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夜の逢引

「・・・。」


その日の夜は森の中での夜営となった。今まで夜営の時はずっと由佳莉さんと話をしていたのだが今日は話をする雰囲気になかった。マスターにも何を話そうかわからなかったからテントから少し遠い小川の横に座った。祈りを済ませ、何を話すべきか考えていた。


「・・・どうしよっかなぁ。」


カサッ。


「誰?」


後ろから草を踏む音がして思わず振り返ってしまう。


「あっ、こんばんわ。」


そこにいたのは敵ではなくシルビアさんだった。


「シルビアさん?何でこんなところに?」


「ちょっと散歩をしていたらレイトさんがいらっしゃったので。明日からは別の場所に向けて別れてしまうので話が出来たらなと思いまして。」


笑顔なのが月明りで更に可愛く見える。


「そうだったんですか。座りませんか?」


そういって横を開ける。


「失礼します。」


座る所作にも気品があふれ出ている。これが王族というものなのだろう。


「・・・。」


「・・・。」


少しの間二人とも小川の流れを見る時間が流れた。


「「あの」」


申し合わせたかのように同時に呼び合ってしまった。


「ふふ、レイトさんからどうぞ。」


「ふっ、ありがとうございます。由佳莉さんは大丈夫そうでしたか?穴の中で助けてもらってから調子が悪そうだったので。」


穴の中での由佳莉さんの本音?をシルビアさんには何か伝えているのかと思い聞いてみる。


「いえ、先ほどまで一緒にテントにいたのですが少し混乱してしまっているようで。一人になりたいと言われましたので出てきてしまいました。」


「そう、ですか。」


「レイトさんは先ほど魔法を唱えようとしていたんですか?こう、掌を合わせていましたが。」


「あっ、いやあれは俺や由佳莉さんの故郷での祈りなんです。魔獣を殺した時は必ずするようにしてるんです。」


「祈り。そうなんですね。我々は戦いが日常過ぎて、殺した相手に祈るということがないのでそういった考え方は新鮮です。」


「はは、皆さんからしたら変ですよね。」


「そんなことはありません。考え方はそれぞれですから。」


「ありがとうございます。」


また沈黙があった。


「レイトさん。あの穴の中で報告以外の事が何かあったんですか?」


ぐいっと身を乗り出して聞いてくるシルビアさん。


「何か、とは?」


「ユカリさんがあんなに不安そうにしているなんて初めて見たので、お二人に特別な何かがあったのかなと思いまして。」


「・・・いえ。報告通りの事だけです。俺にはわかりませんがあの花のせいで何かあったのかもしれません。」


シルビアさんが由佳莉さんの事を心配しているのはわかる。だがあの言動を伝えてしまうと溝が出来てしまうかもしれない。


「そうですか。はぁ。何かユカリさんの為にしてあげられる事があればいいのですが。」


「シルビアさんは優しいんですね。」


「ふふ、ありがとうございます。でも私はレイトさんに嫉妬しちゃってます。」


「何でですか?」


「だってレイトさんが来てからユカリさんの雰囲気が明らかに明るくなったんですもん。この蛇人族との戦いが始まって国全体がピリピリしていて、ユカリさんもそんな感じだったのですが、レイトさんが来て一緒にいるようになって雰囲気がすごく変わったんです。」


「でもそれは、」


一緒にこの世界に来たから、と言おうとしたら口に人差し指を当てられた。


「それは内緒のことですよ。今はどこで誰が聞いているかわかりませんから。」


優しい笑顔で止めてくれたシルビアさん。


「・・・はい。」


こちらも笑顔で返す。


「ユカリさんの事は心配ですけど、レイトさんの事も心配してます。」


「俺の事?」


「そうです。だってレイトさんもこんな大規模な戦いは初めてでしょう?それでもずっとユカリさんの事を心配している。それではレイトさんがまいってしまいますよ。」


先生のように指を立てながら諭してくるシルビアさん。


「・・・俺は大丈夫です。むしろ元の場所にいたときよりも心が強くなってるんです。元の場所流に言うと鋼のメンタルになってます。今やらなきゃいけないことが明確になっているからでしょうね。マスターの右腕の代わりになるほど強くなること。そして由佳莉さんを元の場所に戻してあげること。この二つが出来るまでは頑張りますよ。」


「・・・では一緒に頑張りましょう。」


シルビアさんの手が俺の手に重ねられる。


「サリヤさんの事は私には手伝えません。でもユカリさんが元の場所に戻れるようにすることは私も賛成です。なので私も手伝います。」


「ありがとうございます!あっ、でも由佳莉さんが戻ったらシルビアさんの使い魔がいなくなっちゃいますね。」


「あら、そうですね。どうしましょう。」


「じゃあその時は俺が使い魔を兼任します!」


「・・・・・・。」


少しぽかんとした顔をして


「ふふ、ではお願いします。」


小さな笑顔で答えてくれたシルビアさん。その笑顔は悩んでいた俺の心を安らかにしてくれた。

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