戦いの後始末
「痛い。」
あの戦いから二日後。俺は前に寝かされていた城内のベッドで寝ている。
「あのオネイロスとやらを正面から受け止めていたんですから、少しくらい損傷してておかしくないです。」
横の椅子にはサリヤが座っている。
「でもここまで使えないほど痛くなるとは。」
あの戦いの後、俺の両腕は全く動かせなくなっていた。少しでも動かそうとすると激痛が走り、触られても激痛が走る。
「おそらくー、腕の骨全てにひびが入っていてー、皮膚も魔力焼けしちゃってるのでー。ずっと痛いと思いますよー。」
立ちながらトーラスさんがマジックシートを見ながら前と変わらない口調で教えてくれた。
「魔力焼け?」
初めて聞く単語だ。
「はいー。火傷みたいなものでー、時間経過で治りますー。」
「そのうち治りますから安静にしていてください。」
「はぁ。」
この激痛がしばらく続くのか。左腕を骨折した時も、海でやっちゃった火傷もずっと痛かったもんなぁ。その二つが併発しているとなればこの痛みも長さも納得か。昨日は全身痛かったから少しは収まっているのかな?
「では今日はこのへんでー。また来ますねー。」
「ええ。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「はいー。」
頭を下げて礼をして扉に向かい、扉を閉めるときに目を見て手を振ってくれた。
「はぁ。あなたは魔法をうまく使えるようになったのに、怪我の酷さはどんどん上がっているわね。」
「すいません・・・。」
二人きりになったからかサリヤがいつもの口調に戻った。
「責めてるわけじゃないの。あなたがいなかったらシルビアさんを救って、エキドナを倒せなかったから。でも少し不安なの。」
「不安?」
「ええ。あなたが無茶しすぎちゃうんじゃないかって。魔法は全てを叶えられるものじゃないからね。何かあったら私を頼ってね。」
「・・・うん。」
不安は表情にも浮かんでいる。俺の事を信じてくれてはいると思う。でも毎回大きな戦いのたびに怪我が酷くなっているから不安を感じているのだろう。
コンコン
「ユカリさん!レイトさん!」
話の途中でノックが聞こえ、元気そうなシルビアさんの声が聞こえてきた。
「!!は、はい!どうぞ!」
シルビアさんが入ってきたことで急に外モードに切り替わった。
「お邪魔します!お邪魔でしたか?」
テンパってるサリヤを見たシルビアさんが不安そうに聞いてきた。
「いえ、大丈夫ですよ?それよりどうしましたか?」
「はい!戦いの後鍛錬をしていたのですが、ついに杖無しで魔法が使えるようになったんです!それをお見せに来ました!」
「それは良かったですね。では見せてもらっても?」
「はい!!」
《ウォーターボール》
俺達から少し離れて手を壁に向けて魔法を唱えると、掌から小さな水の球が出て少し飛び床に落ちて行った。
「まだまだこれくらいしかできませんが、凄い嬉しいんです!」
ものすごい笑顔でこちらを向いている。
「良いですね。今まで杖を用いて魔法を使っていたのが功を奏しているのでしょう。鍛錬を続けていればまた以前のように使えるようになると思いますよ。」
「ありがとうございます!」
その笑顔はサリヤの不安も消してくれたみたいだ。
「レイトさん。体の具合は大丈夫ですか?さっきトーラスさんから聞きましたけど、腕が使えなくなったって。」
今度は俺の顔を覗き込んできたシルビアさん。距離感がだいぶ近まった気がする。
「まあ、なんとか。安静にしてればそのうち治りますよ。」
「そうですか・・・。何かあったらすぐに言ってくださいね!レイトさんはこの国の英雄なんですから直ぐに対応してもらいます!」
「英雄だなんて、大げさな。」
「大げさじゃないです!私を救ってくれて、この国を救ってくださったんですから!復興が落ち着いて、レイトさんの怪我が治った暁にはしっかりと祝勝会を開かせていただきます!」
「ははは、ありがとうございます。」
ずっと笑顔のシルビアさんに少し気圧されてしまう。
「シルビアさん。復興はどんな具合ですか?私はレイトのそばにいたのでお父様から何も聞けてないんです。」
「順調です。死傷者の確認はある程度取れました。死者の弔いはある程度落ち着いたら行うようです。倒壊した家や城の片付けも始まっています。城下町の復興を優先するので玉座の間は暫く空が見える状態でしょうね。」
「式神の残党処理とエキドナの調査は?」
「それが式神の処理はあっさりと終わったんです。戦いの時とは強さがまるで違ったようで。トーラスさん曰くエキドナのオネイロスによって強化されていたのではないかと言っていました。」
「・・・そういえば、そんな感じも。」
シルビアさんの夢に入る直前を思い出す。玉座の間から蔦が出てきた後、式神が急に強くなった。あの蔦がエキドナの強化の証だったら納得がいく。
「エキドナの調査は進んでいません。研究施設が壊れてしまっているので。ひとまず体が爆発することは無いようなので今は封印しています。」
「・・・そうですか。エキドナの調査は進めたいところですが、復興の方が先ですからね。仕方ないでしょう。」
「それと他の三魔神が攻め込んでくる可能性も考えて周辺の見回りも強化しています。ドルファス様も国に連絡を取って警戒を強化してくださるようです。」
「それがいいでしょう。何せ我々はエキドナがこの国に攻め込んできた理由さえ分かっていないのですから、他の三魔神の考えが分かるはずがありません。」
「・・・・・・。」
サリヤの言葉を聞いてエキドナの最後の言葉を思い出した。
⦅そらを、とびたかったのよねぇ⦆
あの最後の言葉は本心な気がする。その言葉だけでこの国を襲った事に結びつけるのは難しいけど、あれも襲撃の理由の一端なんだろうな。
顔の近くの窓から空を見上げる。雲一つない晴天。
「・・・シルビアさん。」
「!はい!何ですか?」
顔を向けなくても笑顔なのが声を聴いてわかる。
「体が動くようになったら行きたいところがあります。」
「もちろん良いですよ!どこですか?」
「・・・・・・。」
空を見上げる。空は元の世界と変わらない。




