ひとりでできるもん ②
おじさんはその場にあぐらをかいて座り、目を閉じた。そして黙り込む。まるで瞑想でも始めたかのように。
「……おじさん? 何してるの?」
「…………」
おじさんは動かない。
なんか話しかけちゃダメっぽい。
謎の無言に暇を持て余し、星空の下、少しの間ブラブラしていたらーー
カッ!
おじさんのつぶらな瞳が開いた。
「……マリの市内。ヤリム・アッドゥはマリ市内の自宅にいる」
「え?!なんでわかるの?!何が見えたの?!」
おじさんは立ち上がり、こちらをキランと見つめてくる。夜だからあんまり見えないけど、たぶん渾身のキメ顔をしている。
「プロフェッショナルだからわかるのさ!……はい、早速出発!姉ちゃんついてきな!」
「…………」
神通力……?
これも特殊能力のひとつだろうか。
どこまでも謎だ。
「……そういえばおじさん。シャム君って実は王子様だったりする?」
ズンズン進むおじさんに問いかけると、小太りのおじさんはひょいっと危なっかしく隣の建物へ飛び移り、手招きしてきた。
「シャムはシャムだよ。バカ言ってないで早くこっち飛んで。助走つければ飛べるからさ」
しれっと無茶振りしてくるこのおじさん。そっちの建物とこっちの建物、2メートルくらいは離れているんだが。
あぁ、やっぱりシャム君に来てもらいたかった。せっかくならハンサムボーイにお姫様抱っこで運んでもらいたかったよ……
「姉ちゃん早く!バレる前に行くぞ!」
諦めて少し後ろに下がり、夜の屋上を駆けて、足の裏を踏み締め、飛ぶ。
そしてーー
シュタッ。無事着地できた。
よかった。(涙)
警備兵に警戒しながら屋上を走り、闇夜に紛れて梯子を降り、裏道を抜ける。いつのまにか市街地に出ていた。
「……ていうかさ。おじさん、前にシャム君と2人で1人なんだって言ってたよね。おじさんひとりで運びの仕事できるの?」
早足で進むおじさんについていきながら、小声で聞く。おじさんは前を見たままサラッと答える。
「今の姉ちゃんなら俺1人でも運べるよ」
「今の私? それはどういう……」
答えを得る前に、簡素な建物の裏に着いた。そこでは血糸馬が2頭、静かに待機していた。おじさんはスタッと馬に乗り、見下ろしてきた。
「はい、姉ちゃん乗って乗って」
「え!ひとりで?!」
「そうだよ。ほら早く早く」
「えぇ……」
馬、ひとりじゃ乗れないんだけど……
いつも誰かに手伝ってもらって乗っていたからなぁ……
なのにおじさんは全然助けてくれる気配がない。運ぶ気あんのか。やっぱり担当シャム君に変えてほしい。
「おじさんー、無理だよー、乗るの手伝ってー」
そんな私に、おじさんの鋭い声が降ってきた。
「……姉ちゃん。もう、ただ誰かの馬に乗せてもらうだけの『贈り物』じゃ、ないんだろ?」
そのおじさんの声が、妙に……重く、胸に響いた。
――そうだ。
ただ……見てるだけ、ただ乗せてもらうだけ、ただ守ってもらうだけ……そんな「神からの贈り物」は嫌だと、思ってきたじゃないか。
ついさっきも、イルナ君のことを守りたいって、思ったばかりじゃないか。
馬くらい、ひとりで乗れないでどうする!
「……わかったよ。乗るよ!ひとりでできるもん!」
「おー。そうこなくっちゃ!」
まんまとおじさんの挑発に乗ってしまった気がする。無駄に口達者だからなぁ、この人。
そして私は、馬に乗る!
※結局ひとりでは乗れずにコケたので、呆れるおじさんに助けてもらって乗った
ご覧いただきありがとうございます。
お話のサブタイトル、いまだにしっくりくるものがなく、ころころ変えています。ご不便をおかけし申し訳ありません。




