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ふつかめのよる ②

「…………なんの真似だ…………」


「白目です!」


「白目……だな……」


「上手でしょ? 下瞼を思いっきり引っ張ると、こうやって綺麗な白目ができるんです」


「……あぁ……綺麗だ。綺麗な白目だ……」


 おそらくこれまでの人生でこんなに至近距離で白目を披露される経験なんてなかっただろう陛下は、戸惑いすぎておかしくなったのか逆に感心してくれた。

 

「……聞きました。陛下が女性にトラウマがあること」


 そう言って白目を解除すると、目の前には眉をひそめる陛下。


「…………誰から聞いた?」


「サーラさんやムトさんからです。皆さん、陛下のことをとても心配していました。……昨日陛下が首を絞めてきたのも、きっと無意識のうちの、体の拒否反応なんですよね。陛下の心の傷はそれほどまでに深いのですね」


「…………」


「そこで私、考えました。どうしたら陛下と私、無理なく利害を一致させられるか。……陛下は私を利用したい。神からの贈り物を賜ったと、神に愛されている王だと国中にアピールしたい。でも陛下は女がお嫌いだし、できれば私と触れ合いたくない。とはいえ神からの贈り物と不仲を疑われたくないし、放っておくこともできない。正直扱いが面倒くさい。そうでしょ?」


「…………」


「一方私は、突然この世界に身ひとつで来てしまって、行く当ても頼れる人もいない。ひとりでは生きていけない。でも陛下の妻でいればひとまず生活はできそう。だから私は陛下のそばにいたい。私たち、お互いを必要としているという点は一緒だと思うのです」


「なるほど。なら……お前は黙ってお飾りの妻をしてくれればそれでいい」


「そんなつまんないのは嫌です!嫌です、どうしても」


「つまんない??」


「えぇ、仮面夫婦なんてつまんないです。最悪です。せっかくご縁があって夫婦になるんだから、陛下とちゃんと仲良くなりたいです。でも女が苦手な陛下にご無理はさせたくない。だからまずは私に慣れていただくのがいいと思うんです。そのために二人でいる時は私のこと、男だと思うようにしてください」


「…………ん……??」


「男、私は陛下の男友達です。私たちの関係は男友達から始めましょう!そこから徐々に慣れていけばいいんです」


「…………」


 陛下の目が、何を言い出すんだこいつは、と言っている。でも負けない。


「ね、陛下、練習してみましょう!いいですか、私は今から陛下の男友達ですよ。男友達ですからね。…………な……なぁラビ、女官の中で誰が一番タイプ?」


「…………」


 枕を抱え、修学旅行の夜的な会話を持ちかけてみる。陛下の顔は真顔のまま固まっているが、でも負けない。


「なぁラビも教えろよ。俺はさー、やっぱりサーラかな。胸デカいし。仕事できるいい女って感じだしよー。でもアーシャの子猫ちゃんみたいな雰囲気もいいよなー」


「バカなのか……?」


「ば、バカじゃねーし!男だし!」


「…………」


 ラビ陛下はいつのまにかなんだかものすごく残念なものを見る目になっている。でも負けない……いや、これは負ける……


「……やっぱりダメですかね……昔私、男だったらまあまあイケメンになりそうな顔だよねって言われたことがあって、だから男役いけるかなって……」


「いけねぇだろ……」


「……髪を切ったらいいですかね? ちょっと切ってみようかな。陛下、お腰の短剣貸してください」


「貸すか!落ち着け!」


「落ち着いてますよ!」

 

 この作戦はお気に召さなかったのだろうか。陛下はガバッと起き上がり、右手で頭を抱えだす。


「……お前がよくわからない……」


「……混乱させてすみません……女嫌いの人と仲良くなれる方法を頑張って考えたんですけど、私の貧相な頭ではこれしか思いつかなくて……」

 

 肩をすくめて陛下を見ると、顔を隠す腕の間から、上目遣いの、どこか怯えたようなエメラルドの瞳がのぞいていた。


「……あんなことをされて、俺と……仲良くなりたい? 怖くないのか?」

 

「正直怖くないわけじゃないですけど、でもそれよりなにより、夫婦になるんです。避けてはいられません」


「表面上だけでいいと言っている」


「そんなの寂しいです。私、陛下といっぱい仲良くなりたいです!」


 そう答えると、陛下は口を半開きにし、緑色の目をまん丸にして、固まった。


「……」


 イケメンの全力のキョトン顔!これは希少だ。なんだかおかしくて思わず口が緩んでしまう。


「……ふふ。陛下、きれいな顔がとっても可愛いことになっています」

  

「あ?!……いや……んん……」


 陛下はなぜか目を高速で泳がせ始め、そしてぐるんと背を向け再び黙り込んだ。


「……陛下、どうしました?」

 

 あぐらをかいて座る、少し丸まった広い背中に声をかける。が、返事はない。仕方なく近寄り横から顔を覗き込むが、ふいっと顔を逸らされた。しつこく覗き込みやっと顔が見えたが、陛下の唇はへの字、眉はハの字、さらに面白い顔になっていた。


「陛下? それはどういうお顔ですか?」


「……見るな」


「ん? ……照れてる? もしかして照れてます? なんで照れてるんですか?」


「照れてない!」


「照れてるじゃないですか!もしかして……陛下も私と仲良くなりたいって思ってくれたんですか? やだ嬉しい〜」


「う、うるさい!……風呂を浴びてくる!」


「あ……はい、行ってらっしゃい!お戻りになったら話の続きをしましょう!どうしたら私と陛下が無理なく仲良くなれるか、一緒に考えましょう!」


「戻らない!俺は別の部屋で寝る!」


「え!なんで?!」


「いいから!さっさと寝ろ!」


 そう吐き捨てて、陛下は部屋を大股で出て行ってしまった。残された私は、ポツン。


「……な……人が一生〜懸命考えてるっていうのに!」


 まったく、私の陛下はお取り扱いが難しい。

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