騒乱の朝
「うーん。」
また何日かが過ぎた。シルビアさんと話をした次の日。俺は寝過ごしてしまいシルビアさんや由佳莉さんとのお別れが出来なくて少しモヤモヤしている。そして不安を引き起こしているのはそれだけではなく。
「なんか龍人族の人達からの目線が痛いような。」
一部の龍人族の人からの視線が変わったのだ。その視線は日に日に少しずつ増えているような気がする。最近は戦う事が少ないので余計にわかりやすいのかもしれない。
「レイト様。」
「ウォルトさん。どうしたんですか?」
「サリヤ様がお呼びです。一緒に来てください。」
「?わかりました。」
(マスターが他の人を使って呼ぶって珍しいな。いつもは自分で来るのに。)
そんな疑問を持ちながらウォルトさんの後をついていく。少し歩いて本陣の大きなテントについた。
「ウォルトです。レイト様をお連れしました。入ります。」
中に入るとマスターやメイガスさん、トーラスさんにミールさんもいた。マスター以外は昨日まではいなかったはずだ。
「おひさしぶりですー、レイトさーん。レイトさんがー、珍しいものを見たと聞いてー、やってきましたー。」
「珍しいもの?」
相変わらずのゆったりとした話し方のトーラスさん。
「はい!レイト様が見た花の事でゲス!今までの目撃情報にはない新しい発見でゲス!」
相変わらず独特な語尾のミールさん。
「我々はその花に今回の蛇人族の暴走の根幹があると思いやって来ました。」
そして落ち着いたメイガスさん。彼がいると身が引き締まる。
「やっぱりあれって特別なものなんですかね?」
「はいー。最近この辺りの戦場ではー、蛇人族が消滅ではなく爆発する事が多かったんですけどー、その血を解析出来たんですー。」
「解析した結果なんと!血の中に花の種がある事がわかったんでゲス!」
「花の、種?」
「はいー。発見した時はなんでーって思ったんですけどー、レイトさんがー、大きな花を見つけたと聞いてー、飛んできましたー。」
「レイト様が見つけた花はどんな形だったか教えてくださいますか?」
メイガスさんになるべく詳細に花の特徴を教えた。
「・・・やはりエンシェントラフレシア。」
「予想通りでしたねー。」
「でもまさかの結果でゲスね!」
「エンシェント、ラフレシア?」
「今は絶滅した古代の花です。この花自体は自身の魔力を花粉に変えて生息域を広げるということ以外は普通の花なのですが、ある魔物のせいで恐れられていたのです。」
「魔物?」
「古き魔物、エキドナ。」
メイガスさんがその名前を出した時皆の空気が重くなった。
「古き魔物ってことはフェンリルとかオピオーンみたいな魔物ってことですか?」
「時代としては同じ時期です。しかしその二体は伝説としての存在ですがエキドナは明確に恐れられるエピソードが伝えられています。・・・彼女はエンシェントラフレシアの特性を利用し敵に自身の魔力を吸わせて、夢を見せ、操っていたのです。」
「え!それって。」
「はい。所々今の状況に通じる部分がありますよね。夢を見せるところはこちらの話が通じないところに。操る所は組織的に攻撃してくるところや無理矢理穴を掘らせるところに。」
「狂暴化や爆発など説明できない部分もありますが、魔獣の件にエキドナがかかわっているのは間違いなさそうですね。」
マスターが難しい顔をしながら関連性を結論付ける。
「これは進展でゲスね。今まで魔獣化の原因の一部すらわからなかったんでゲスから!レイト様お手柄でゲスよ!」
それとは対照的に凄い笑顔で褒めてくれるミールさん。
「お手柄なんてそんな。」
「謙遜なさらずー。レイト様が花を見つけてくれたからー、私達の考察にー、結論付けが出来たんですよー。」
「・・・はい。」
アイリスさんに謙遜しすぎは駄目と教わったことを思い出し早めに切り上げる。
「今後はエキドナとの関係性を示せるもの、特にエンシェントラフレシアの捜索も行ったほうが良いですね。」
「私からゼール王に進言しておきます。ディスブルの皆にはメイガスから言っておいてください。」
「かしこまりました。・・・ゼール王と言えば伝えておきたいことがあるのですが。」
言いにくそうに話すメイガスさん。ちらりとトーラスさんを見たということは龍人族の事?
「大丈夫ですよー。わかってますからー。レイト様と龍人族の事でしょー?」
「・・・その通りです。」
「俺?」
急に振られて驚いてしまった。
「私はー、あんなこと思ってませんからー。気にしないでくださいー。」
「かしこまりました。レイト様。この数日龍人族の方々の視線がきつくありませんでしたか?」
「え、ええ、まあ。」
「今日もウォルトに確認させましたがディスブル国の隊長がいるときでも怪訝な眼が向けられていたと。」
「ウォルトさんが呼びに来たのはその確認だったんですね。」
「はい。このキャンプに来る前にシルビア様のキャンプに寄ったのですが、そこでもユカリ様に対する視線がきつくなっていました。龍人族から人間であるお二方に何かしらの疑惑がかけられているものと思われます。」
「疑惑?彼が何をしたというの?」
マスターは少し怒ったように反応した。
「私は他の龍人族からー、言われましたー。『人間が魔獣と結託しているんじゃないか』とー。」
「結託?」
「はいー。人間は強いからー、魔獣を使役しているー、っていう方もいましたねー。」
「基本的に強い人間しか魔界には来られないでゲスからね。レイト様の弱さを知らない龍人族の方からすると、記憶喪失と偽った黒幕!みたいな妄想が進んでいるのかもしれないでゲスね。」
「しかし、魔力が無ければ魔法を打てないと言われるようにそう言われるようになった原因があるはず。」
「そうですね。レイト、何か思い当たる事はありますか?」
「・・・あー。」
あの穴の中での事を見られたのかなと思った時、テントの入口が勢いよく開いた。
「サリヤ様!大変です!」
「何事ですか?」
「大小様々な蛇人族が襲撃を仕掛けてきました!」
「何?!索敵では周囲に敵はいなかったはず!」
「それを論じている時間はないようですよ、メイガス。」
メキメキメキ!!!
テントが外から押し潰されている!
「外へ!」
メイガスさんの一言で皆で外に飛び出した!テントを潰そうとしていたのは
「蔦?」
トゲを持つ蔦、茨だった。それは穴の中で見た蔦にそっくりだ。
グシャ!!
その茨は意思を持っているかのようにテントを押しつぶした!
「うぁあ!!」
「レイト!前を見なさい!」
マスターの大声でテントを押しつぶした茨の先を見る。そこには
「ぎゃぼぼぼぼぼぉぉぉぉぉ!!」
巨大な上半身だけの蛇人族がいた。




