最中での再会
「由佳莉さん!!」
「お久しぶりです!」
「どうしてここに?」
「それは・・・!!話は後で!」
由佳莉さんはリザードマンを吹き飛ばした方に走って行く!いや、飛んで行ったと言ったほうが良いほど速い移動だった。由佳莉さんは敵が迎撃体制を整えるより早く竹刀を振り下ろす!
ドゴォォン!!
その一撃は見た目からは想像できないほど強く、一体の敵に使うには強すぎる一撃だった。
「・・・。」
由佳莉さんの成長?に唖然とする。前に会った時はこの世界に来て間もないとは言え身体強化魔法を使い華麗に敵を倒していた。しかし今は力任せに攻撃をしている印象を受ける。
(この世界に慣れたからってもこんなに変わるか?)
「・・・玲斗さん!!」
叫んだ由佳莉さんが俺に突進してくる。
「え?」
その鬼気迫る顔にビビって目を瞑ってしまう。
ガガガ!!
顔の近くで何かを貫く音がして恐る恐る目を開けると、
「うぉあ!!」
由佳莉さんの竹刀が俺の顔を掠めて後ろに迫っていたリザードマンの頭を貫いていた。
「もう大丈夫ですよ!!私が来ましたから!!」
竹刀を抜いて俺に目を合わせてくる。両手で俺の手を包み込み心配してくれている。
「は、はい。ありがとうございます。それにしてもなんでここに由佳莉さんがいるんですか?」
「魔獣を倒す為に来たんです!それに私だけではありませんよ。ほら。」
由佳莉さんが指を刺したほうを見てみると、
「ディスブル国の隊列を護衛しろ!!」
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
龍人族の人たちが参戦してきていた。人型だけではない。巨大な体躯で四足歩行、背中に大きな翼が生えている蜥蜴、そうドラゴンと共に。
「ド、ドラゴン!?」
「あっ、玲斗さんは見るの初めてでしたっけ?あれは龍人族の変身魔法ですよ。あのドラゴン達も龍人族なんです。」
「な、なるほど。ドラゴンとか初めて見たもんで。」
この世界で異形の魔族は様々見てきたがドラゴンは初めてだったのだ。
「レイト。」
「レイトさん!」
「あ、マスター。それにシルビアさん。お久しぶりです。」
「はい!お久しぶりです!お二人ともけがはないですか?」
「由佳莉さんが守ってくれたので大丈夫です。それにしてもこの襲撃は?」
「詳細は後で話します。ひとまず蛇人族の襲撃を抜けてうちの城まで駆け抜けましょう!」
「その通りですね。行きましょう。レイト、遅れないようにしなさい。」
「はい!」
その後は大変だった。ドラゴンに変身した龍人族が荷物を引っ張り、両国の兵士が護衛する
形で走ったが、リザードマン達の追撃の手は弱まらず城の直前まで続いた。なんとか城壁の中に逃げ込むことができたが、皆少し疲れている。
「ふぅ。なんとか逃げ切れましたね。」
「そうですね。ウォルト、被害はどうですか?」
「はっ!救援物資は全て無事です!また隊員達も軽傷はいますが基本無事です!」
「わかりました。けがをした者には治療を、物資は仕分けできるようにしておいてください。」
「はっ!」
「私達はゼール王に挨拶に行きましょう。」
そう言って四人で城のほうへ歩き始める。
「それにしても何故私達の方に蛇人族がいたのでしょう。報告では城の逆側から攻めて来ているはずでは?」
「はい。サリヤさんの言う通り最初は西側からのみ攻めて来ていました。しかしここ数日城の周辺の様々な場所で蛇人族が確認されているんです。」
「?周りこんでるとか?」
「それにしては神出鬼没すぎるんです。城の西側に蛇人王がいることは確認しています。こちらの索敵網に引っかからずに本陣から出現場所に移動することはありえないのですが、事実こちらに一切気付かれず移動しています。その為今では城の周囲全てを警戒しています。」
「なるほど。だからこちら側に蛇人族とシルビアさんたちがいたんですね。」
「それで戦っているところに俺達が入り込んでしまったと。あんな爆発が起こるほど凄い戦いをしてるんですね。」
「あれはユカリさんのお力ですよ。」
シルビアさんが由佳莉さんを見ながら言う。
「ユカリさんの身体強化魔法は凄くて全力で使ったらあんなに凄い爆発を起こせるんですよ。」
「えぇ・・・。」
由佳莉さんを見てみると。
「そうですね。龍人族の方々は炎魔法なのでああ言った爆発は起こせません。身体強化魔法を強化したら魔族を軽々倒せるようになりました。」
と、淡々と自分の功績だと認めた。
(元の世界に戻りたい由佳莉さんとしては魔法を使いこなすのは嫌な事では?)
