戦いの後
「・・・。」
目が覚めたら同じ景色が見えた。
「大丈夫?」
横から声が聞こえた。
「・・・マスター。」
今度は声が出せるし、顔も横に向けられる。
「とりあえず大丈夫そうね。本当に蛇人王の胃液を浴びたの?」
俺の髪を少し上げながら言ってくる。
「胃液?」
「覚えてないの?あなたは蛇人王に押さえつけられて胃液を吐かれた。その時は駄目かと思ったけど、胃液が止まって王が倒れて怪我がほとんどないあなたが現れた。多少の爛れはあったけどまさか息があって、胃液の影響もほとんどないとは思わなかった。」
「・・・あの蛇人族の王は?」
「死んだ。今までの魔獣と同様に爆発してね。今までと違ったのは上空に向かって吹き飛んだところ。一応その後は蛇人族達の襲撃は無くなった。ただ戦いの最中に逃げた蛇人族がかなりいるから捜索中。」
「そう、ですか。」
全身が痛いが起き上がることが出来た。
「いたた。」
「無理しないように。動かせないようなところはある?骨折とかはしてないらしいけど。」
「痛いところだらけですけど取り敢えず大丈夫そうです。・・・この皮膚って元に戻るんですかね?」
体中を触って痛みを確認しているときに見つけた顔の爛れ?のような感触。体を少し動かした感じ、体中の所々にありそうだ。
「国に戻ればミールが作った塗り薬があるから戻るはず。むしろあの胃液の中でその程度だったのが大変なのよ。」
「大変?」
「あなたに死んでほしかったってわけじゃないけど、あなたの生還を見た一部の龍人族が、あなたが黒幕じゃないかって訝しんでいるの。」
「え?」
「つまり普通なら絶対死んでいる攻撃で生き残ったから疑われているの。あなたがうまく蛇人族を先導して自分達の国に攻め込ませているのではないか、ってね。蛇人王都の戦いは疑われ始めたから演技をしたのだと。」
「えー、何それ。」
「ほんとに何それよ。反論箇所は色々あるけれど今は事態の収束が先。人間への不信感は全てを終わらせたら進めるから。」
「人間への、そうだ由佳莉さんは!」
ついマスターに詰め寄って聞いてしまう。
「・・・今はシルビアさんと龍人族の会議に出てる。人間に不信感を持っているのもいるからここに置いていったらって言ったんだけど、シルビアさんがユカリさんから離れたがらなかったのよ。『ユカリさんやレイトさんへの不信感を払拭します!』って言ってて。シルビアさんの龍人族からの信頼は凄まじいから払拭できる気もするけど、少し嫌な予感がするのよねぇ。」
「嫌な予感?」
「ユカリさんが妙に無口だったの。少し離れていた間にこの部屋に来ていたからてっきりあなたと離れたくないって言うかと思っていたんだけど、一言もあなたに触れなかったし。」
「・・・由佳莉さん。」
あの由佳莉さんの表情を思い出す。あれは夢じゃ無かったんだ。
「・・・多少は動けるようだけど安静にしといてね。私は残りの蛇人族の捜索に行ってくるから。」
「それなら俺も。いっ!」
ベッドから降りようとすると急な痛みが走った。
「だから安静にって言ったでしょ。今のあなたは戦える状態じゃない。メイガスやミールに合流して、捜索をなるべく早く終わらせて帰ってくるから。」
「わかり、ました。」
「うん。」
立ち上がろうとしたマスターに疑問を投げかける。
「マスター、エキドナが見せる夢ってみんな同じ夢を見てたんですかね?」
「夢の内容までは記録がないけど、何で?」
「変な夢を二回見たんです。一度目は夜営中に、二回目はあの蛇人族の王に飲まれた時に。同じような白い空間での夢だったんですけど、由佳莉さんやあの王が出てきたんです。」
「・・・・・・出てきた?」
「はい。俺に話しかけてきたりして。それぞれあの花の影響を受けた場所に近づいた日の夜だったり、あの王に飲み込まれた時だったんで何か理由があるのかなって思って。」
「・・・エキドナの夢の影響はメイガスに確認してみる。」
「お願いします。そういえば一回目の夢には由佳莉さんの他に知らない女の人がいました。由佳莉さんと話していたような。」
「・・・わかった。もう行くから安静にしておいて。」
マスターが出ていくとき不安そうにこちらを見てきたが笑顔を作って返す。言いえない不安が胸に残る。そのまま時間が過ぎていった。
「由佳莉さん、大丈夫かな?あっ!」
腰かけたまま何をするか考えていたら、何気なくネックレスの先に手が触れて、違和感を感じた。見ると道の漢字の縦にひびが入っている。
「いつの間に・・・。あの蛇人族の攻撃でひびが入っちゃったのか?買った店なら直せるかな?」
あの時の店を思い出す。少し遠いが今の体の状態でも歩いていけるはず。
「・・・行くか。」
由佳莉さんとの思い出のネックレスだし、今の彼女の精神状態を考えるとこういうひびもないほうが良いだろう。そう考えて部屋を出た。




