脅威は止まらない
「魔獣の脅威度が上がっています。」
何日か魔獣狩りをした。群れをなして暴れる虫達。前の猪よりも大きい虎。花の魔獣など元の世界では対峙することがなかった相手とも戦った。マスターと共に戦い、怪我を増やしながらも戦い抜いた数日。今日も魔獣との戦いに行こうかとしたときにメイガスさんに呼び止められ、魔王の玉座に来たのだ。
「脅威度?」
マスターは魔獣との戦いで一切の傷を負わなかった。自身の周りの敵を倒しつつ、俺のサポートをしてくれた。俺の怪我が増えても生きて帰ってこれているのはマスターのおかげだ。戦闘力が半減したとは思えないほどの強さだったが、本人曰くまだまだとのことだ。
「はい。この数日複数の隊で魔獣を狩っていました。私も同行し調査を行いましたが、その中で魔獣の数と個々の戦闘力、そして数や暴走具合が前よりも多く、強く、そして狂暴になっていたのです。」
「こちらの損害は少ないですが、以前より危ない場面は増えたと思っています。」
横にいたウォルトさんも頷いている。
「また死体を解剖しようとしても直ぐに粉々に碎けてしまい、死体の保存が出来ません。」
メイガスさんの言葉に違和感を感じた。
「爆発しないんですか?」
思わず口を挟んでしまった。俺とマスターで倒してきた魔獣は全て爆発した。小さい虫型だろうが巨大であろうが例外はなかった。
「はい。お二人が遭遇した魔獣達は絶命の後、爆発したと伺っております。しかしそれ以外の魔獣は全て塵も残さず砕けています。」
「・・・確かにあなたを召喚する前に倒した魔獣は砕けていました。」
「ってことは、俺の、せい?」
俺を指差しながら聞く。何もしてないし、何も出来ないのは分かりきっているが、俺の前だけで変化があるとそう思ってしまう。
「ありえません。」
がマスターの言葉がそれを一蹴した。
「記憶喪失で魔法の使い方も忘れている人間如きに何が出来ると言うのですか。他に理由があるはずです。」
「そうですよね・・・。」
マスターの言葉は俺の不安をかき消してくれた。
「とはいえ今の様な疑念を持つものが現れないとも言えぬ。」
そこで黙っていた魔王が話し始めた。
「今のことは他言無用とする。ただし、他でも爆発が起こる可能性もあるため、各隊の隊長にはウォルトから注意を促しておくように。無論余計な話はしないようにと。」
「はっ!!」
しっかりと背筋を伸ばし返事をしたウォルトさん。てっきり近衛部隊の隊長だと思っていたけど総隊長みたいな立ち位置なのかな?
「さて、魔獣の脅威度が上がっているのはこの国の周りだけではないようで、アルムン国から共同で魔獣退治を行ってほしいと要請があった。」
「アルムン国・・・。」
(由佳莉さん元気かな?)
「ディスブル国はそこまで戦況は悪くないですが、アルムン国は悪いのですか?」
ウォルトさんが不思議そうに訊ねる。確かに向こうの龍人族は強そうだったな。
「悪い。近頃蛇人族が魔獣となって暴れているようなのだ。」
「蛇人族。通称リザードマン。全身に鱗を持つ人型の魔物で炎に強い耐性がある種族ですね。蛇人族は魔法を使えず私達と同じ言語を話しませんが、一部のものは話せるとか。」
マスターの解説はわかってない俺の為に言ってくれたんだろうな。
「炎に耐性があるってことは、龍人族の魔法が炎魔法と変身魔法だから相性が悪いんですかね?」
「それもあるでしょうが、炎耐性だけなら龍への変身魔法でなんとかなるでしょう。戦況を悪くしているのは相手が蛇人族だからだと思われます。」
メイガスさんが俺の疑問に答えてくれた。
「というと?」
「龍人族と蛇人族は祖先が同じなのです。そのため他の魔獣と違い手が緩んでしまうのでしょう。」
「祖先が同じ?鱗があるからそう言われているんですか?」
「いえ、古き魔物が同じなのです。」
「古き魔物って?」
「我ら魔族にはそれぞれ進化元の魔物がいてそれらを古き魔物と呼んでいるのです。その魔物達はすさまじい力を持ち、大地を切り裂くほどの戦いを繰り広げていたそうです。」
「おお!古き魔物って凄そう!」
「はい。実際凄い魔物達だったそうです。そして龍人族と蛇人族は同じ魔物をルーツとしているのです。」
「名をオピオーン。あらゆるものを燃やし尽くす炎を吐き、すべての攻撃をはじく鱗を持っていたそうだ。」
「へぇー。」
「・・・アルムン国には救援を出すのですか?」
話題が古き魔物になっていたところをマスターが引き戻してくれた。
「無論出す。ウォルト。連れていける部隊を選出し、遠征の準備に入れ。メイガス。ミールと共に遠征の準備をせよ。向こうで魔獣の生態の共有をしたい。」
二人は返事をして部屋の扉に向かう。ウォルトさんは素早く、メイガスさんは穏やかに進む。
「生態の共有ってなんでミールさんも一緒に?」
変人としての記憶しかない。
「この国で一番魔族の体の事を理解しているからです。他の国から怪我や病気のことで問い合わせが来たり、直接駆け込まれる事もありました。以前南の方で疫病が発生した時がありました。現場の魔族では治療法がわからずいくつかの国が滅びる寸前までいった時に彼女が薬を開発し、疫病を根絶させたんです。魔族の体と薬の事ではメイガスの知識を超えるでしょうね。」
「・・・そんな凄い人だったのか。」
「ええ。」
「さて。」
二人が出て行った後、魔王がこちらを向いた。
「今回の救援にはお前たちも行ってもらう。」
「はい・・・。」
魔王と話すのは何度目かだけど緊張するな。威圧感が凄い。
「もちろん行くつもりでしたが、何か要請があったのですか?」
そして淡々と話すマスター。親子でも外向けの話し方なのは少し違和感がある。
「ああ。龍王からお前たちに来てほしいと言われてな。」
「私たちに対して、と言うことはシルビアさん関係でしょうか。」
「そのようだ。魔獣の大量発生のせいで令嬢と使い魔も討伐に参加しているらしいが、最近情緒が不安定になっているようだ。主に使い魔がな。」
「由佳莉さんが。」
「・・・なるほど。」
マスターが横目で俺を見てくる。同じ世界から来た人間だとわかっているから情緒が不安定になっている理由がわかるんだろう。
「・・・思い当たる節があるようだな。」
「なんとなく、ですが。」
「ならば急いで旅支度をせよ。救援部隊は魔獣の制圧が終わったら帰る様に言うが、お前達は令嬢らを安定させるまで帰ってこなくて良い。」
「何故そこまで彼女らに対して優遇をするのですか?」
確かに。他の国の王女様と使い魔をここまで心配するなんて一国の王様としてはおかしいような?
