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許されてきた男 ③

「ヤリムは……マリとバビルが戦争するのには反対だって、言ってたよね」


「確かに言いましたわ」


「バビルの王家が『最終兵器』を使うのを、阻止したかったんだよね」


「ですなぁ」


「最終兵器、確かにあったよ。……バビルの王家も色々あるんだけど、とある人が最終兵器を持っていて、これからそれをマリに使おうとしてるのを、つい先日知った。その兵器を私はこの目で見たけれど、それは……それ1人で街をひとつ滅ぼせそうな、世にも恐ろしいものだった」


 ヤリムは手に持っていた包みをテーブルに置き、眉をひそめた。


「……1人? 兵器の正体は人なん?」


「人間の形ではある。説明が難しいんだけど……とにかくね、それが使われたらこの街の人はみんな見境なく殺されると思う。だからマリの王に、バビル軍の一部がそんな恐ろしいものを使おうとしていると伝えたいの。バビルと戦っちゃ絶対ダメ。バビルにアレを使う理由を与えないで。バビルと和平協定を結んで!」


 言い終えると、ヤリムはすぐそばに来て腕を組んだ。

 

「それを……なんでノア様は伝えに来たん? ノア様はバビルの王妃になるんやろ? マリとバビルは今や敵国や。マリが滅びたら嬉しいんやないの?」


「確かに敵国だけど、アレはそういう次元を超えてるの」


「でもマリはバビルを滅ぼしたい思っとるよ? 今戦いを避けたとしても、いつかは絶対戦争になるよ」


「だとしても……とにかく、アレはやばいの!絶対使わせちゃだめなの。敵とか味方とか関係ない。この世にあっちゃいけないものなの!ヤリムも見ればわかるよ、あの背筋が凍るような感覚が!本当に……本当に恐ろしいんだから!」


 ヤリムは数度頷いて、くるっとターンした。


 そして棚から取り出した包みを傾けカップに茶色い粉末を入れ、炉で温めていたらしきお湯をそこに注ぎ、棒でクルクル混ぜ合わせ、それをほいっと渡してきた。


「はい。ノア様、どうぞ。ヤリム君特製ハーブティーや。これ飲んで一旦落ち着こうな」


「その手には乗らないよ。また毒でも入ってるんでしょ」


 睨みつけたが、ヤリムは笑う。


「あはは。毒と薬は裏表やからね。これも飲み過ぎたら良くないけど、このくらいの量ならホッと気持ちが落ち着く薬になるよ」


 ヤリムは私の手からカップを取り、目の前でクイっと飲んでみせた。ゴク、ゴク、喉を動かして、半分くらい中身が減ったカップをまた、渡してきた。


「……うん。落ち着く味や」


「ほんとに毒入ってない?」


「もちろんや。入っとったら俺も死んじゃいますもん」


 ヤリムは困ったように微笑んだ。


 毒入りでは……なさそう?なので、それをひとくち口に含んでみる。


 熱い。甘く優しい香りが鼻を満たした。もう一口含んでみたら、確かにホッとするような味がした。


「いけるやろ?」

 

「うん…………美味しい。……これヤリムが作ったの? ハーブティー作りが趣味なの?」


 ヤリムは隣の肘掛け椅子によいしょと座って、自慢のコレクションを愛でるように、部屋を見回した。


「俺はもともと医者になりたかったんや。その勉強しとったはずなのに、その顔と頭を国のために生かせって、なぜか外交官にされとった。……そこの中庭で薬草を育ててる。乾燥させて煎じて薬にできるから。ご近所さんにも結構評判なんですわ」


「……あ。もしかしてさっきここに来た男の子、薬を渡してたの?」


「なんや、見とったん? ……そう。あの子んとこはなぁ、母親が体悪いんや。父親は行方不明で、あの子1人で健気に頑張っとる。いい子だから特別にタダであげてるんです」


「ほぅ…………あ、ごちそうさまでした」


 そんな一面もあるのかと、ちょっと感心した。

 空になったカップをヤリムに渡す。


「……それで、ノア様をボスに紹介したら、見返りに俺に何くれるんです? ノア様?」


 カップを片付け、妖艶な眼差しを向けながら歩み寄ってくるその男。


 ーーやっぱりこうなるのか。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。早くしないとこの国が滅びるんだよ」


「それとこれとは別やぁ。こんなチャンス逃せんやろ」


「バカ言わないで…………きゃッ!」


 目の前に立つヤリムに腕を引かれ立たされて、ひょいっと抱き上げられた。ヤリムはそのまま部屋の奥に移動する。


「ちょ、ちょっとなにすんの!」


「んー? 蛇の巣穴にのこのこやってきた、かわいいうさぎさんを愛でようかと思いまして」

 

「はぁ?!……わかった、お礼ね、肩たたき券あげるから!いっぱい肩揉んであげるから!勘弁して!」


「それより俺がいっぱい揉みたいです」


「変態!!!」


 脱出を試みるが、全然ダメだ。外交官のくせに意外と力あるな!

 

 寝室につき、広い寝台にゴロンと寝かされる。

 逃げるまもなく、ヤリムが覆い被さってくる。


 余裕たっぷりの表情で見下ろしてくるその男。

顔だけはいいその男。


「ちょっ…………」


「あんな川に飛び込んで、生きとって、それでわざわざ敵国の男のとこにやってきて。あまりに無謀すぎません? 面白すぎるやろ。……俺、ますますノア様が欲しくなりました」

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