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ひとりでできるもん ①

「なーんでおじさんなの? シャム君は?」


「シャムは忙しいの。つべこべ言わずほら、エシュヌンナ行くぞ」


 ちょび髭運び屋おじさんはスタスタ歩き出す。


 その服の裾をつかみ、引きとめる。

 

「おじさん、ちょっと待って!私を……マリ王のところへ連れて行ってほしいの」


「え? 王子様はバビル王のとこに運べって言ってたぞ」


 おじさんが短い首を傾げる。

 

「うん。陛下の元へ行きたいのは山々なんだけど……マリ王に、バビルと和平協定を結ぶよう直談判したいの。そうすればあの兵器……あ、兵器っていうのはね、ギルガメシュ Xっていう恐ろしいやつなんだけど、ウルさん……っていうのは王子の最恐毒親パパなんだけど……は、それを使う理由がなくなるから。

 

 あの人、結構民衆の人気とか世間体とか気にしてるし、明らかな謀反行為はしないと思うの。だからマリとバビルに和平を結ばせる。王子の毒パパにマリを攻める理由を与えないために。どうしてもやらなくちゃいけないの」


 険しい顔をして、おじさんが腕を組む。


「あのねぇ、まず俺たちは普通、依頼人以外に言われて運び先を変えるなんてしないんだよ」


「そこをなんとか!頼みます!王子には私から後でよく言っておきます!」


「……ま、俺らのせいにならなければいいけど。でもそれさ、バビル王に言えばいいじゃん。なんでわざわざマリ王のとこ行くの?」


「まず、単純に距離の問題。明日には毒パパたちはここを出発する。私がエシュヌンナで陛下に話している間に、マリに着いちゃうかもしれない。それと、普通にお願いしたところで、陛下がマリと協定を結ぶとは思えない。ディタナ王子を殺して、バビルとの同盟を裏切った国だもん。私がいくら頼んでも無理だと思う。でも……私がマリの人質になれば、陛下はマリとの和平協定を考えてくれるかもしれないでしょ」


 おじさんはつぶらな目を丸くした。


「自分から人質になりにいくの? 姉ちゃん、とんでもないこと考えるねぇ!」


「自分でもバカだと思うよ。でもさ、私の利用価値ってそのくらいしかないと思うの。これは総合的に考えた結果なんだよ」


「はぁ。すごいねぇ。……あとさ、たとえ会いに行っても、マリ王は姉ちゃんが『神からの贈り物』・バビル王の女だってわからないんじゃないの? 急に知らない女が『神からの贈り物です〜ヤバい兵器があるのでバビルと協定結んでください〜』ってきたら、だいぶアレよ?」


「……ヤバい宗教勧誘だと思って追い返すね……」

 

「ていうかさ、わざわざマリまで遠出しなくてもさ、その兵器?を壊せばいいじゃん。それか、所有者? を殺せばいいじゃん」


 本当にバカだねぇ、とでも言いたげにおじさんが大きなため息をつく。おじさんにバカにされるとなんかムカつく。


「それができたら苦労しないんだよ……」

 

 アレはどうみても物理的に倒すのは難しそうだし。それにウルさんのいうことしか聞かないらしいから、ウルさんにも下手に手を出せない。


「……ハッ!おじさん、ギルガメシュXをこの世の果てに運んでよ!捨ててきて!」


 おじさんが目を細めてジットリ睨んできた。


「なーに言ってんの。無理無理。俺1人でそんな物騒な兵器運べると思ってんの? 神じゃないんだからさあ」


「ダメか」


「ダメに決まってるでしょ。……ならさぁ、姉ちゃんさぁ、マリに知り合いいないの? 王に姉ちゃんを紹介してくれそうな人間。マリの知り合い」


「マリの知り合い…………」

 

 おじさんの言葉に、1人の男の顔が浮かんだ。


「…………いる。1人いるんだけど……あの人嫌い。蛇に食べられに行くようなものだし。すごく嫌い」

 

 おじさんが腕を組み、偉そうに言う。


「好き嫌いの話じゃない。交渉なんだから。交渉する価値のある相手なのかが問題だ。相手をどう動かすか、それは姉ちゃん次第だよ」


「…………」

  

 ……交渉する価値?

 

 考えてみれば……ヤリム以上の適任はいない。マリの高官で、「バビルの秘密兵器」の存在を知っている。それが使われないようにするために陛下の暗殺を企てたとも言っていた。


 それに、本音かはわからないけど、マリとバビルが戦争するのに反対だとも言っていた。


「うーん……」

 

 ……これしか、ないか。それが私の頭で考えられる、精一杯の最善策のように思われた。

 

 うん。ヤリムに話してみよう。私自らマリへ行けば、敵国の女が単身乗り込んでくる異常事態、本当にヤバいんだってわかってくれる……はずだ。そう信じたい。

 

 最悪、何も信じてもらえず、ただマリ王に突き出されて殺されるかもしれないけど……


 その時は……


「…………おじさん、ちなみにおじさんにお仕事依頼したい時ってどうしたらいいの?」


「基本はシッパルの酒屋で依頼を受けてる」


「ザルさんが言ってたところか。……シッパルまで行くのが難しい時は?」


 おじさんは腰に手を当てる。

 

「えーー? なに、嬢ちゃんもしかして、『マリで捕まったら私を助けて!それでエシュヌンナの陛下の元へ運んで!』とか言い出すつもり?」


「うん。だめ?」


 おじさんは目をつぶりながらその場で2周、くるんと回った。


「まーー……届け先がバビル王なら支払いは確実か……。いいよ。じゃあ……合言葉は『アトラハシス』。そう呟いたら一度だけ迎えに行ってやるよ。お得意様特典でな」


「なにそれすごい。どういう仕組み?!」


「企業秘密だよ」


 ニヤリと口角を上げるおじさん。妙にイラっとくる。


 ……まぁ……血糸馬(チートバ)とか持ってるくらいだし、もしかしたらおじさんはチートな特殊能力を持っているのかもしれない。そういうことにしておこう。


 ーーノアは考えるのをやめたーー


「じゃあよろしくね。それでおじさん、まずは私をマリの外交官・ヤリム・アッドゥのところへ連れて行って!……って、ヤリムの居場所わかる?」


 おじさんはニッと笑う。


「もちろんわかるぜ。俺はプロフェッショナルだからな。……まぁ見てなって」


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