったんです!あの人はこの世界の事を全て教えてくれました。そして私とあなた、二人で元の世界に戻る方法を教えてくれたんです!」


そう言ってゆっくりと歩いてくる。


「さあ!レイトさん!」


「あっ、あの杖。」


「杖?」


「・・・。」


後ろの子供が何かに気付いた。指を差した先は由佳莉さんの腰。前に竹刀を挿していた場所に黒い杖が挿さっている。


「シルビア様の杖・・・。」


「・・・・・・。」


よく見たら確かにシルビアさんが持っていた杖によく似ている。


「由佳莉さん、」


「なるほど、そいつですか。」


俺に差し出されていた手は後ろの子供を指差した。そして


「そいつがあなたを惑わせているんですね?」


笑顔が消え、声色が変わる。


「なら、そいつも始末しましょう。」


瞬きをした時、彼女の体は消えていた。


ガキィン!


俺の左側に回り込み、子供に竹刀を突き立てようとしていたと認識できたのはそれを止めた後だった。反射的に氷の槍で竹刀を止められたのだ。


「!」


俺以上に由佳莉さんは驚いている。確実に、


「子供を、殺そうとしたんですか・・・。」


殺せると思っていたんだろう。


「そうですか。そこまで洗脳されているんですね。」


俺達から距離をとる由佳莉さん。子供から手を離し前に出る。


「仕方ないですね。」


竹刀を俺に向けてくる由佳莉さんの目は


「そいつを殺してあなたの目を覚まさせてあげます!」


彼女が魔獣に向けていた目に変わっていた。

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