元の世界とたった二人の人間
ひとまず、この世界での目的が決まった。・・・いや、前からマスターの為になりたいってのはあったけども。頷きながら自分の意気込みを再認識していると、
「そうだ。あんたはやりたいことはない?」
「やりたいこと、ですか?」
「そう。魔獣化を止めるのを手伝ってくれるって言ってくれたじゃない?私のやりたいことだけ叶えるっていうのも違うかなって。」
「使い魔っていうのは、主人の言うことを聞くものじゃなかったんですか?」
「普通はそうだけど・・・。あなたの経歴からして普通じゃないからね。」
「まあ、そうか。」
少し考えて、
「由佳莉さんを元の世界に返したいです。」
「・・・。」
気難しい顔をするマスター。
「ど、どうしました?俺、変な事言いました?」
「いや、その願いはもちろんわかるんだけど、あなたは帰りたいとは思わないの?」
「えーと。」
「私にとっては有り難い限りだけどさ、何かあんたから元の世界への未練があんまり感じられないのよね。親とか心配してるんじゃないの?」
「家族はずっと昔に死にましたからね。血の繋がった人もいなかったですし。」
「えっ?あっ、そうだったの・・・。・・・ごめんなさい。」
「大丈夫っすよ。・・・それこそ氷月、ああ、マスターに似てる例の親友なんですけど、そいつに助けてもらったんですよ。家族が死んだのが中学・・・14歳の時なんですけど、俺完全に無気力になってたんですよ。そん時世話してくれて、励ましてくれたのが氷月なんです。」
・・・絶対に忘れられない恩がある。
「恩人なのね。」
「恩人ですし、一番の親友でした。だからあいつが死んだって聞いたときは、すごく悲しくて。でも」
「でも?」
「すぐにマスターに召喚されたんで、悲しむ暇もなかったっていうか、マスターがあいつに似てたんで嬉しかったっていうか。」
言うのが難しいな。
「そんなすぐだったの?」
「すぐですよ。死んだって聞いた夜でしたから。死んだって聞いて頭が真っ白になって・・・いつの間にかベッドに入ってて・・・。んで、マスターに召喚されたんです。」
「それは・・・、ごめんなさいね。弔う暇もなかったなんて。」
「いやいや、むしろよかったですよ。たぶん時間が経つにつれて気持ちがどんどん落ち込んでいきましたから。だから召喚って訳分かんない事がおきてよかったです。」
「・・・ならいいけど。」
そういうとマスターは立ち上がり、背伸びをして、
「お互いのやりたいこともわかったし、これからもよろしくね。レイト。」
手を伸ばしてきた。
「はい。色々と未熟もんですが、よろしくお願いします。」
その手をとる。20歳とは思えないほど小さな手だ。人と変わらない手。俺はこれからこの、人?魔族かな?を守っていく。生きる目的を手に入れた。
「あ、そうだ。これから二人っきりの時はかしこまらなくていいから。」
「はい?いいんです?」
「これからお互いに協力していくんだから、ちょっとでも仲良くしていかないとね。」
「他人行儀じゃダメってことですね。」
「私は人じゃないけどね。まあそう言うこと。」
そういえば、人なのって俺と由佳莉さんだけだ・・・。
「あっ、そうだ!由佳莉さんとシルビアさんは大丈夫ですかね?さっきはだいぶめいってましまけど。」
「敬語、まあいいけど。ちょっと見に行ってみましょうか。あんた、動ける?」
「大丈夫っす。」
「じゃあ部屋に行ってみましょ。私も気になってたし。」




