さよならスローライフ ③
「一般的な話だよ!一般的に言って、ってこと!」
「……陛下が女にトラウマなのに、俺が妻をもらうわけにはいかないだろ。それに俺は戦場で死ぬ身だから。残される家族が不憫だ」
「な、なるほど」
「でも……『神からの贈り物』が微笑んでくれたら、戦場でも生き残れる気がする」
「はいはい頑張ってね」
「陛下の次に、俺の武運を祈ってくれ」
頬に、チュッ。
なんだコイツ。
「……もう村を出たから恋人のフリは終わりだよ……?」
「いやだ。もっとシたい」
「おめえ、陛下に殺されっぞ?」
(CV.野○雅子さん)
◇◇◇
川沿いに南下し、ラピクムという街についた。
長年エシュヌンナ、マリ、バビルが奪い合ってきて、今はバビル領の街。
ついにバビルの領土内に帰ってきた……!
陛下の古い知り合いだという知事がいるらしいので、陛下へ無事を伝える早馬を出してもらい、ついでに休ませてもらおうと街に入る。
馬を引きながら、2人歩く。
もちろん初めて訪れる街だが、なんだか騒々しく感じる。ムトが険しい顔になっている。
「……軍が来ているな」
「軍? 駐在している軍だけじゃなくて?……まさか陛下がここに来てる?!」
「……どうだろう」
まさかこんなところで陛下に会える?!陛下、心配してこっちに来てくれたり……なんてことがあるのだろうか?!
胸を弾ませながら知事の屋敷に向かう。
警備をしていた兵は、ムトの顔を見てすぐに門を開けてくれた。さすが将軍。私のことはたぶん、小姓かなにかだと思ってそう。
知事のお部屋はこちらです、と兵に案内され、屋敷の中へ。
「……警備兵、ひとつ聞きたい。ここにバビル軍が来ているな? 誰が率いている? 陛下か?」
「ハッ!お答えします、ムト将軍。陛下ではなく、殿下率いる部隊がおいでです!」
警備兵が敬礼して答える。ムトの顔がこわばった。
「殿下?……殿下って、イルナ王子のこと?」
陛下じゃないのか。ガッカリしながら聞くと、警備兵がまた元気よく答える。
「ハッ!イルナ殿下が、マリ討伐のために兵を挙げたのです!」
「な……!それは……陛下のご指示か?」
「そ、そこまでは自分にはわかりません!」
「陛下は今どこにいらっしゃる?」
「まだエシュヌンナにいらっしゃると聞いています!……では自分はこれで!」
警備兵は深く礼をして、立ち去った。
いつのまにか屋敷の奥、立派な部屋の戸の前に来ていた。
この扉の向こうに知事と……イルナ王子もいるのだろうか。
ムトと目を合わせる。ムトの目は険しい。
そして不安げに口を開く。
「……ノア、ここを出よう。イルナ殿下が1人で挙兵されるとは考えにくい。陛下がそんな指示を出すとも考えにくい。……殿下の後ろ盾がここにいる可能性が高い」
「後ろ盾…………え!? そういうこと?!」
――イルナ王子の後ろ盾。
子のできない陛下に養子を取らせ、ゆっくりじっくり王家を乗っ取ろうとしている、王子のご実家の怖い方々。私は邪魔者と認識されており、毒を盛られたこともある。
そういえば会ったことはなかった。
まさか、ここにきて突然のラスボス戦?!
「やだ怖い」
「行くぞ。……こっちだ」
ムトが手首を掴み、来た道を戻ろうとする。
その時だった。
「ムト将軍?」
目の前に、イケおじが立ちはだかった。
褐色の肌に、黒くウェーブのかかった少し長めの髪。彫りの深い整った、品のある顔立ち。
その人が向けてきた瞳はサファイア色だった。ーーイルナ王子の家系の証。
はっと息を飲み手首を掴む、ムトの手に力が込められた。




