シルビアの夢
「入れた、のか?」
前の夢と違いすぎる。周囲を見渡して見るが目印になるようなものは見えない。分からないことだらけだ。何故前の白い空間と違うのか。何故由佳莉さんの竹刀で入れたのか。
「・・・とりあえず進んでみるか。」
踝くらいまで足が埋まり思うように歩けず、暗くて遠くが見えない。
「・・・ん?」
少し歩くと遠くに二つの光が見えてきた。光に近づいて行くとそこには
「・・・なんだ、これ?」
理解できない光景が広がっていた。それぞれ沼を押しのけて二つの空間が出来ている。左の光の下では芝生の上で龍人族の女性が椅子に座って本を読んでいて右の光の下では
「由佳莉さん?」
由佳莉さんが剣道の試合をしている。だがその相手は白い夢で構成されている人形のようだった。地面もおかしい。剣道をするような板張りではなく単なる茶色の床だ。そしてそのおかしな空間の手前に座っている影がある。
「・・・シルビアさん・・・。」
力無く背中を丸めて二つの空間を見るように地面に座っている。
「シルビアさん、大丈夫ですか?」
何とか横まで歩いて声をかけた。だがシルビアさんはこちらを向こうとしない。
「・・・レイトさん、ですか。何で私の夢に?」
「シルビアさんの夢?」
「ああ、そうか。あなたも私が生み出した夢の一部なんですね。そうですよね。ユカリさんと同じ世界から来た人間だからいてもらった方がユカリさんも喜びます。」
そう言うと右手を由佳莉さんの空間に向けた。手から白い球が飛び出て空間に吸い込まれて行った。すると空間の中の由佳莉さんが俺に気付いたように手招きをしてくる。
「ほら、行ってください。ユカリさんの夢を叶えてあげてください。」
「何の話ですか?この空間はシルビアさんの夢なんでしょう?それが何で由佳莉さんの夢を叶えるなんて話になるんですか?何にもわからないですよ。」
「・・・・・・。」
今度は反応しなくなってしまった。
「とりあえずこの空間から出ましょう。」
シルビアさんの手を掴んで立たせようとする。
「いや!!」
凄まじい拒絶と共に振り解かれてしまった。今までに聞いた事が無い大声だ。
「ここは私の夢!ここから出たくない!」
俺を一切見ることなくまた二つの空間に目を向けてしまうシルビアさん。
「・・・・・・。」
「・・・分かりました。」
無理矢理連れ出すのは無理そうだ。シルビアさんの横に座る。
「俺はシルビアさんの夢の一部なのにシルビアさんの夢の叶え方を知りません。シルビアさんの夢を聞いても良いですか?」
シルビアさんは俺の事を自身の夢の一部だと思っている。シルビアさんの夢から突破口を見つけるしかない。
「・・・・・・私の夢はお母様とユカリさんの夢を叶える事です。」
「じゃあ左側にいるのが」
「お母様です。生前のお母様は何も考えずに本を読むのが夢の様な時間と仰っていました。」
「・・・生前?」
「はい。お母様は私が殺したんです。」
「え?」
「お母様は心優しく戦いにはあまり出られない方でした。」
シルビアさんがお母様の話を始めると思い出を映し出すかの様に俺の目の前にお母様の顔が映し出された。シルビアさんの顔はそれを全く見ずに前の空間に向いている。
「元々魔法を使うのが苦手だったお母様は殆ど城外には出ずに過ごしていました。それでも私が初めて龍への変身魔法を使う時にはそれをに見に来てくれたんです。」
顔から森の中へ場面が変わる。
「子供の龍人族が初めて変身魔法を使う時は城の鍛錬場で両親を側につけて使うんです。感覚の違いで暴走する可能性があるから。暴走したら周囲の声が聞こえなくなる場合もあって、その時に両親の声だけは聞こえるようなので。」
少しの龍人族とゼール王、お母様が映し出された。
「私は龍人族の歴史でも珍しい炎魔法ではなく水魔法を使える子でした。水魔法を覚えた後、次は龍への変身魔法と言う話になりました。水魔法を初めて使った時鍛錬場を埋め尽くす程の水を出してお父様達を溺れかけさせてしまった経験があり、変身の際も何かあるのではと考えたお父様は城外で護衛をつけて行うようにしたんです。そして変身魔法を使い私は龍に変身しました。」
画面が上からの画角にゆっくりと変わっていく。これはシルビアさんの見ていた景色なのか。
「その時、魔獣が襲いかかってきたんです。護衛が戦い始めた時私は暴走して龍の姿のまま暴れ回しました。」
画面が激しく荒ぶり始める。
「護衛は魔獣の相手をして、お父様とお母様は龍に変身して私を抑え込もうとしました。」
二匹の龍が必死に画面の主を抑えようとしている。それぞれの声も聞こえる。安心させようと、不安にならないようにと。それでも暴れ回り変身していない龍人族を弾き飛ばしている。
「龍人族の魔法は相手を抑え込むのには向いていません。龍の巨体で抑え込むしかありません。」
荒ぶりが段々と小さくなっていき遂には止まった。目の前に龍となったお母様の顔が映し出されている。地面が見えているということは抱き締められるように抑えられているのだろう。
「何とか抑え込まれて暴走は止まりました。でも」
その龍の後ろ。対峙していた龍人族の隙をついた魔獣が飛び掛って来ていた。
「魔獣が飛び掛ってきているのを見た私は水魔法を使って」
ザシュウ!!!
魔獣の体は龍の爪に貫かれた。その右腕は水を纏っていたが血塗れで
「お母様ごと魔獣を殺したんです。」
目の前の龍の腹を貫通していた。目の前の龍は血を吐きながらゆっくりと倒れていき、倒れた瞬間に人型に戻った。画角が下に戻りお母様に近づいて右腕で頭を抱え上げた。
「」
お母様は両手でシルビアさんの顔を包み込み何かを話して、力を無くした。彼女の目には動かなくなったお母様と彼女を貫いて血塗れになった自分の右腕が映っている。その光景で画面は無くなった。
「私が目を覚ました時にはお母様の葬儀は終わっていました。お父様からは事故だから思い出すなと言われましたが、そんなことは出来ません。ずっとあの時の事が頭から離れないんです!お母様を刺した感触!お母様の顔!何もかもが鮮明に思い出せる・・・。」
「それは・・・。」
俺も思い出せる。由佳莉さんを刺したあの瞬間を。由佳莉さんの顔を。
「でもお父様の言う通り忘れようと頑張ったんですよ?でも駄目でした。水魔法は素手では使えなくなり杖に頼らなければまともに戦えなくなりました。あの日から変身魔法は使えず、代償かのように中途半端な体になり。魔法がうまく使えないという事実が、体があの時の事を思い出させて来るんです。」
彼女の視線が今度は由佳莉さんの方へと移った。
「何年経っても忘れられなかった私にお父様が使い魔を召喚しようと提案してきました。自分の体にあの記憶が刻まれているなら外に頼ろうと。不本意だったけどユカリさんが来てくれたのは本当に嬉しかった。私の魔法でユカリさんを笑顔にできた時は一瞬お母様の事を忘れられました。でもユカリさんは死んでしまった。私がこの世界に呼んだから死んじゃったんです。」
「・・・・・・。」
「だから私の夢はお母様とユカリさんの夢が叶う事なんです。生き続けていたら叶えられた夢をここで叶えさせてあげるんです。だから私はここから出ません。」




