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許されてきた男 ①

 おじさんと2人、マリへ向かう。やはり血糸馬(チートバ)は反則級に速く、最初は振り落とされないよう、しがみついているので精一杯だった。


 だが1人で乗ることにもだんだんと慣れてきて、血糸馬(チートバ)に愛着まで湧いてきた。勝手に「チーちゃん」と命名。ちなみにおじさんが乗っている方の血糸馬(チートバ)は「チーくん」にした。


 道中、おじさんは相変わらずうるさかった。


 それにしても荒野の夜は冷える。


 おじさんが用意してくれていた毛布にくるまり、焚き火のそばに横になる。


 無性に不安になる。置いてきたムトやイルナ王子のこと。それに、あと一週間もすればイルナ君の軍はマリに着く。その前に私は任務を全うできるのだろうか。やっぱりイルナ王子が手配してくれた通りに、陛下のもとへ帰った方が良かっただろうか。私がマリへ行くなんて無謀な考えだっただろうか。


 それに流石にもう、陛下の耳にも私がシッパルについていないことが届いているはずだ。心配をかけていることだろう。


 これは正しい選択だったのだろうか。


「どうした、姉ちゃんやっぱりバビル王の方へ行く?」


 そんな迷いを見透かされたのか、焚き火の向こう側に寝転ぶおじさんが、背中を向けたまま聞いてくる。


「…………いや、いい。マリへ行く」


「あっそ。まぁ悩んでる暇があったらさ、俺の愚痴でも聞いてくれよ」


「昼間もずっと聞いてたよ???」


「いいからいいから」

 

 それからおじさんは私が寝付くまで、どこの町の姉ちゃんがこうだとか、だから俺はやめとけって言ったんだとか、それでエンリルに言ってやったんだとかなんとかむにゃむにゃ、よくわかんないけどそんなことをずっとずっと喋り通していた。


 そうして数日荒野をかけーー


 不安な気持ちをかき消してくれるような、爽やかな朝がやってきて、ついにマリに到着した。


「来た……!ここがマリ……!」

 

 目の前にそびえる城壁を見上げる。

 奥に壮麗な王宮が見える。

 

 あそこにマリ王ジムリ・リムと、王妃シブトゥがいるのだろうか。


 マリの統治者たちは……敵国から来た「神からの贈り物」の話を信じてくれるだろうか。


 その前に、ヤリム。アイツとまともに会話できるだろうか。顔見たらぶん殴っちゃいそうだ。


 アーシャちゃんはまだヤツに囚われているのだろうかーー


 おじさんの話術で城門を難なく突破し、マリの街に足を踏み入れる。中心部に近づくにつれ、人、人、人――ひと目で栄えている都市だとわかる賑やかさに包まれる。


「すごいねぇ、活気がすごい。人の多さは変わらないけど、なんだかバビルとは雰囲気が違うね」


 ラルサもバビルも、シッパルもエシュヌンナも立派な街だったけど、ここはまた違う。人々の服装や肌の色のせいだろうか、どこかカラフルな感じがする。


「はは、姉ちゃんおのぼりさんかよ」


 おじさんがバカにしてくる。

 イラっとくる。


 ――西の強大な都市国家・マリ。


 「二つの川の間の地」と、西の世界をつなぐ交易の中心地。町を行き交う人々の顔つきも衣装も言葉も様々で、あらゆる地から人が、物資が集っているのがわかる。


「しょうがねぇなぁ。特別に姉ちゃんに教えてやるよ。マリはよ、海の向こうの西の島々とも交流があるんだよ。なんでもな、その島の一つに巨大な迷宮があるんだけど、その迷宮の中には頭が牛で、体が人間の半牛半人の怪物が閉じ込められているって噂だ!」


 もしかして:ミノタウロス ※ギリシャ神話に出てくる怪物


 ミノタウロスなんて神話の生き物、にわかには信じ難いが……


 つい先日やべーヤツを見たばっかりだし、もうなんでもありな気がしてくる。

 

 …………ハッ!いいこと思いついた。ミノタウロスを連れてきてギルガメシュXと戦わせればいいのでは?!


 東ーー古代メソポタミアの英雄ーーギルガメシュ(X)!

 西ーー古代ギリシャの怪物ーーミノタウロス!


 最強王の名はどちらの手に?!


 ……私、疲れてるのかな。


 そんな現実逃避をしながらチーちゃんたちを連れ、おじさんの後に続いて雑踏を進む。


 街の中は複雑に入り組んでいるが、おじさんは迷うことなく進む。


 どうやら高級市街地らしきエリアにやってきた。建物の壁が綺麗に仕上げられている。その中の一軒の前で、おじさんが足を止める。


「……おじさん、ここ?」


「そう。はい、行って行って」


 見るからに大きな家だ。ヤリムは外交官、高官だからマリの中でも社会的地位が高いはずだし、かなり裕福なのだろう。

 

 奥さんとかいるのかな。奥さんがいてくれれば、変なことはされないような気もするけれど……どうだろう。


 わからないが、行くしかない。


 その家に向かい、一歩踏み出そうとした、その時。


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