「・・・そういう要請だ。」
「はぁ。そうなんですね。」
「・・・わかりました。」
マスターは腑に落ちていないようだが頭を下げた後、部屋を出ようとした。それに続こうとしたところ。
「レイトよ。」
「ひゃい!」
初めて名前呼ばれた?めっちゃテンパってしまった。
「・・貴様は戦えるのか?」
「ま、まあ。最近の特訓で多少は戦えるようになりました。」
「そうか・・・。ならば良い、行け。」
そうして部屋を出る。
「なんか、変でしたね。」
「そうですね。私達に伝えていない要請事項があるのかもしれませんね。」
「え?それ聞いておかなくていいんですか?」
「言わなかったと言うことには何か理由があるのでしょう。仮に粘っても聞かせてはくれませんよ。それよりも今回の救援遠征は長くなる可能性があります。気を引き締めて下さい。」
「はーい。」
その後今回の遠征隊が門に集まり、出発となった。その数は多く狼人族の時より大規模であった。
「やっぱり歩くのか。」
「ええ。この数をスレイプニルで運ぶのは出来ないでゲスからねぇ。」
そして俺は隊列の中央あたりでミールさんと歩いている。
「このペースだとどれくらいで着くんですかね?」
「そうでゲスねぇ。恐らく明後日くらいじゃないですかねぇ。」
「ってことは夜はキャンプか。」
「そうでゲスね!」
「キャンプ初めてなんですよね。ご飯とか大丈夫かな?」
「大丈夫でゲスよ。キャンプの準備をする班がいますから。ご飯も任せてOKでゲス!」
サムズアップを見せるミールさん。恐らく彼女もキャンプの準備は出来ないのだろう。
「そういえばマスターは何処にいるんですかね?」
「サリヤ様は一番前にいるはずでゲス。今回の遠征の進め方の話し合いをしているはずでゲス。」
「はぇー。やっぱり色々と決めることがあるんでしょうね。」
「もっちろん。私達には考えもつかない重要な事を話しているに違いがないでゲス。」
「ミールさんは行かなくていいんですか?向こうに着いたら生態の共有?をするんですよね?」
「ええ!なので今のうちにゆっくりしてるんでゲス!」
胸を張って自身のサボりを公言するミールさん。
「えぇーー。」
「まあまあ向こうに着くのはまだ先ですし、アルムン国に蛇人族が攻めてきているのはこちらとは逆側ですし、他の魔獣もいないからレイト様もゆっくりしましょうよー。」
「・・・それもそうか。」
ミールさんが前に行ったため、俺は一人でゆったりと歩く事となった。周囲に生えている木や草は元の世界とあまり変わらない。ときたまとても大きかったり、花や模様に違和感を感じる程度だ。そして一緒に歩いている多種多様な魔族達。最初の頃だったら周りに異形の魔族がいるだけで震えていただろう。しかし今となっては怖がらずに対峙するとこが出来る。
(これは順応したって事でいいのか?元の世界では考えられないよな。)
元の世界を思い出したところでもう一人の人間の事を考えた。
(由佳莉さんは情緒が不安定になっているって言ってたけど大丈夫かな?前の俺みたいに戦いに疲れているのかも。何か心を安らげられる物があればいいんだけど。前みたいなプレゼントがいいかな?・・・それとも元の世界の話をしたほうが安らげるか?)
由佳莉さんの事を考えながら歩く。そうして何時間か歩いていた時、
どぉぉぉぉんんん!!!
左前方の森の中から爆発音が響いた!音の方向には土煙が立ち上り爆発の大きさを物語っていた。
「?なんだ??」
続いて森の中で爆発が起こる。隊列全体が騒がしくなっていて、不測の事態な事は間違いない。
「総員戦闘隊形!!」
前の方から命令が聞こえた。
「戦闘隊形?」
そんな命令は知らないので立ち尽くす。周囲がざわつく中、騒動は起こった。
ガサガサガサ。
直ぐ横の森の中に何かがいる。そう考えた瞬間。
「ギャォォォォ!!」
鱗で覆われた何かの大群が隊列に向かって突撃してきた!




