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祈りを

氷の膜のお陰で爆発には巻き込まれず返り血も浴びなかった俺とマスターは城への帰路に着いていた。


「あの、マスター。」


「なに?」


「俺歩けるよ?」


マスターの肩に担がれて。


「城まで歩く体力は無いでしょ。怪我もしてるから歩けても遅いだろうし。」


「それはそうだけど。」


頭の向きは前方を向いているが顔は下にあるためマスターの表情は見えない。


「頭痛くなりそう・・・。」


「たまに休憩させてあげる。」


そうして担がれながら帰る間、マスターが呟いた。


「・・・さっきは悪かったわね。無理やり戦わせて。」


「・・・これからこの世界で生きていくために必要な事だから。いつかやらなきゃいけないことだったと思ってるよ。」


「・・・うん。」


「でも無防備で敵の前に立つのはやりすぎでしょ。」


「そうね。私もあそこまで何もせずに敵の前に立ったのは初めてだった。」


「まあ無理やり悪い状況にしなきゃマスターを助ける状況になんてならないよね。マスター強いし。」


「そんなことないわよ。」


「え?」


「私は右手を失って文字通り戦闘力が半分になったの。」


「どゆこと?」


「前の私の戦闘スタイルは左手に魔具を持って、右手で魔法を発動する形だった。」


「ありそうありそう。」


普通のスタイルだな。


「でも右手が無くなった後に右腕で魔法を発動するととてつもない痛みが出る。その痛みで動きが止まっちゃうくらいにね。」


「それはやばそう。」


「この前の狼王のような強敵との戦いではその一瞬が命取りになる。しかもそこまでして魔法を発動しても威力はおざなりで操作性も悪い。だから右手で魔法を使わないようにしてるってわけ。」


「へぇ、何で操作性が悪くなるのは何となく分かるけど威力も弱くなるんだ。」


「ええ。多分魔力出力の仕方の問題でしょうね。慣れれば以前のようになるかもだけど現状右手は使えないに等しい。」


「じゃあ俺がマスターの右手になる!ってことだね。」


頑張ってマスターの顔を見ながらサムズアップを決める。


「そういうこと。よろしくね。」


「はーい。」


顔を下向きに戻し、目をつぶり手を合わせる。


(頑張ろう。)


「それ、さっきの魔獣にもやってなかった?」


「へ?」


「その手を合わせるの。手印か何か?」


「今は何となくやっただけだけど、さっきはこう、祈ってたかな。」


「祈る?何で?」


「んー、初めて自分が自覚して殺した相手だったからかな。」


前に対峙したサラマンダーを思い出す。


「前のサラマンダーはびっくりして何も考えずに倒したから自覚がなかったけど、今回は殺そうと思って殺したから。」


「殺した相手に敬意をはらって祈っていたと。」


「そんな感じかな。」


(言葉にするのが難しいな。)


「ふーん。」


俺が言葉を考えている間にマスターも何かを考えているようだ。


「この世界ではどうやって祈るんだ?」


「ああ、この世界では。」


俺を降ろしてへその上辺りに手を当てた。


「こうやってやるの。へその上辺りで魔力が作られているから此処を抑えることで、生命に感謝しているって感じね。」


「へぇー。」


(魔力があって、戦いがある世界だからこその祈りなんだろうな。)


その後抵抗むなしく再びマスターに担がれて帰路についた俺たち。帰り道で会話はなかった。それでも俺の中にはこれからの道筋が見えていた。


(マスターの右腕になれるように頑張ろう。)


そして自分の手を見て思う。


(・・・とりあえずこの震えを起こさないようにしなくちゃな。)

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