仮に元の世界に戻れた時の事を考えてしまったが、下手な事を言って気分を害しても悪いので言わないように心に決めた。
「シルビア様!ユカリ様!」
そんな覚悟をしたとき目の前に子供が何人か出てきた。色とりどりの鱗を持っており龍人族の子供というのが分かった。
「大丈夫ですか?怪我とかしてないですか?」
「はい。皆怪我無く帰ってきました。」
腰を曲げて子供たちの目線に合わせて話し始めたシルビアさん。
「城外は大丈夫なんですか?お父さんとかみんな外に出て行ってて不安なんです。」
「・・・皆さんの生活が脅かされることが無いようあなた方のお父様を含めて戦っています。皆さんは慌てることなく、いつも通り過ごしていてください。」
「「「はい!」」」
最初は不安そうな顔をしていた子供達だったが、話終わりにはそんな不安もどこへやら。
「子供に好かれてるんですね。」
「・・・シルビアさんは時間があるときには城下町をまわって国民と対話をしていますから。」
「じゃあ由佳莉さんも一緒に?」
「えっと、」
「ユカリ様!」
別の子供が由佳莉さんのもとに笑顔でやってきて、手を差し出してきた。
「いつもシルビア様の護衛お疲れ様です!」
「・・・ええ。ありがとうございます。」
少し驚きつつも握手をする由佳莉さん。
「私もいつかユカリ様のようにシルビア様の護衛ができるように強くなります!そちらの方も人間さんなんですか?」
由佳莉さんへ向いていたキラキラした目が俺のほうへ向いてきた。
「はい。彼は別の国から来たんですよ。」
「そうなんですね!あなたもユカリ様のように強いんですか?」
「ゆ、由佳莉様?」
「はい!ユカリ様は私たちの憧れなんです!確かに最初は人間を見たのが初めてだったので少し怖かったんですけど話をさせていただいたら心優しい方だとわかったんです!話し方は優しいのにとっても強いんです!」
由佳莉さんのことを話す龍人族の子供はずっと嬉しそうだ。
「周りのおとなはユカリ様のことを疑っている方もいますが、私たちはそんなこと思いません!ユカリ様は私の憧れです!」
「そ、そうなんですね。」
彼女のエネルギーに少し押されてしまう。
「ユカリ様?」
俺のほうへ向いていた顔が由佳莉さんのほうへ向いた時、彼女は困惑した表情に変わった。由佳莉さんの顔も浮かない。
「大丈夫ですか?どこかお怪我を?」
「あ、ああ、いえ。大丈夫です。」
「そうですか。最近お疲れのようですからこの戦いが終わったら休養してくださいね。」
「・・・そうですね。考えておきます。」
子供たちを引き離し城に向かいゼール王に謁見を済ませ、ウォルトさんのもとに戻った。
「ウォルト。救援物資は渡せましたか?」
「はっ。それぞれ適切な部隊に渡してきました。」
「よろしい。我々はこれから龍人族と共闘して蛇人族を撃退します。敵は蛇人族の魔法である毒魔法だけではなく、何かしらの魔法を集団で使っています。恐らく高速移動や転移などの魔法でしょう。城壁の外に出たら油断せず、隊で動く事を忘れないように。では解散。」
「「「「はっ!!!」」」」
マスターの号令でそれぞれ散らばっていく兵士達。流石こういう号令には慣れてるんだろうなと思わせる緊張のなさだ。
「俺たちはどうするんですか?」
「敵の魔族を倒しに行くのでしょう?」
「いや、今後のことについてシルビアさんと話すことがあります。」
「え?」
不思議そうな顔をしたシルビアさん。
「そうですか。じゃあ話をしている間に私と玲斗さんは敵を倒しに行きましょうか。」
「いえ、あなたたち二人はどこかで待っていてください。シルビアさん。この二人だけで落ち着ける場所はありませんか?」
「そうですね。中庭だったら誰も来ないです。我々王族のみ立ち入れる場所ですので。」
「ありがとうございます。そこに行きましょうか。」
そう言うと有無を言わさず歩き始めたマスター。
(マスター・・・。)
遅れてシルビアさんが、その後ろに二人でついていく。横目に由佳莉さんを見るとプレゼントしたネックレスを付けてくれていることに気づいた。
「あっ、あの石付けてくれてるんですね。」
「もちろん!私達二人を繋ぐ石ですから!この世界にたった二人の異世界人の私達の!」
由佳莉さんがネックレスを外してこちらに近づける。俺もネックレスを外して繋げると心地よい程度に発光した。
「これがあると頑張ろうって思えます!」
「贈って良かったです。」
由佳莉さんは満面の笑みでこちらを見てくる。帰りたいという気持ちが伝わってくる。
