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許されてきた男 ④

「そんなこと言われても……っ、離して……」


「大丈夫やよ。責任は取るよ」


「責任って……なにを……っ、んぅ……!」


 首元に顔を埋められて、熱い吐息が肌をなぞる。


 唇が鎖骨のあたりをやわやわと撫でて、甘い痺れが背筋を走る。


 手首はシーツに押さえつけられて、身動きできない。


 下半身も、彼の脚に絡め取られて逃げ場がない。


「俺に任せて……」


 囁く声が低くて、艶があって、喉奥がきゅっと詰まる。


 ――そんな、熱っぽく言われたって……。


「……あのね。私、陛下が好きなの。だからお願い……陛下以外の人と、こういうことは……」


 言い終える前に、ヤリムが顔を上げた。

 きょとんと目を丸くしたかと思えば、すぐにニヤリと目を細める。


 そして、ふざけてるのかと思うくらい、

 色気をまとわせながら舌なめずりをして、唇を濡らした。


 ぞくん、と背中が跳ねる。


「……そういう、簡単に落ちない子がいちばん燃えるんよなぁ」


「な……なに言ってんの……っ!」


「ヤバいな。興奮するわ」


「!? ちょ……やめ、っ……んーーっ!」


 言葉ごと口を塞がれた。

 唇が無遠慮に押し付けられて、逃げても逃げても追いかけてくる。


 息がうまくできない。

 でも、身体の奥がじんじんして、

 どうしよう、なんか、変になるーー


 ――でも、なんで……私なんて、別に大した女じゃないのに。どうしてこんなこと……。


「……っ……陛下……」


「だーめ。今は俺のことだけ考えて」


 また唇を塞がれた。

 くちゅ、と濡れた音がして、思わず身体が強張る。


 ――やっぱり、「バビル王の女をモノにする」っていうのが、イイのかな。


 指が絡みつく。肌が火照って、逃げ出したいのに力が入らない。


 ――陛下は……どう思うだろう。こんな姿を晒してしまったと、知られたら……。


 服の下、手が忍び込んできて、素肌をなぞる。

 太ももまで這い上がってくる指先がやけに熱い。


 ――敵国の男と……こんな……。きっと……嫌われる。汚れたって思われる。


 ーー陛下にそう思われるのは……


 辛いなぁ。


 そう思った瞬間、胸がぎゅっと縮こまり、堪えていた涙がぽろりと零れた。


 それが、ヤリムの頬に落ちたらしい。


「……ノア様? ……え、ちょ、泣いとるん?!」


 ヤリムが急に動きを止めて、バッと身体を離した。

 顔を覗き込んでくるけど、見たくなかった。

 見られたくなかった。


 目をきつく閉じて、必死に顔をそむけた。


「…………」


 何も言えない。

 唇も、手も、心も、震えている。


「そんな……そんなに嫌やったん?」


「……っ」


「あぁもう……ごめん」


 その声があまりに素直で、優しくて――

 どうしてか、余計に涙があふれてきた。


「うっ……うぅ……」


「……ほんまにごめん。加減わからんくて……。

いや、俺、これまで女の子って……口ではイヤ言うても、最後は喜んでくれたもんやから」


「…………」


 何言ってんだこのチャラ男。


「そんなの……人によるでしょ!」


「せやな。ごめんな。……そや、ノア様、ちょっとだけこっち見て?」


 涙を堪えつつ、ギッ!と目を細めて睨みあげる。しょんぼり顔のヤリムが、黒い瞳をまっすぐ向けてくる。


「俺、顔がええやろ?」


「あ゛???」


 ほんと何言ってんだこの人。思わず涙も引っ込んだ。


「この顔で大体のことは許されてきたんや。こんな泣くほど女の子に嫌がられるなんて初めてで……俺、だいぶへこんどります」


「これだから顔のいい男は……」


 ヤリムが私の上から離れ、隣に正座した。私も身を起こし、涙を拭う。


 少し視線を落としたあと、ヤリムは真剣な顔でこちらを見て言った。


「泣かせちゃってごめんな。女の子に泣かれんのは耐えられん。寂しいけど、もうノア様が触っていい言うまで触りません。神に誓います」


「頼むよ……」


 信じてない。……けど。少しだけ心が揺れる。


「はい。そもそも……『神からの贈り物』が自らの身を危険に晒して、勇気振り絞って、マリのために来てくれたんや。もちろん協力します。そや、中庭の散歩でもしながら話しましょ」


 そう言って、ヤリムは私の肩にそっと毛布をかけた。毛布にギュッとくるまって、私は小さくうなずいた。


 ゆっくりと立ち上がり、ヤリムとともに寝所を出る。空気の冷たい廊下を抜けて、中庭へと向かう。その途中ーー


「ノア様、そこの段差気ぃつけてな」

「寒くない? 」

「疲れとらん? 疲れとるに決まっとるよなぁ、昼ごはん何食べたい?」


 ーーなんて、ヤリムは急にいろいろ気遣ってきた。さっきまでの馬鹿エロい人どこにいった。


 優しすぎてむしろ戸惑う。


「ヤリムって……」


「ん?」


 そこまで悪い人じゃないのかな……?


 いやいや、気を抜いたらまた何かされそうで油断できない。


 頭の中がぐるぐるしている。



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