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神の裁き ③

 内心バクバク慌てていると、ヤリムの部下達がムトを河岸に引っ立てはじめた。ムトの体を縛る縄が解かれる。口の縄はそのまま。


 だが手足は自由になったものの、すぐに腹を何発も殴られ足を蹴られ、ムトは苦しげに顔を歪めた。


「ムト!……ちょっと!これ以上ムトにひどいことしないで!」


 ムトに近寄ろうとしたが、ヤリムに腕を掴まれ止められた。

 

「これからムトさんを川に投げ入れます。でも屈強なムトさんや。少しくらいハンデをつけてあげないとフェアじゃないやろ?……あ。酒場でお二人に飲ませた毒を飲ませて川に放り込むのも面白いかもなぁ」


「ふざけないで!」


 声を上げると、ヤリムに腕を引っ張られた。

 

「ま、もしノア様がいいご提案をしてくださる言うなら、ムトさんの裁判は考え直してもいいですけど」


 耳元でそう、囁かれた。

 

 思わずムトを見た。


 まっすぐ返されたムトの眼差しは、絶対にそんなことはするなと言っていた。


 ……どうしよう。


 私がこの人の言いなりになれば……ムトは助かる? ほんとに? その保証はある?


 ヤリムは離れ、部下に例の毒を持ってくるよう指示をした。


「だ、だめ……やめて」


 咄嗟に袖を引っ張ると、ヤリムは嬉しそうに振り向いた。


「お、ノア様。前向きに検討してくださいました?」


「国会答弁じゃないんだから……とにかく……ムトを助けて。検討したから」


「ですってムトさん! よかったなぁ! ノア様が身を(てい)して助けてくれるって!」


 ムトは首を必死にブンブン振る。


「……ムト……ムトを危ない目に合わせたくない。ムトは大事な人だもん。少しでもムトが助かる可能性があるなら、私はそうしたい」


「ンー!ンー!!」


 ムトの目は、ダメだ、やめてくれ、と叫んでいる。悲痛を浮かべている。

 

 でもこれで、ムトが助かるなら……陛下には悪いけど、それで救われるのなら……


「ノア様、大丈夫ですよ。怖いことはなんもありません。……この時期は川も増水してるし、何より水は冷たいし、神もなかなか手放してくれませんからねぇ。賢明なご判断や。……じゃ、早速ヒートの町に行きますか!」


「……うるさい。今は触んないで」


「あららぁ、そんな怖い顔せんでも。……でも泣かせますなぁ。ノア様は部下思いやなぁ」


 ヤリムが泣き真似をする。コイツほんとブン殴ってやりたい。あとで絶対殴る。整った顔が憎らしい。鼻折ってやる。

 

 …………と、神に誓ったその時。


「……痛!!」


 ゴツン、と鈍い音がして、ヤリムが後頭部に手をやり後ろを振り返った。

 

 アーシャちゃんが石を手に、肩を弾ませて立っていた。石でヤリムに殴りかかったのだ。ヤリムに憎しみの目を向けている。


「卑怯者!!卑怯者!!」


「……アーシャ。それは痛いわ」


「卑怯者!!」


 アーシャちゃんがまた殴りかかろうとして、ヤリムの部下に取り押さえられた。


 ――離して!殺す!!……アーシャちゃんは叫ぶ。部下は太い腕でアーシャちゃんの首を絞める。可愛らしい顔が苦痛に歪められる。


「やめて!アーシャちゃんに乱暴なことしないで!」


 ーーそんな私の叫びは、何事もなかったかのように流されて、「神からの贈り物」がとことん無力であることを思いしらされた。


 私はただ、その光景を見ていることしか出来なかった。戦場にいる時と同じように、人が苦しむのを眺めることしかできなかった。


 私は守られてばかりだ。

 ひとりでは何にもできないーー


 視界には、ゴホゴホ咳き込みながら地面に倒れ込むアーシャちゃん。


 動こうとしたムトは、また激しく蹴られて顔を歪めていた。

 

 ーープツン。


 糸が切れた音がした。



「…………もう、いい」


「……ん? ノア様?」

 

「もういい。私がやる」


「へ?」

 

「私が飛び込む。私がムトの代わりに神の審判を受ける!だって私は『神からの贈り物』だから!」


「は?……ちょ、ちょっとノア様?!」


「だから絶対に2人を解放して!絶対に酷い目に遭わせないで!じゃなきゃ呪うから!とんでもなく呪うから!あんたの末代まで呪ってやる!」


 口が勝手に動いて、足が勝手に走り出していた。


 体は審判の水面へむかっていた。


「ちょ、死にますって!!ノア様!!戻って!!」

「ノア様ーーー!!」


 背中に声が刺さるが、走り抜けた。

 そして地面が途切れたその瞬間、世界がスローモーションに見えた。


 神様、仏様、ライル様!!

 どうかお守りください!!

 

 ーー遠のいていく空、虚空を掴もうとする無様な手。


 そういえば。


 ここら辺、水深どのくらいあるのだろう? 結構深め?


 それに……泳ぐなんて、高校のプールの授業以来じゃない? 川で泳いだことなんてなかったなぁ……流れるプールみたいなもん?

 

 そしてすぐに、

 バシャン!ブクブクブク……

 

 ーー無数の泡、冷たい水に包まれる。


 どこからか無数の手が伸びてくるようで、

 うまく息が吸えなくなって、

 ゆらめく明るい水面が離れていって、

 暗い水の底へと引きずり込まれていく。

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