改めての目標
「って感じで、お母さんと右腕をなくしたの。」
いやいや・・・。
「淡々と話しすぎでしょ。そんな重い話。」
「どんなにつらそうに話しても、過去のことは変わらないでしょ?だから事実だけを言ったの。」
「それはそうですけど。っていうか色々すごい事実があったんですけど。お母さん人間だったんですか?」
「そうよ。だから私の姿は人間なの。」
「遺伝、ってことですか?」
「察しがいいわね。異種族間で子供を作ると、どっちかの種族の容姿になるの。」
「魔法はどっちのを引き継ぐんですか?」
「規則性は無いって言われてる。どっちの親の魔法を引き継ぐかはランダムってことね。だから龍に変身する悪魔族とか、闇魔法を使う龍人族とかもいるかもってことね。」
言い方的に異種族での結婚ってあんまりないのかな?
「って話がそれたわね。お母さんの話でしょ?」
「そうでした。王女様がいなくなって、マスターの右腕がなくなって周りの人は不審がらなかったんです?ティーナさんとか特に。」
マスターの事が大好きそうだし。
「ティーナだけじゃなく、城中、国中がてんやわんや。お母さんはみんなに愛されてたし、私もそこまで弱くなかったから。」
自分で言うのか・・・。
「お母さんは生まれた街が魔獣に襲われたから帰省、私の腕は魔獣に食われた、って事で皆に説明したの。」
あんまり納得はしてもらえなかったけどね、と溜息をつくマスター。
「お父様はお母さんの事は忘れなさいって言ってた。自分が一番つらいはずなのにね。でも、そんなことはできない。私は、お母さんを死なせた魔獣化を止めたい。って思ってたんだけどね。」
「今回の、あれですか・・・。」
「そう。今回の魔獣化とその後の爆発。お母さんの時とほぼ同じ状況。もしかしたら魔獣化の原因がわかるかもしれない。お母さんの死んだ原因がわかるかもしれない。お母さんから、」
「ストップストップ、マスター落ち着いて。」
急にテンションあがったな。それだけお母さんの死んだ原因をはっきりさせたいんだろうな。
「ごめんなさい。ちょっと感情的になっちゃった。とにかく私は魔獣化をなんとかしたいの。誰も魔獣に悩まされないようにしたいの。」
そう言うマスターの目は今までで一番決意に満ちていた。
「・・・じゃあ、それ、手伝わせてください。」
「えっ?」
「今までは漠然とマスターを助けたい、って感じでいましたけど、目標があった方がいいでしょ?だから魔獣化を止めるのを手伝います。」
「・・・過酷な道になる、なにせまだ何もわかってないんだから。」
「この世界にきて、ずっと過酷な道ですよ。マスターの役にたてるなら、やりがいが出来るってもんです。」
「わかった。」
俺の前に立つマスター。そして
「あらためて、これからもよろしくお願いね?レイト。」
手を差し出してくる。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。マスター。」
その手をとる。これからの道は大変だろうけど、この世界で生きる目的が出来てよかった。そんなことを考えていると、マスターがずっとこっちを見ているのに気づく。
「どうしました?」
「いえ、召喚の魔法陣があなたを選んだ理由がようやく分かったの。」
「??」
「召喚されたのがあなたでよかった。」




