玲斗の過去
シルビアのオネイロスがどんどん大きくなっている下の城下町。そこには最初よりも二倍ほどに巨大になったエキドナがサリヤ達の猛攻を弾き返していた。
⦅良いわぁ。良いわぁ!どんどんワタクシの力が増えていくぅ!!⦆
時間を置くほどエキドナは強力になっていった。
「やはりあのシルビアさんが作り出したオネイロスがエキドナに力を与えているようですね。」
「ああ。だがどうする?私やゼール王の魔法でも壊すことが出来ないんだぞ?」
「レイトが必ず何とかしてくれます!それまで私達はエキドナの力を出来るだけ消耗させましょう!!」
サリヤの目は絶望ではなく希望を信じている。
「・・・それしかないか。皆の者!もうひと踏ん張りだ!エキドナに休む暇を与えるな!!」
「「「「はっ!!」」」」
ドルファスの声を合図に再度兵士達がエキドナに襲い掛かる!!
「我々も、行くぞ!!」
「「「ウォォォォ!!!」」」
息も絶え絶えなゼールの掛け声と共に龍人族もエキドナに向かって行く!!
⦅良いわよぉ。全員オネイロスの糧にしてあげるわぁ!!⦆
蔦を広げてそれを迎え撃つエキドナ。その顔には先ほどまでの苦痛は一切無かった。
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「それが、シルビアさんの夢?」
「はい。ほらあなたが生み出された理由を思い出したでしょう?早く行ってあげてください。ユカリさんが待っています。」
由佳莉さんがこちらに向かって大きく手招きをしている。
「・・・・・・。」
俺もあの空間に入ったらこのシルビアさんの夢に捕らわれてしまうのだろうか?この夢が敵を強化しているのは間違いないだろう。だったら一刻も早くシルビアさんを夢から覚めさせなきゃいけない。でもシルビアさんの夢は死んだ他人の夢が叶う事。そんなの永遠に叶わない。どうすれば彼女の夢を叶えてこの空間を消せるんだろう・・・。
「・・・い」
色々考えて俺の口から出たのは
「嫌です。」
俺の本心だった。
「え?」
シルビアさんが初めて俺の方を向いた。その顔には困惑した表情が浮かんでいる。
「いま、なんて?」
「嫌だって言ったんです。」
「なんで、そんなことを・・・?」
「俺もこの世界に来て結構経ちましたけど死者の考えが分かるみたいな魔法ってないんでしょ?じゃあこの二つの夢の空間はシルビアさんの自己満足じゃないですか。」
本当は温かい言葉をかけなきゃいけないんだろう。でも出来なかった。
「何でそんなこと言うの?」
シルビアさんが首をかしげると俺の周りの沼が体に纏わりついてきた。
「あなたは私の夢が作り出したレイトさんじゃないの?」
「ええ。外から入ってきた本物の玲斗です。」
「!!なんで私の夢に入ってこれたの!!」
シルビアさんの激情と共に沼が一気に俺に纏わりつき手足の動きを取れなくして浮かべられた。
「私の気持ちが分からないやつが私の夢に入ってくるな!!!」
立ち上がったシルビアさんの後ろの沼がせり上がり、鞭のように変化して顔に迫ってきた。
「それはシルビアさんも同じでしょう?」
氷の盾を生み出してそれを防ぐ。ここは夢の中。シルビアさんの支配下とはいえ、しっかりと思い浮かべれば俺の頭の中も投影できるみたいだ。
「同じ!?」
「シルビアさんもお母さんとか由佳莉さんの気持ちは分かっていないじゃないですか。」
「分かってる!!お母様もユカリさんも私を恨んでた!!私がいなければ死ななかったのにって!!!だから私がいないところで生きて夢を叶えてもらうんだ!!」
「そうお母さんが言ったんですか?由佳莉さんが言ったんですか?シルビアさんを恨むって。」
「きっと言ってた!!そう思ってたに違いないの!!!お前に何が分かる!!この世界に来るまで死に触れたことがないお前なんかに!!!」
「あります。」
俺の頭の中に昔の光景がありありと思い出される。その光景は頭の中からあふれだし、周りの泥を押しのけて行った。
「・・・え?」
急な周りの変化にシルビアさんも冷静になってくれた。それもそうだろう。今俺達の周囲に生み出された空間は
「俺の両親は通り魔に殺されました。」
俺が子供のころの風景だ。高層ビルの近くの公園の情景が鮮明に映し出されている。シルビアさんが生み出した二つの空間とは逆の方に昔の俺が転んでいた。
「とおりま?」
「全く知らない人に急に殺されたんです。」
パァン パァン
乾いた音が遠くから聞こえてきて、その方向から何人も走ってきている。
「犯人は何発も拳銃を撃ったけど人に当たらずにイライラしていて、転んでいる俺を見つけて標的を定めたと聞きました。」
拳銃を持った男がゆっくりと子供の俺に近づいて、絶対に外さないような距離まで近づき発砲した。
パァンパァンパァンパァン
何発も撃たれて弾が空になるまで撃たれたが俺に傷はない。その上に覆いかぶさっていた二人の男女が血まみれになっている。
「俺の盾になって両親は死にました。それからずっと俺は自分を責めていました。俺が転ばなければ、俺が遊びに行こうと言わなければ二人とも生きていたんじゃないかって。・・・二人は俺を許さないだろうって。でも友達に言われて気が付いたんです。」
『証明できない事を考え続けても前には進めない。貴方のご両親が最後に願ったことは何?』
「・・・二人は死ぬ間際に俺が無事で良かったって言ってたんです。」
思い出すだけで涙が出てくる。
「自分だけの思いに囚われちゃダメです。シルビアさんのお母さんは何を望んでいました?こんな夢の中で思い出してほしいって?」
さっきのシルビアさんの記憶を思い出す。お母さんは死ぬ間際に何かを言っていたはずだ。
「・・・お母様は・・・・・・。」
親が子に何かを残す。それがマイナスの言葉なわけがない。
『夢を持って、強く生きて。』
どこからともなく声が聞こえた。
「・・・私を励ましてくれました。」
シルビアさんの目にも涙が浮かんだ。お母さんの空間が薄くなっていく。
「・・・由佳莉さんも同じです。確かに暴走してシルビアさんやこの国にとんでもないことをして死にました。でも由佳莉さんは最後にシルビアさんへの恨みなんて言葉にしていなかった。」
「・・・・・・うぅ。」
由佳莉さんの空間も薄くなっていく。
「あぁ、あああぁ。あああああああ!!!!お母様!!!!ユカリさん!!!!」
シルビアさんが涙を流すごとに二つの空間が薄くなっていく。どれだけの時間が経ったか分からない。大声で泣き続けたシルビアさんの横にそれぞれの空間は無くなっていた。
「うっぅ。」
「シルビアさん。」
シルビアさんの前に座るとこちらを見てくれた。
「シルビアさんの夢は何ですか?」
「私の、夢?」
「はい。シルビアさんの夢です。一緒に叶えましょう?」
「・・・でも、私の夢なんて、私の力じゃ叶えられない・・・。」
うつむいてしまったシルビアさん。
「それなら大丈夫。」
「え?」
手を掴んだ俺の目を見てくれる。
「俺がシルビアさんの使い魔になって、その夢を一緒に叶えます。」
「・・・レイトさん。」
「だから教えてください。シルビアさんの夢はなんですか?」
「・・・私の夢は」