「着きました!」
少し歩くと学校の中庭を豪華にしたような場所にやってきた。噴水やその周りの花壇が豪華さを演出している。
「おお。凄い。」
「では二人はここで待っていてください。シルビアさん、行きましょう。」
「は、はい。」
少し困惑しているシルビアさんを連れていくマスター。二人が見えなくなって噴水の縁に座ることにした。
「何の話ですかね?」
「さぁ?マスターにも何か考えがあるんでしょう。」
「ここは落ち着きます。最近疲れることが多かったんですけど、ここで一人になると、自分のすべきことを整理できるんです。この中庭には元々色々な花が咲いていたんですが、私もこの花を植えたんですよ。」
座っているところから一番近い花壇に咲いている花を指さす由佳莉さん。
「そうなんですね。」
「・・・。」
「・・・。」
話したいことが沢山あるはずなのに沈黙が続く。
(マスターが二人きりにしてくれた理由はわかる。由佳莉さんの情緒がおかしいらしいから俺に話をしてほしいんだと思う。そのことについてシルビアさんとも話すんだろうけど。)
「・・・玲斗さん。」
「ひゃい!」
考え事をしていたせいで凄い声が出てしまった。
「玲斗さんは魔法が使えるようになりましたか?」
「そ、そうですね。前にこの国に来たときはうまく使えるようになりました。さっきも魔法で身を守れましたしね。」
「・・・そうですか。」
何故か顔が強張る由佳莉さん。
「由佳莉さんはものすごく強くなりましたね。すぐに魔獣を倒してましたし。」
「はい。考え方を変えたんです。」
「?考え方?」
「前は魔法を覚えるのは楽しかったですけど、元の世界の感覚を忘れないように魔法を使いすぎないようにしようとしてたんです。試合で身体強化魔法を使おうとしちゃったら大変だと思って。」
「まあ、確かに。元の世界では魔法は使えないですからね。」
「でもそれじゃ駄目だったんです。」
「駄目?」
「この世界は元の世界とは違って戦いが、死が当たり前なんです。だから魔法を使いたくないとか言ってられないんです。魔法を使って自分の身を守る。これが元の世界に帰る一番の近道だと気づいたんです。最近は元の世界のことが夢にも出てきてるんです。元の世界の風景が浮かんできて、誰かが私を呼んでるんです。」
空を見上げて語っている由佳莉さん。その眼は前に見た眼とは違う感じがする。
「そうですね。帰る前に殺されたら元も子もないですしね。」
「はい。帰るためには何でも使います。何でもします!なので!!」
急に距離を詰められ、手を握られる。
「玲斗さん!!」
「は、はい!」
「必ず一緒に元の世界に帰りましょうね!!」
「そ、そうですね。帰りましょう。」
前よりも帰りたい気持ちが強く出ている。
(魔法を使って戦ってるってことは。)
「由佳莉さんは抵抗はなかったですか?」
「抵抗?」
「相手を殺す抵抗です。」
「なかったです。」
あっさりとした返答があった。
「えっ・・・。」
あっさりとした返答過ぎて言葉が出ない。
「私も最初はそういう葛藤があると思って戦場に出たんですが、魔物や魔獣と戦うと決めたからか抵抗なく敵を殺せたんです。その後に罪悪感みたいなのもなく。多分相手が人間じゃないからですね。」
「はぁ。・・・俺は今でも割り切れないですね・・・。特に敵が言葉を話してたら・・・。」
「大丈夫です!玲斗さんはそのままでいてください!私は割り切れているので!さらに最近は戦いが楽しくなってきたんですよ!元の世界でも剣道の試合は楽しかったですがそれと同じ感覚なんです!!この竹刀で敵を倒した時にはものすごい達成感が出てくるんですよ!!」
「そうなんですね・・・。」
「だから戦闘は私に任せてください!玲斗さんがこの世界に染まる必要はありませんから!」
「は、はい。」
終始押し切られてしまった。前にあった時と由佳莉さんの心境が変わっているのは確かだ。しかも悪いほうに。なるべく戦いに出さずに悪い部分を消したいけど・・・
「?」
笑顔で興奮している由佳莉さんを見る限り戦いに出さないのは難しそうだ。魔法が上達しているということは俺では止められなさそうだしな。
「ユカリさーん。レイトさーん。」
中庭の入口からシルビアさんが歩いてきた。横にはマスターもいる。
「マスターからの話は終わったんですか?」
「はい。我々も戦いに向かいましょう。ひとまず正門に行きましょう。」
マスターに続き城外に向かっていく。




